私の気持ち
愛那が彩葉に相談をしていた頃、愛華と優香、瑠花と寧々の四人が学校近くのカフェに集まって顔合わせをしていた。
「今日は集まってくれてありがとうございます。まずは初めてお会いする方もいるので、軽く自己紹介をしましょうか。私は愛那の双子の姉、姫崎愛華です」
「愛那と愛華の幼馴染、佐伯優香だ」
「愛那の女。望月瑠花」
「待て瑠花。お前まだ愛那と付き合ってないだろ。あたしは愛那のバイトの先輩で、茨木寧々。よろしく」
この四人が集まったのは、愛華が現在ライバルである三人と会いたいと思ったため、瑠花に頼んで寧々を呼んでもらったのだ。
「急に呼んだにも関わらず集まっていただきありがとうございます」
「まぁ、愛那に関することって言われたら来るしかないだろ」
「愛那の彼女だから来て当然」
「だからまだ付き合っていないだろ!」
一向に話しが進まなそうだったので、愛華が軽く手を叩いてみんなの視線を集める。
「今日みなさんに集まってもらったのは、他ならぬ愛那のことについてです。
私の勘ですが、おそらく愛那はそろそろ答えを出します」
「ほ、本当か?!」
「ついに私が彼女になる時が来た」
「愛那が…」
愛華の言った言葉に、三人は各々緊張や期待、そして少しの不安を滲ませながら言葉を発する。
「そこでですが、私からお話ししたいことは、誰が選ばれても恨みっこなしでいきましょうということです」
「それは当然だな」
「当たり前」
「もちろんだ」
「ご理解いただきありがとうございます」
みんな了承することを伝えはしたが、実際は違う。
例え選ばれなくても、誰一人として愛那から離れるつもりはなく、最悪別れた場合にはすぐにでもアプローチをするつもりで考えている。
もちろん愛那が幸せになることを望んでいるし、自分が彼女を幸せにするつもりでいるから、自分が選ばれた場合には絶対に別れるつもりはないと考えている。
「それと、これは愛那の姉としてですが、彼女のことを支えてくださりありがとうございました。
私が個人的な理由で彼女を傷つけてしまった時、みなさんのおかげで愛那が立ち直れたことは知っています。本当にありがとうございました」
愛華はそう言うと、三人に向かって頭を下げる。これは姉としてであり、大切な人を助けてくれたことへの心からの感謝だった。
「まぁ、私は当然のことをしただけだ。愛那のことは好きだったし、お前がいないならチャンスだと思ったからな」
「私も愛那が好き。好きな人を支えるのは当たり前」
「あたしも愛那には助けられたからさ。彼女のためなら何だってするよ」
理由や関係性は違えど、ここにいるみんなは愛那に助けられ支えられてきた者たちばかりだ。
だから愛那を好きだという気持ちだけで言えば、四人の気持ちは一つだと言える。
そしてその後、重要な話を終えた四人は、寧々を加えていつものように愛那との思い出自慢を始めるのであった。
それからしばらくして、そろそろお開きにしようかと話していた時、四人のスマホにメッセージが届く。
「愛那からだ」
優香がそう呟くと、他の三人も同じだったようで、一度視線を合わせてから頷く。
「愛華さんの言う通りだったみたいだね」
愛華はそろそろ愛那が答えを出すと言っていた。まさかその後すぐにこうして連絡が
来るとは思っていなかったが、四人は直感的に愛那が答えを出したことを悟った。
「それじゃ、私たちも行きましょうか」
愛華の言葉を合図に、四人は席を立ってカフェを出る。
(誰が選ばれてもとは言ったけど、愛那ならおそらくは…)
愛華は愛那がどんな答えを出したのかそう想像しながら、他の三人と一緒に待ち合わせ場所へと向かうのであった。
四人にメッセージを送った後、私はみんなと待ち合わせをした公園まで走る。
外はすっかり暗くなってしまったが、私は今伝えなければずっと伝えることができない気がして、止まることなく走り続けた。
公園に着くと、四人はすでに来ていて、街灯がみんなを照らしていた。
「ごめん、みんな。こんな時間に呼び出して…」
「大丈夫だよ愛那。それより、どうかしたの?」
私が謝ると、愛華が最初に声をかけてくれる。私は一度大きく深呼吸をしてから、みんなに集まってもらった理由話し始めた。
「みんなに話したいことがあって。それで集まってもらったんだ」
「そうか。それで、話って?」
優香は私が話したいことがあると伝えると、その要件について尋ねてきた。
「あのね。私、ずっとみんなとどうなりたいんだろうって悩んでたんだ。
最初は愛華のことだけが好きだったし、愛華といられるなら他はなにもいらないって思ってた。
でも、少し前に愛華から振られたと思って辛かった時、私を支えてくれたのは優香や瑠花先輩、そして寧々さんだった。
