いざ旅行へ
旅行先、宮城から山形の蔵王に変更しました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
愛華の心に触れてから二日が経ち、いよいよ瑠花先輩と旅行に行く日になった。
あの日以来、私と愛華が話すことは無かったが、今回の旅行で両親には愛華を気遣って欲しいとお願いしてあるので、今は二人に任せることにした。
(多分、私が話しかけても逆効果だろうしね)
自惚れでなければ、愛華はおそらく私のことが好きだ。
それは姉妹愛とか家族愛ではなく、私と同じ一人の女として意識してくれているんだと思う。
ただ、愛華は私よりも人と関わることが多かったから、普通や一般常識といった概念に囚われてしまっているのだろう。
なら、当事者である私がいくら話しかけて関わりを持とうとしても、さらに視野は狭くなっていき意固地になってくことだろう。
(私も、もっと早く気づいてあげられれば…)
結局私は、自分の気持ちのことしか考えておらず、大切な相手の考えや気持ちについては考えないで行動していたのだ。
(はぁ。ほんと最低だ)
そんな自己嫌悪に浸っていると、突然両頬に手を当てられ、むにゅっとされた。
びっくりして閉じていた目を開けると、そこには少しだけ不機嫌な瑠花先輩が立っていた。
「愛那。声かけたのに無視した」
「ふ、ふみまへん」
「何考えてたの」
「まふ、ほほはらへをはらひへふらはい」
私が頬から手を離すようにお願いすると、瑠花先輩は小さな手を離して改めて尋ねてくる。
「何考えてたの」
「いえ、大したことでは」
ペシッ
「痛っ」
瑠花先輩は私の答えに不服だと言わんばかりに腕を叩くと、少し頬を膨らませる。
「私たちの間に秘密は無し」
「…そうでしたね」
私は観念して、二日前にあった愛華との事を瑠花先輩に話した。
そして、私がいかに自分勝手だったか、愛華の気持ちを考えずに行動して来たかを話して、自己嫌悪していた事を話した。
瑠花先輩は話を聞き終えると、私をギュッと抱きしめて背中を撫でる。
「愛那。それは考えすぎ」
「…え?」
「確かに、愛那の行動と気持ちは一方的で、相手のことを考えていなかったかもしれない。でも、愛華さんも愛那と自分の気持ちに向き合おうとせず逃げ続けた。
それに、愛那は十分寄り添ったしチャンスもあった。それでもこうなったのは愛華さんの選択であり、愛那一人が背負う事じゃない」
瑠花先輩の言葉は私たちのような当事者では無く、客観的に私たちの関係を見る事ができる第三者だからこその意見だろう。
「そう…ですか」
ただ、やはりそれは第三者の意見であり、当事者である私にとってはなかなか割り切って考えることのできない問題だった。
「ごめんね。私はずっと一人だったから、誰かのことで悩むって感覚があまり分からない。
それでも、誰かのことで悩むっていうのは、それだけその人と向き合おうとしてるってことだから、素敵な事だとは思う。でも、考えすぎて一人で抱え込むのはダメ」
「…はい」
「とりあえず、まずは私との旅行。そっちで悩んで私を楽しませて」
瑠花先輩は抱きしめていた腕を離して珍しく微笑むと、気を遣ってか自分との旅行に集中するように言ってくれた。
「そうですね。せっかくの旅行ですし楽しまないと」
「うん」
それに、瑠花先輩は来年には高校を卒業してしまうため、今後一緒にいられる時間が減ってしまう。
なら、一緒にいられる時は彼女のために尽くすのが、私にできる彼女への最大限の誠意だろう。
「ありがとうございます」
「いいよ。とりあえず、そろそろ行こう」
「はい」
こうして、私の相談という少し暗い話から始まってしまった旅行は、これから私が彼女を楽しませることで挽回する事を目標に、いざ目的地へと向かうのであった。
新幹線とバスを乗り継いでようやく着いたのは、山形県の蔵王。
この時期はあたり一面雪景色で、まさに絶景だ。
それに、蔵王は雪だけで無く温泉や樹氷といった有名なものがたくさんあるらしい。
私たちはまず、持って来た荷物を置くため、予約した旅館に向かうことにした。
「すごい雪ですね」
「うん。初めて見た」
旅館に着くまでの間、私たちはバスの窓から見える雪景色を見て感想を言い合う。
これまでも家族とはよく旅行に行っていたが、冬の東北には来た事はなかった。
