私と優香

 お手伝いさんに夕食の準備ができたと呼ばれたので、私たちは抱きしめあっていた体を離して案内された一階へと向かう。


「どうぞお入りください」


 扉を開けてもらった私たちは、料理が並べられたテーブルの方へと向かっていき、優香の家族が座る対面側へと向かう。


 テーブルに着いている優香の家族は、祖父母、父母、兄が一人と家族全員が揃っている。


「本日は泊まらせて頂きありがとうございます」


 優香の家は何よりも礼儀を重んじている。だから、いくら子供の頃からの付き合いがあるといっても、最初はしっかりと挨拶をしなければならない。


「ほほほ。愛那さん、今日も来てくれてありがとうね」


「そう畏まらなくてもよいと言っているであろう?私たちの中ではないか。気軽に接してくれたまえ」


「では、ありがたくそうさせて頂きます」


 ここまでが恒例の流れである。優香の父親から気軽に接するよう言われることで、ある程度は楽に話せるようになる。


 優香と並んで席に着いた私たちは、祖父の短い挨拶のあと料理を食べ始める。


「それにしても、愛那さんはまた綺麗になったんじゃないかしら」


「本当だな。子供の成長というのは早いものだ。今後も優香のことをよろしく頼むよ」


「ありがとうございます。私の方こそ、優香とはこれからもずっと一緒にいたいと思っておりますので、そうして頂ければ嬉しい限りです」


 私がそういうと、優香の父親はチラッと優香の方に視線をやる。

 どうしたのだろうかと思い私もそちらを見てみると、優香は顔を赤くして食べる手を止めていた。


「ははは。優香も満更ではないようだな。本当に、よろしく頼むよ」


 そう言って私のことを見る優香の父親の顔はとても優しい顔をしており、彼女のことを本当に大切にしていることが伝わってくる。


「はい。お任せください」


 私の返事を聞いた優香の家族は、満足そうにみんな頷いてくれた。


 それからの時間は和やかに進んでいき、食事の時間は何事もなく終わった。





 ご飯を食べた後、私たちは優香の部屋へと戻って来た。

 しかし、優香は食事中からずっと喋ることはなく、部屋に戻って来た今も下を向いたまま喋ろうとしない。


 さすがに心配になった私は、彼女が座っているベットに近づき膝をついて声をかける。


「優香、どうかした?体調悪い?」


 私が声をかけると、優香はいきなり抱きついて来てキスをしてきた。

 しかも、さっきとは違い口の中に舌を入れてくると、必死に動かして絡めてくる。


「んん…」


 しばらくの間、優香の好きなようにさせてあげると、ようやく落ち着いたのか体を離す。


「落ち着いた?」


「…ぅん」


 返事はしてくれたが、優香の頬はまだ薄らと赤く、熱を持っていることが分かる。


「それで、どうしたの?」


「食事の時、愛那がずっと一緒にいてくれるって言ってくれたことが嬉しくて…。大好きって気持ちが溢れてきて…。ごめん、我慢できなかった」


 優香はゆっくりと事情を話してくれたが、どうやら私の言葉が思った以上に彼女に影響を与えていたようで、気持ちを我慢できなくなったようだ。


「ふふ。そっか。でも、続きはお風呂の後にしようね。他のみんなを待たせるのもよくないから」


「わかった」


 ということで、服や下着などを持った私たちは、いつものように二人でお風呂へと向かう。


 優香の家のお風呂は結構大きいので、私たちが一緒に入っても余裕がある。

 昔は私と愛華、優香の三人でお風呂に入りのぼせたのは良い思い出だ。


 私たちはお風呂場に入ると、まずは私が優香の髪や体を洗ってあげる。

 これも昔からよくやっていることなので、高校生になった今でも変わらず続けている。


「終わったよ」


「ありがと。次、愛菜な」


 私と優香は位置を交代すると、今度は優香が髪や体を洗ってくれる。

 ずっと洗い続けてきたからから、力加減がちょうど良くて気持ちいい。


 シャワーで泡を流し終わると、私たちは並んで浴槽に入る。


(いつと思うけど、並んで入れるお風呂ってすごいよね)


