後日談 私たちの幸せ
リクエストをいただいたので、後日談を書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が4人に告白をしてから一年と少しが経った。
私と愛華、そして優香の三人は高校を卒業し、今はそれぞれ大学や専門学校に通っている。
一年前に高校を卒業した瑠花は、寧々と同じ大学に進学した。
優香は幼い頃から習っていたピアノを専門的に習いたかったらしく、音大に進学。
愛華はファションに興味があるらしく、ファッションデザイナーの専門学校に進学している。
そして私は、みんなに料理を作ることが楽しかったので、調理師の専門学校へと進学した。
最初はみんなで寧々がいる大学に進学することも考えたが、それぞれやりたいことや目標があったし、何よりこれまで自分たちで道を決めてきた私たちが、今さら誰かに合わせるのも違う気がしたため、それぞれの道へと向かうことにした。
ただ、幸いにもみんなの通う場所が都内で済んだため、だいたい中間となる場所に五人で住める場所を借りて生活している。
朝は専門学校の私と愛華が忙しく、私はみんなの分の朝食を作るので手一杯になる。
愛華はその間にみんなのことを起こして回るわけだが、この時に大変なのが瑠花だ。
瑠花は朝がめっぽう弱いため、なかなか起こすことができない。
これは私が高校生の時から変わっていないことなので、そんな彼女を私は微笑ましく思いつつも、たまに愛華からいつも苦労して起こしている話を聞かされる。
「ほら瑠花!早く起きて!愛那のご飯覚めるよ!」
もはや恒例になりつつある愛華と瑠花のやり取りは、聞いているだけでも私のことを幸せな気持ちにさせてくれる。
(一年前まで、みんなでこうして生活できるなんて思わなかったな)
あの頃は、みんなとの関係に悩んでいたし、もしかしたらもう会えなくなることも覚悟していた。
しかし、今はこうしてみんなと一つ屋根の下、毎日楽しく生活することができている。
本当に幸せな毎日だと思いながら、私はみんなに告白をしてから今日までのことを振り返る。
みんなに告白をしたあの日以降、私とみんなの距離感が変わった。
愛華と優香、そして瑠花先輩の三人は、学校でも私といる時間が増えていった。
とくに愛華と瑠花先輩の変化はすごく、愛華は友達よりも私といる時間を増やすようになった。
「愛華、友達はいいの?」
「大丈夫。愛那と一緒にいたいからって離したら理解してくれたよ。
なんか私が愛那のことを好きだってこと、女の子たちは薄々気づいてたみたい」
詳しく話を聞いてみると、愛華が私のことを視線で追っているのを何度か見たことがあったらしく、もしかして?とは思っていたらしい。
そのため、愛華が私といたいと言っても、みんな快く許してくれたそうだ。
そして瑠花先輩は、もう直ぐ高校を卒業して大学に行ってしまうため、私といられる時間が減ってしまうからと、時間を見つけては私のいる教室に来るようになった。
最初こそ他のクラスメイトたちも戸惑っていたが、一週間もすれば周りも慣れてしまい、逆に同級生のようにクラスに馴染んでいた。
そのせいか、彼女が卒業する時にはガチ泣きしている人たちも多く、それだけ彼女が好かれていたということが窺える。
(まぁ、瑠花先輩はとくに何もしてなかったけど、見た目はすごく可愛いからね)
逆に優香はとくに変わったところはなく、いつもと変わらず私と接してくれていた。
しかし、彼女が一番独占欲や嫉妬が強いため、私が愛華や瑠花先輩と寧々さんのことを構いすぎると、彼女が私を抱きしめて離してくれなくなる。
(まぁ、そんなところも可愛いんだけど)
そして最後に寧々さん。寧々さんは自分が可愛いものが好きで、本当は女の子らしい格好をするのが好きだとみんなに打ち明けた。
みんなはそんな寧々さんの告白を否定することはなく、むしろ可愛くて良いとか、今度ぬいぐるみでも買いに行こうと話をしていた。
寧々さんはみんなが受け入れてくれたことが嬉しかったのかその場で泣いてしまったが、その時は四人で寧々さんのことを抱きしめてあげたりもした。
それからさらに少したち、瑠花先輩が高校を卒業すると、私たちは五人でお花見に行った。