だからここまでの雪景色を見るのは生まれて初めてのことだった。
それからしばらくして、予約した旅館の近くに着いたのでバスを降りると、外の寒さに身震いしてしまう。
「さ、寒いですね」
「うん。早く中に行こう」
瑠花先輩も思った以上に寒かったのか、少し震えながら私のことを急かしてくる。
私たちは互いの手を温めるため、どちらからとも無く手を繋ぐとそのまま旅館の中へと入った。
今回泊まる旅館は奮発したので、少し良いところにした。
ネットで評価の高いところを探し、その中から食べたい料理が食べられて温泉からの景色が好みのところを予約したのだ。
部屋に通された私たちは、荷物を置いて座布団に座り、「ふぅ」と一息つく。
部屋は主室と床の間に分かれており、さらに窓側には広縁もある。
広縁の向こうに見える景色は素晴らしく、木々が雪で白く彩られた様はまさに絶景だ。
「少し休んだら観光に行きませんか?」
「わかった」
私は近くにあった湯呑みにお茶をいれると、瑠花先輩と自分の前に置く。
「落ち着きますね」
「和室にお茶。すごくいい」
イ草の臭いとお茶の香り、外に広がる雪景色が何とも落ち着く空間とまったりとした時間を作り出し、まるで世界に取り残されたような錯覚を覚えるほどに気持ちが落ち着いていく。
それから30分ほど休んだ後、私たちは観光をするために旅館を出た。
旅館を出る前に部屋で話あった結果、樹氷の観光は明日にすることにして、今日は近くの街を見て回ることにした。
「温泉の匂いがしますね」
「うん。それに、少しあったかい気がする」
「温泉が近いからですかね?」
街を歩いていると、いくつか温泉らしきものがあったので、せっかくだからと温泉巡りをすることにした。
といっても、夜には旅館の温泉にも入るので、そんなに数は回らなかったが。
しかし、日中に入るお風呂も良いもので、外を歩いて冷え切った体に温泉はすごく染み渡る。
また、露天風呂は少しの肌寒さと温泉に入っていることで感じる温かさが心地よく、景色の良さも相まってかなりリラックスする事ができた。
あとは近くにあった和菓子屋さんに寄って、ごま最中や乃し梅などを食べながら、初日の観光をまったりと過ごした。
旅館に戻って来た私たちは、浴衣に着替えると夕食を食べるために場所を移動する。
食事は個別の食事処でとるとこになっているので、私たちは案内されながら部屋へと入る。
「こうしてると、カップルみたいだね」
「そうですね。雰囲気もいいですし、この旅館にして正解でした」
プランの料金としては高めであったが、私たちはバイトをしてもお金はほとんど使っていなかったので、自分たちの好みに合わせて選ぶ事ができた。
「食事もネットに上がっていたのを見た感じすごく美味しそうでしたし、楽しみですね」
「うん。特にお肉が楽しみ」
瑠花先輩は、体は小さいが食べる事が好きな人なので、食事のことになると眠そうな目が真剣なものへと変わる。
その後、明日はどうしようかと話をしていると料理が運ばれて来て、真ん中には鍋が置かれる。
「お肉、お肉」
今回のプランで予約した料理は、メインが地元産のお肉をたくさん入れたお鍋なので、それを見た瑠花先輩の瞳はキラキラと輝いている。
まるで子供のように喜ぶ彼女が可愛くて、私は取り皿にお肉を多めに入れて渡してあげた。
「いただきます。…はふっ、はふっ。ん〜!美味しい!」
珍しく声に喜色を混ぜながら食べている瑠花先輩は、もう箸が止まらないといわんばかりに食べ進めていく。
「まだたくさんありますから、ゆっくり食べてくださいね」
「そうだね。ちゃんと噛み締めて食べないともったいない」
その後、私は彼女にお肉だけで無く野菜もしっかりと食べさせながら、夕食の楽しいひと時を過ごすのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旅行のこと書いてて気づきました。
私、旅行行ったことないから参考材料なかったです。
拙い表現ですみません。
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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