自然は凄い

 旅館を出た私たちは、樹氷を見にいく前にお昼を食べるため昨日と同じ場所を見て回っていた。


「何か食べたいのはありますか?」


「お肉!」


「またお肉ですか?昨日も食べたのに食べられますか?」


「大丈夫。お肉は飽きないから」


「わかりました」


 というわけで、近くで美味しい肉料理が食べられるお店を探していると、どうやら蔵王ではジンギスカンが有名なようで、そこで食べることを提案してみた。


「ジン…ギスカン。羊肉。そこに行こう」


 どうやら彼女は羊肉に興味を持ったらしく、即決でその店に向かうことになった。


「ジン♪ジン♪ジンギスカーン♪」


(瑠花先輩、めちゃくちゃテンション高い)


 初めて食べるジンギスカンがよほど楽しみなのか、瑠花先輩は珍しく歌いながら歩いていた。


 まぁ、歌っていてもあまり抑揚が無いので棒読みに聞こえるのだが、それもまた彼女らしくて良いと思う。


 それからしばらく歩くと、目的のお店へと着いたので、さっそくお店の中へと入る。


「ジンギスカンをお願いします。肉多めで」


 瑠花先輩はちゃっかりお肉多めで注文を済ませると、ウキウキしながら料理が来るのを待っていた。


 少しすると、店員さんは不思議な形をした肉を焼く機材を持ってくると、テーブルの上へと置いた。


 通常の焼き肉であれば、網に肉を置いて焼いていくのが一般的だが、目の前にある物は中央が高くなっており、端に行くにつれて低くなっていく山のような形をしていた。


「これは…」


「あ、使い方をご説明いたしますね!」


 店員さんは私たちがこの鍋?を初めて見たことを察してか、使い方を説明してくれるとのことだった。


 店員さんは注文したお肉と野菜を持ってくると、説明をしながらお肉や野菜を焼き始めた。


「まずは、全体的に油を塗っていきます。油が全体的に塗れましたら、野菜を鍋の端の方に囲むように置いて、最後にお肉を鍋の上の方に置いて焼いてください。

 こうすることで、ラム肉を焼いた時に出る油が鍋の下の方へと流れて行き、端に並べた野菜へと味が染みていき、より美味しく食べることができます。


 ただ、ラム肉はすぐに焦げてしまいますので、焼き過ぎにはお気をつけください。

 また何かありましたら、お声がけくださいね」


 店員さんは一通り説明を終えると、笑顔でテーブルを離れて持ち場へと戻って行った。


「すごいですね。ジンギスカン用の機材があるなんて初めて知りました」


「うん。私も初めて見た」


 お肉を焼くだけでなく、焼くことで生まれる肉の油を活かして野菜まで美味しく食べられる。すごく効率的で理にかなった機材だと感心してしまった。


 それから私は、お肉の様子をこまめに見ながら焼いていき、ちょうどいい焼き加減になったところで瑠花先輩の取り皿にお肉を乗せる。


 瑠花先輩はそれを嬉しそうにタレをつけて食べると、目を細めて幸せそうにしながら頬を押さえた。


「んん〜!美味しい」


 私も自分の分をとって一口食べると、お肉はとても柔らかくて少し甘みがあり美味しかった。


 次に野菜を食べてみると、ラム肉から溢れた旨味を野菜がしっかりと吸っており、野菜本来の甘さと肉の旨みが凝縮されていてこちらもとても美味しかった。


 その後も二人で初めてのジンギスカンを堪能したあと、満足した私たちは次の目的地に向かうためお店を後にした。





 次に向かうのは、今回の旅行で一番楽しみにしていた樹氷の観光だ。


 樹氷とは、特殊な気象条件のもと、霧状になった氷点下の水滴を含んだ季節風が、冷えた樹木や植物にぶつかることで瞬間的に凍りつき、成長していったものをいう。と、山形の紹介ページに書いてあった。