 お風呂に浸かってまったりしていると、横に座っていた優香が肩を寄せて寄りかかってくる。


「どうかした?」


「何でもないから気にするな」


 優香はそう言って目を閉じると、それからお風呂を上がるまで喋ることは無かった。





 お風呂から戻って来た私は、我慢が限界に達したらしい優香とキスをしていた。


 私は服などをカバンにしまって床に座っていたのだが、優香が私の前に来て膝立ちになると、首に腕を回して抱きしめて来て、そのまま強引にキスをされた。


 彼女は夢中になって舌を絡めてくるので、私もそれに応えるため舌を動かす。

 瑠花先輩とのキスは、私に対する愛情と執着を感じるが、優香からはただただ私に対する愛情のみが伝わってくる。


 さすがにここまでされると私も我慢ができなかなったので、私は優香から体を離すと彼女を抱き上げてベットに下ろす。


「愛那、私もう我慢できないよ」


「わかってる。私も限界だから」


 私はそう言うと、最初に優香の手を取り指にキスをする。

 そして優香の服を脱がせると、今度は細くて綺麗なお腹にキスをした。


「んっ」


 優香は少しくすぐったそうな声を漏らすが、私は構わずキスを続けていく。

 以前、彼女は私からキスされることが好きだと言っていた。


 たがらこうして身体中にキスをすると、彼女はとても喜んでくれるのだ。


 その後も胸、鎖骨、肩、首筋、耳にキスをしていく。

 ひと通りキスを済ませると、今度は胸を手で優しく触る。


「あっ…んん!」


 私が胸の敏感なところを指で摘めば、優香は我慢できずに嬌声を漏らす。

 そんな彼女に構わず、今度は舌で舐めたり転がしたりとさらに刺激を与えていく。


「あい…な…」


 名前を呼ばれたのでどうしたのだろうかと思い顔を上げると、優香は蕩けた顔をしながら私のことを見ていた。


「今日、助けてくれて、ありがとう。すごく…嬉しかった…」


 最初、彼女が何を言っているの分からなかったが、街でナンパされていた時のことだと気づきすぐに答える。


「ううん。私は当たり前のことをしただけだから気にしなくていいよ。それより、怖い思いさせてごめんね」


「大丈夫。確かに怖かったけど、愛那が助けてくれるって信じてたから。それに、すごく嬉しかった」


 そう言って笑った優香の顔は本当に幸せそうで、彼女が嘘をついていないことが感じられる。


「ありがと。でも、もうあんな事がないようにするから」


 私はそう言うと、彼女に誓う意味も込めてもう一度唇を重ねた。


 その後、私たちは優香が疲れて眠るまでたくさん愛し合った。

 私は横で眠る優香を眺めながら、今の関係になった時のことを思い出す。





 私と優香の関係がただの幼馴染じゃなくなったのは、私が愛華に振られて家出をしていた時だ。


 あの時は行く当てもなく、私はSNSでその日泊めてくれる女性を探しては家に泊めてもらっていた。


 まぁ、もちろん善意で泊めてくれる人もいたが、大抵はレズの人ばかりなので、そういった行為を求めてくる人がほとんどだった。


 愛華と付き合えないならと、私自身も全てがどうでもよかったので、その人たちの行為を拒絶することは無かった。


 そんな生活を続けていたある日、泊めてもらった女性の家から出た時、たまたま優香と出会してしまったのだ。


 私を見つけた優香は、すごい勢いで私の腕を掴むと、女性に一言断りを入れてから優香の家へと連れて行かれた。


 あの時の優香は凄かった。いつもは周りの目を気にしてお淑やかに生活しているはずなのに、明らかに怒りを滲ませながら何も言わずに自分の部屋へと向かったのだから。


 そして、部屋に連れ込まれた私はいきなり優香に頬を叩かれた。


「何やってんだよ!お前ずっと家に帰ってないらしいな!学校に来てもほとんど授業に出ないし!お前の両親が心配して家まできたんだぞ!!」


 突然のことに私は何も言うことができず、ただ優香の言葉を聞くことしかできなかった。


「何があったのかは知らないけど、何も言わずに家を出るのは良くないだろ!みんな心配したんだぞ!私だってどれだけ心配したことか!」


 心配した。その言葉を聞いた瞬間、私は自分がどれだけ周りに迷惑をかけていたのか理解し、涙が止まらなくなった。


 そんなどうしようもない私を、優香は何も言わずに抱きしめてくれて、落ち着くまで背中を摩り続けてくれた。


 しばらくしてようやく落ち着いた私は、ゆっくりと何があったのかを優香に説明した。

 愛華に好きな人ができたこと。失恋したことで全てがどうでもよくなり、愛華にも会いたく無かったため色んな人の家を転々としていたこと。


「そう言うことか…」


 私の話を聞いた優香は、何か覚悟を決めた顔をすると、突然服を脱ぎ出して下着姿になった。


「な、なにしてるの?優香」


「なぁ、家にいづらいなら家に泊まりにこいよ。寂しいなら私を抱けばいい。だからもう知らない人の家に行くのはやめろ」


 優香はそう言いながら私の手を取ると、自分の胸に持っていき触らせる。


「でも、優香は大切な幼馴染だし、そんなこと…」


「大丈夫だ。私は気にしない。それに、私は愛那のことを愛してる。だから私のことも愛してくれ」


 その言葉が嘘ではないと証明するかのように、優香は強引に私にキスをし、舌を入れてくる。


 初めてのため動かし方はまだ拙かったが、それでも私に対する愛情はしっかりと伝わって来た。


 結局、人の愛に飢えていた私は拒み切ることができず、ただの幼馴染という一線を超えてしまったのだ。





「あの時、私を見つけてくれたのが優香でよかった」


 あの日以来、私たちの関係は幼馴染以上になったわけだが、私たちに後悔は無かった。


 ただ、私たちがまだ付き合っていないのは、私が単に臆病なだけだ。

 また人を心の底から愛して、愛華の時のように振られたらと思うと怖くてあと一歩が踏み出せない。


 それでも、優香も瑠花先輩も寧々さんも何も言わずに待っていてくれている。

 いつ答えを出せるかは分からないが、今は三人との幸せな時間を過ごせればそれで満足だ。


 私はそう思いなが、私に抱きついて幸せそうに眠る優香の頬にそっとキスをした。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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