第七話

 あのときあなたが悩んでいた意味、今ならわかるよ。床に散らかった端材のかけらや木くずを見下ろしながらため息をひとつ、このどうしようもない現実に堪えずにいられなかった。いくら削っても切っても磨いても、生まれない、ひかりが見えない。木材は引き算でしか加工できない。手を加えたら最後、二度ともとの大きさに戻らない。接着剤で繋げることはしたくない。仮にそれをしてしまったら、僕の理想とする造形が足もとから崩れさってしまう。黙々と、テレビもラジオも切った深夜の六帖一間に、木材を削ぐ音とヤスリを当てる音が堆積していく。葉脈に似た皮膚のしわを思い描き表面に刃をいれる。いびつな、でも奇跡的な丸みをもとめて愛でるように撫でていく。時折秒針のかたむく音がする。妙に静かだ。まるでマンションのなかでこの部屋だけがなんらかの作用で隔離してしまったように無音が澄んでいる。こんなとき僕には孤独を愛せる素質があると自覚する。午後十一時、部屋の中央にすわる僕を囲むニセモノの人形たちが、新たな仲間の誕生を今か今かと囃したてるように視線を結んでいる。僕の手はすっかり止まってしまったけど、脳裏に沸き立つ、かすかな想像のふくらみを止めるすべはなかった。本物をつくるためには本物の素材が必要だ。ともに家族を生み出してきた相棒のナイフを手にしたまま完成した女神への想いを抱き、木くずにまみれた床でしずかにまぶたを閉じた。

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