当初の予定では、寧々さんと私の二人で行く約束をしていたが、寧々さんがみんなで行こうと言ってくれたので、五人全員で行くことになった。
「寧々さん運転上手ですね」
「ありがとう。でも、みんなの命を預かってると思うと、少し緊張してくるよ」
「寧々は考えすぎ。私が免許を取ったら、次は私が愛那を連れていく」
「ちょっと瑠花先輩!何ちゃっかり愛那と二人だけで出かけようとしてるんですか!」
「瑠花先輩。二人だけで出かけられると思うなよ?」
私は助手席に座っており、後ろに愛華と瑠花先輩と優香の三人が座っているが、この三人はいつも通り言い争いをしている。
けど、別に仲が悪いとか険悪なわけではなく、これが三人のコミュニケーションの取り方であり、本人たちもどこかこのやり取りを楽しんでいるところがあるため止めたりはしない。
「みんな、あと少しで着くよ」
寧々さんがそう言ってから数分ほど車を走らせると、綺麗な桜の木が見えてくる。
駐車場に車を停めると、私は持ってきたお弁当を持ち、みんなでどこか座れる場所は無いかと探して回る。
すると、ちょうど空いている場所があったので、私たちはそこにシートを敷いて座り、私と寧々さんがそれぞれ作ってきたお弁当を並べていく。
「美味しそう」
瑠花先輩は並べられた料理を見て瞳を輝かせており、愛華と優香も早く食べたそうにしていた。
「それじゃ、食べようか。いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
私の言葉を合図に、各々食べたいものを取り皿に乗せて食べていく。
私は主にサンドイッチや唐揚げ、卵焼きなどのおかずを作ってきて、寧々さんはおにぎりやスープなどを持ってきてくれた。
みんなお腹が空いていたのか、作ってきたものはあっという間に無くなり、私たちは桜を見ながら飲み物を飲んでまったりする。
「たまにはこういうのもいいね」
「あぁ、悪くないです」
寧々さんの呟きに、優香は感慨深そうに言葉を返す。
「眠い…」
瑠花先輩は朝が早かったせいか、眠気で少しふらふらと揺れており、倒れないか心配になった私は、彼女の手を引いて自身の膝に寝かせてあげる。
「あ、ずるい」
「家に帰ったらしてあげるから…ね?」
愛華が羨ましそうに瑠花先輩のことを見ていたので、帰ってから彼女にもしてあげることを約束し、私も上を向いて桜を眺める。
(はぁ。幸せ…)
みんなといる時間は本当に楽しくて、毎日が特別で幸せだと感じる。
この気持ちがみんなも同じであることを祈りながら、私たちは満足するまでお花見を満喫するのであった。
それからの一年間は、本当に充実した一年となった。
高校3年生になった私たちは、高校生としての最後の思い出作りのため、五人で色々なところに遊びに行った。
海やキャンプ、夏祭りや紅葉を見に行ったり、いちご狩りなどにも行ったことがあった。
その間にも、各々の進路に向けて勉強などをしなければいけなかったため忙しくはあったが、それでも充実した一年だった。
そして、私たちの卒業が近づいた時、卒業旅行も兼ねて、前に瑠花先輩と二人で行った蔵王に五人で旅行へ行った。
季節は2月ごろで、ちょうど前にみた樹氷が最も綺麗な時期だった。
夜に見に行った樹氷は綺麗にライトアップされており、前に見た時は木の形が分かる状態だったが、今回は木の形もわからないくらい面白おかしい形に変わっていた。
これには私もみんなも驚いてしまい、改めて自然の凄さを目の当たりにするのであった。
最後に高校を卒業する時、私たちも無事に進学するということで、みんなで一緒に住もうという話になった。
ただ、それには各々が両親に話をしなければいけないため、まずは私と愛華の両親に3人のことを紹介した。
「おぉー、凄いな。みなさん。二人のことをよろしくお願いします」
「あらあら。こんなに素敵な子たちが家族になるのね。娘がいっぱい出来たみたいで嬉しいわ」
二人は私たち五人のことをすんなりと受け入れ、お母さんに関しては娘が増えたと喜んでいた。
さすがに否定されると思っていた私と愛華は、何故そんなに簡単に受け入れてくれたのか尋ねると…
「お前たちの苦労は知ってるからな。それなら同じ人たちと助け合って生活していったほうがいいだろう?」
「あなたたちが幸せなら、私たちは二人の考えを尊重するわ。これまで大変だった分、幸せになって欲しいのよ」
