第14話 未来を一緒に①(強行)

「トレモイユ伯には、奴隷を切り刻み、地下室で禁じられた黒魔の儀式をしている疑いがある! 証拠隠滅をはからせないため、これより即座に屋敷地下を改める!!」


「────!?」


(ど、どういうこと???)


 確かにアーレことトレモイユ伯爵には黒い噂があった。

 ただ、噂は噂に過ぎず、いきなり騎士団が押しかけ、屋敷のあるじの許しも得ずにこんな強行をするなんて有り得ない。


 騎士たちは、彼らを押しとどめようとする使用人たちを払って、どかどかと厨房から地下への入り口へと踏み込んでいく。


 エマは、人の輪のもとへ急いだ。


「奥方様!」


 エマに気づいたひとりが言う。


「伯爵様へお知らせは?」

「門を破られた際、マルクが走っております。いまお伝えしているかと」


(門を破った?)


 その言葉にギョッとするが、アーレにはすぐ伝わる。


 頷いて、エマはどうすべきか迷った。


 見守る? やましいことなどない。地下に儀式跡がないと判明すれば、彼らも大人しく引くはず。


 そう両手を握りしめたエマの横で、誰かの囁きが聞こえた。


ニセの証拠を捏造する気じゃないだろうな」

「ああ、有無を言わさず、中に入ったものな」


(!!)


 公平であるべき聖教騎士団がそんなことをする? でもこの事態こそ異常だ。

 すでに力で止めようとしただろう使用人たちが幾人か怪我を負い、侍女たちも震えている。

 看過できない。


 エマは、自分の倍以上の体積を持つ、巨躯な騎士を見据えた。

 一段と立派な身なり、彼が指揮官に違いない。


「おやめください!! 何の許可もなく、突然無礼ではありませんか!」


「なんだ?」


 明らかに舐めきった視線を騎士が寄こした。エマの手にあるカゴとらえて言う。


「我らは聖教会の任を遂行している。下女風情が口を出すな」


「下女とは礼を欠いた発言! わたくしはトレモイユ伯爵の妻で、この家の女主人です! 然るべき礼儀を守ってください」


 エマはひるまずに声を張った。


 最近結婚したばかりの身で、"女主人"を名乗るのはおこがましいが、騎士の態度は目に余る。

 貴族の端くれとしても、アーレが来るまで自分が騎士たちを抑えなければ。

 

 エマの言葉に眉をひそめた騎士は、すぐに何か思い当たったらしい。口元を品なく歪めながら、言い放った。


「ああ、老伯爵が貧乏男爵から買い取ったという娘か。女主人を名乗れるのも今だけだ。伯爵家の罪は露呈して、すぐにその地位を失うことになるだろうから、夫と路頭に迷う準備でもしておくんだな」


 過ぎる言葉に、さすがにエマが憤りを感じた時だった。


「わああああああっ!!」

「バ、バケモノ──!!」


 厨房から、騎士たちが転がるように飛び出てきた。

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