 また、風の当たり方などが要因で独特な形状になるらしく、別名スノーモンスターとも呼ばれているそうだ。


 私たちはその樹氷を見るため、今は蔵王温泉から乗れるロープウェイに乗っていた。


「楽しみですね、樹氷」


「うん。見たことないからすごく気になる」


 ロープウェイは少しずつ山を登って行き、景色はどんどん雪だけの白銀の世界へと変わっていく。


 そして見えてきたのは、本来であれば緑色の木があたり一面にあるはずの場所に、白い氷のようなもので覆われた木がいっぱいに広がる、美しい光景が目に入ってきた。


「すごい…ですね」


「うん…」


 自然の凄さを目の当たりにした私たちは、なんと表現したら良いのか分からず、ただ思ったことを口にすることしかできなかった。


 私たちが来た12月下旬は樹氷の初期と呼ばれる時期で、まだ木が水滴に覆われ始めたばかりらしく、木の形がよくわかる状態だった。


 これからさらに月日が経つにつれ、木を覆っている氷は成長して行き、木の形ではない独特なモンスターのような形になるそうだ。


 夜にはライトアップもされてすごく綺麗らしいが、時間の都合で昼間にしか来れなかったのは少し残念である。


 それから樹氷をしっかりと見たあと、写真を撮ったり感想を言い合ったりと良い思い出を作ることができた。


「今度来る時は、夜のライトアップも見ましょうね」


「ん。あとはモンスターにも会いに来る」


 次はいつ見に来れるかは分からないが、その時を楽しみにして私たちは旅館への帰路に着いた。





 町の通りに戻ってきた私たちは、旅館へ帰る途中にお土産屋さんを見つけたので、立ち寄ってみる事にした。


「いろいろありますね」


「だね。愛那の好きに見て回って良いよ」


「でも、それだと先輩は?」


「私はあげる人いないから。愛那についてく


 確かに彼女には、私以外に特別親しい人がいるわけでもなく、せいぜいバイトの人たちと多少仲がいいくらいだった。


「それなら、彩葉さんや寧々さんに買うのはどうですか?」


「え?」


「私も二人やバイト先の皆さんに渡すつもりだったので、どうせなら一緒に選びませんか?」


「…ん。わかった」


 ということで、二人でバイト先へのお土産を見て回り、それが決まったあとは私の家族や優香、そして個人としての寧々さんへのお土産を選んでいく。


(そういえば、愛華は大丈夫だろうか)


 家族へのお土産を選んでいた時、ふと愛華のことが頭をよぎった。


 旅行に来る前、愛華の心の傷に少し触れた私は、旅行中に彼女のことを気遣うように両親にお願いをした。


(少しでも愛華の気持ちが楽になればいいな)


 両親は私たちのことをとても大切にしてくれている。だから友達に相談できないことも、あの二人なら受け入れて彼女を支えてくれる気がした。


 愛華のことが少しだけ気にはなったが、今は瑠花先輩との旅行中なので意識を切り替え、改めてお土産を選んでいくのであった。





 旅館に戻ってきた私たちは、冷えた体を温めるために温泉に入った。

 昨日の夜は雪見風呂を堪能したが、今日は太陽が沈んで少しずつ暗くなっていく美しを空を眺めながらまったりすることができた。


 温泉から上がったあとは、夕食を食べるために昨日と同じ食事処へと向かい、運ばれてきた料理を堪能する。


「今日は和食ですね。山形の旬の食材を使った郷土料理らしいです」


「美味しそう」


 テーブルには芋煮や旬の魚を使ったお刺身、そして山菜料理が並べられていた。


 特に美味しかったのは山菜料理で、山形でしか食べられないものもあったので満足することができた。


 食事を終えたあとは部屋へと戻り、部屋に備え付けられたテレビを見てまったりと過ごす。


 二時間ほど経って、そろそろ寝ようかと思い布団へ向かい横になるが、何故か私の上には瑠花先輩が跨っている。


「あの、何をしてるんですか?」


 何となく彼女が何をしようとしているのかは分かったが、さすがに旅行に来ているわけだし、そんなわけないだろうと思い尋ねてみる。


「ん。昨日の夜に約束した」


「えーっと」


「明日ね、って」


 そう言われて思い返してみれば、確かに瑠花先輩は「なら明日ね」と言って寝たような気がする。


「ふふ。いつもと違う場所でするのもまた乙なもの。…いただきます」


 瑠花先輩は妖艶に微笑むと、その後は獣のように私のことを蹂躙していった。


 とくに昨日の夜我慢させたせいか、いつもよりも焦らされる時間が長くて、なかなか私を果てさせてくれなかったのは切なくて辛かった。


 何度もお願いをして果てさせてくれたが、いつもよりも体が敏感になり、さらに焦らされた事による切なさからいつも以上に私も彼女を求めてしまい、結局眠れたのは朝方になってからだった。


 翌朝はチェックアウトのギリギリまで眠ってしまい、急いで帰り支度を済ませて旅館を出た後、近くにあった温泉に立ち寄ってまったりしてから家への帰路へと着く。


 最後の最後にドタバタしてしまったのは何とも言えないが、それでも良い思い出がたくさんできた事には違いないので、たまには家族以外の人との旅行も良いものだと思うのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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