二人の言葉を聞いた私たちは、思わずその場で泣いてしまったが、誰も止める人はいなかった。
お父さんとお母さんはそんな私たちを抱きしめると、泣き止むまでそばにいてくれたのであった。
次に優香のご家族へ挨拶をしに行ったが、こちらもすんなりと受け入れてくれた。
「優香は昔のことがあったからな。こういう可能性も考えてはいたよ」
「えぇ。それに、愛那さんが家に来た時は本当に幸せそうだったもの。母親として、ちゃんと気づいていたわ。
ただ最後に…優香、本当にこの選択でよろしいのですね?あなたに後悔はありませんか?幸せになれそうですか?」
「大丈夫です、お母様。私に後悔はありませんし、この五人でなら幸せになれます。いえ、すでに幸せです」
「そうですか。ではみなさん。優香のこと、どうかよろしくお願いいたします」
「「「「はい」」」」
優香の両親も、彼女の幸せを一番に願っていたようで、すぐに許してくれた。
次は寧々さんのお母さんに挨拶に行った。彼女のお父さんは単身赴任で海外にいるらしく、残念ながら会うことはできなかった。
「そうですか。寧々、本当に大丈夫かい?あんたは高校の時に酷い目にあっただろう?それなのにまた女の子と、それも自分一人だけじゃないなんて。本当にやっていけるのかい?」
寧々さんのお母さんは、彼女が高校時代の恋人に傷つけられたことを知っているようで、同じことにならないかと心配しているようだった。
「大丈夫だよ、お母さん。あたしは今が幸せなんだ。それに、ここにいるみんなは素のあたしを受け入れてくれた。可愛いものが好きなあたしを否定する人はいなかった。
だから大丈夫。心配してくれてありがとう」
「…わかったよ。なら、好きにしなさい。私もあんたには幸せになって欲しいからね。お父さんには私から言っておくよ」
「ありがとう、お母さん」
寧々さんのお母さんからも無事に許可をもらえた私たちは、ホッと一安心した。
そして最後に瑠花先輩のお父さんに挨拶をしようと思ったのだが、どうやら私たちに会うつもりはないらしく、瑠花先輩がメッセージで私たちのことを伝えた。
『好きにしなさい』
返事はそれだけで、瑠花先輩には本当に興味がないようなその文章にみんなが彼女を憐れんだが、それから少ししてまたメッセージが届いた。
『困ったことがあれば言うように』
どうやら瑠花先輩のお父さんも少しは彼女のことを気にかけていたようだが、それでもこれまで彼女を蔑ろにしてきたことが許されるわけではない。
ただ、こうして無事に各自の親から許可をもらい、晴れて高校卒業後はみんなで暮らすことができるようになったのであった。
「んん〜。愛那ー、愛華がいじめるー」
「いじめてない!瑠花がなかなか起きないのが悪いんでしょ!私は起こしただけだから!」
瑠花と愛華のいつものやり取りで、自分が朝食を作っていたことを思い出した私は、テーブルの前にいる二人の方に意識を向ける。
「愛華、起こしてくれてありがとう。瑠花、おふざけはその辺にして、みんなのお皿をテーブルに並べてくれる?」
「いつものことだしいいよ」
「わかった」
愛華は少し嬉しそうに言葉を返し、瑠花は返事をすると料理が盛られたお皿をテーブルへと運ぶ。
「おはよー」
「私たちが最後か」
テーブルに料理を並べ終える頃、寧々と優香の二人も起きてきて各々が席へと座る。
「みんなおはよ。それじゃ、今日も頑張っていこう。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
高校2年生の時、大好きだった愛華に振られて出会った私たち。それぞれが心に傷を負い、悲しみに耐えてきた。
そんな私たちが出会って支え合い、そして恋をして掴んだ幸せ。
愛華と二人だけだった世界は、いつしか多くの人と関わり広くなっていき、今では多くの人たちに支えられて生きている。
(この先もずっと、みんなで幸せに暮らしていこう)
そんな素敵な未来を想像しながら、私は愛しい四人を眺めて、今日も一日頑張ろうと思うのであった。
すれ違う双子は近くて遠い 琥珀のアリス @kei8alice
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