みんなと知り合って、私と同じように傷ついてきたことを知って、私が近くで支えてあげたいて思った。
みんなのことをどんどん知っていくうちに、私は三人に心が惹かれていった。
愛華以外でできた初めて大切にしたいと思えたのが三人だった。
でも、私は人を愛することが怖かったし、誰かと付き合って他の二人と関係が壊れることが怖かった」
私のこれまでの感情を、四人は何も言わずに聞いてくれる。
私は一度みんなのことを見渡してから、また自身のことを話し始めた。
「そんな時、愛華が自分の感情や悩みを話してくれた。
ずっと一人で悩んできた愛華は、私よりも辛い思いをしてきて、それでも私のことがずっと好きだったことを教えてくれた。
でも、愛華が辛かった時に私は愛華のことを考えずに自分の感情を一方的に伝えていたことを知って、私が愛華を好きになる資格があるのか分からなくなった。
それに、その時にはすでに愛華以外にも大切な人たちがいたし、余計に私はどうしたらいいのか分からなくなったの」
私はここで一度話を区切ると、大きく深呼吸をしてから瞳に覚悟を込めて最後の話をする。
「でも、数日間必死に考えて人にも相談して、ようやく答えが出せた。
最低な答えかもしれないけど、私はみんなのことが好き。
誰か一人を選ぶんじゃなくて、みんなとこれからもずっと一緒にいたい。
だから私は、みんなと恋人になりたい。ただこれは私の我儘だから、みんなが嫌なら振ってくれても構わない。
これが私の出した答えです。自分勝手で本当にごめんなさい」
最後に頭を下げた私は、みんなから答えが返ってくるのを待つ。
それは一秒が永遠のように感じられる時間で、私はドキドキしながら答えを待ち続けた。
「私は愛那が好き。愛那といられるなら何でも構わない。それに、愛那が私を愛してくれるならそれだけで幸せ」
最初に答えをくれたのは瑠花先輩だった。彼女はそう言うと、私に近づいてきて右腕に抱きついてくる。
「…はぁ。私も愛那が好きだ。だからお前と一緒にいられるならどんな関係だろうと気にしない。いや、さすがに私を愛してくれなくなったら気にするけどよ。
それに、一度は諦めた気持ちだ。それが受け入れてもらえるなら、私としても愛那と一緒にいたいよ」
優香はそう言うと、瑠花先輩と同じで私のもとへと来てギュと左腕を抱きしめた。
「あたしはもう愛那がいないと生きていけない。それに、最初に私に寄り添って支えてくれたのは愛那だ。
なら、今度はあたしが愛那に寄り添って支えないとね。あたしも大好きだよ」
寧々さんは愛おしそうに私の頭を撫でると、後ろに回って抱きしめてくれた。
「本当は、私だけを見て欲しかった。でも、一度愛那から離れたのは私だし、何より幸せそうな愛那が見れて嬉しいよ。
それに双子だからかな?何となくこうなる気がしてたんだ。
だから愛那がそうしたいなら私が近くで支えていくよ。ずっとね。愛してる、愛那」
愛華は少し恥ずかしそうに微笑んだあと、正面から抱きしめてくる。
「ありがとう、みんな。絶対みんなを後悔させない。幸せにするから」
「ふふ。幸せにするんじゃなくて、みんなで幸せにならないとね」
「そうだな。これからはみんなで支え合っていかないと」
「あぁ。それに、あたしは一番年上だからね。何かあれば頼ってくれ」
「私はみんなの中で一番になる。戦いはこれから。一番愛されるのは私」
瑠花先輩の宣戦布告のような言葉に、他の三人が反応して言い争いを始めるが、険悪というわけではなく、それをどこか楽しんでいるように感じられる。
私たちの関係を普通の人が見たら、理解できないだろうし、軽蔑する人もいるだろう。
しかし、私たちはもう普通や常識には囚われない。私たちは私たちが幸せになれるよう選択し行動していく。
この先どんな困難があろうとも、きっとこの五人でなら乗り越えていくことが出来るだろう。
いつか大人になり、五人で一つ屋根の下で楽しく暮らしていく。
そんな未来を想像しながら、私は愛しい四人を見て微笑むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これにて、本作は完結となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この後は、ノートの方にてお礼や今後について書きますので、よければそちらもよろしくお願いします。
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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