優香の家族

 優香が寝てる間、私は暇だったので漫画でも読もうかと思い、近くに置いてあったスマホを手に取る。


 そこで私は良いことを思いついたので、カメラアプリを開いて写真を撮る準備をする。


(優香の寝顔は可愛いからね。写真撮って保存しとこ)


 実はみんなには言ってないのだが、私は優香、寧々さん、瑠花先輩の3人の写真を密かに撮るのが好きなのだ。


 もちろん一緒に写真を撮る時もあるが、バレないように寝てる時や視線が外れてる時に撮る時もある。


 理由は単純で、意識しないで自然体の彼女たちのことが好きだからだ。


 眠そうなところ、なんとなく空を眺めてるところ、面白い動画を見て笑ったいるところ。そんな可愛くて素敵な三人の写真が私のスマホにはたくさんある。


(まぁ、みんなには内緒なんだけどね)


 言ってしまったら、止められることは無いだろうが、少なくともしばらくの間みんな意識してしまうだろう。


 それでは私が欲しい写真が撮れないため、絶対にバレてはいけないのである。


「好きな人たちの写真がたくさんあるのは、本当に幸せだな」


 私は今の幸せを噛み締めるように呟きながら、いまだ私の膝で眠っている優香を優しく撫でた。





 それから数時間ほど経つと、優香は身じろぎをして目を覚ました。


「…んん」


「おはよ、優香」


「おは、よ…」


 まだ意識がはっきりとしていないのか、優香はぼんやりとしながら私のことを見つめてくる。


 そして、徐に手を伸ばして私の頬に触れると、ふにゃりと笑う。


「あいな、すきだよぉ…」


 いつもは口調が荒い彼女話だが、寝起きは少し口調が幼くなる。そんな優香のあまりの可愛さに、胸がキュンとしてしまうは必然と言えるだろう。


「ふふ。私も好きだよ」


 我慢できなくなった私は、まだ寝ぼけいる優香に愛を込めた唇を重ねる。


 唇を離すと、感触で目が覚めたのか顔を真っ赤にしてわなわなしている優香が目の前にいた。


「お姫様。目が覚めた?」


「い、今、キスした??」


「したよ?嬉しい?」


 優香とは何度もキスをしているし、それ以上のこともしているはずなのだが、彼女はいつも初々しい反応をしてくれる。


(寧々さんの反応も可愛いけど、優香もギャップがあって可愛いんだよね)


「うれ…しいけど。せめて帰ってからにしてくれ」


「なんで?」


「それは…わかってるだろ!言わす、ばか!」


「ふふ。そうだね。お互い我慢できなくなっちゃうもんね」


 恥ずかしそうにしている優香の耳元に顔を寄せると、私は甘くそう囁く。


「もーばか!ばかばかばか!そんなに挑発しないでくれ!」


「あはは。ごめんね?帰ってから楽しみにしてるね」


 さすがに恥ずかしさの限界を迎えたらしき優香は、普段はしないような口調で私を責めて来た。


 それからしばらくの間、優香は話してくれなかったが、それでも私の膝から起きようとはしなかったので、利用時間が終わるまで優香のことを愛でるのであった。





 ネカフェを出た私と優香は、すっかり暗くなった街の中を歩いていた。


「暗くなるの早くなったね」


「だな。もうすっかり冬だな」


「寒くない?」


「ん、大丈夫だ」


 優香は大丈夫と答えたが、繋いでいる手の指先は冷たくなっており、我慢していることはすぐに分かった。


 近くを見渡してみると、ちょうど自動販売機が近くにあったので、温かい飲み物を買ってあげることにした。


「優香、少しそこで待ってて。飲み物買ってからから」


「わかった」


 優香にはビルの横にある人通りの少ない場所で待っているように伝え、私は急いで飲み物を買いに向かった。


 ミルクティーとコーヒーを買って戻ろうとしていた時、優香が二人の男性に絡まれているのが目に入った。


(まずい!)


 その光景をみて焦った私は、彼女のもとへと急いで戻る。

 そして、優香と男達の間に入り込み、キッと睨みつける。


「なんですか。貴方たち」


「お、君も可愛いね。俺らと遊びに行こうぜ?」


「そうそう。ちょうど君のお友達も誘ってたんだわ。一緒に行くよね?」


 どうやらこの二人は、優香の可愛さに惹かれてナンパをしてきたようだ。

 私の優香に手を出そうとしたことに怒りが湧いてくるが、それよりも早くこの状況をなんとかして、優香を連れ出さなければならない。


「結構です。それに私たちは友達じゃなくて恋人なので、貴方たちに興味なんてありません。失礼します」


 優香の手を掴んでその場を離れようとしたが、男たちが立ち塞がって通そうとしてくれない。


「うわ。まじ?レズってやつ?」


「キモいなぁ。なんなら俺たちが男と付き合うことの良さを教えようか?」


 ニタニタと笑う男たちの顔には明らかな下心が滲み出ており、その視線に晒されることが気持ち悪くて仕方がない。


 ここは人混みが嫌いな優香のことを考えて待っているように言った場所なので、今は人の気配が全くない。


 どうするべきか考えた私は、とにかく急いで逃げるために、買って来た飲み物を男たちに向かって投げつけた。


「うわっ!」


「なんだ?!」


 幸い周りがそこまで明るくなかったため、私が投げた飲み物は男たちに当たり、動揺を誘うことができた。


「行くよ!」


 その間に私は優香の手を強く引き、人混みの中へと紛れ込んだ。


 それからしばらく歩いて駅の前にある広場まで戻って来た私たちは、いまだ恐怖で震えている優香のことを強く抱きしめた。


「大丈夫。大丈夫だからね、優香」


 恐怖で混乱している優香を落ち着かせるため、私は何度も大丈夫だと声をかけ続ける。


「あい…な?」


「そうだよ。あの人たちはもう居ないから安心して」


「ありが…とう。ごめん。私また…迷惑かけちゃって…」


「そんな事ない。むしろ一人にした私が悪かったんだ。優香は何も悪くないよ」


 優香はなんとか言葉を返してくれたが、私を抱きしめる腕には力がなく、声にもいつもの元気がない。


 その後もしばらくの間、私たちは多くの人の好奇の視線に晒される。

 しかし私は、そんな視線から優香を守るためにも彼女を強く抱きしめ続けた。


「ありがとう。もう大丈夫だ」


 そう言って私から体を離した優香の顔は、まだ青白くて血色も良くなかったが、とりあえずは落ち着いたことが分かった。


「よかった。でも、本当にごめんね。一人にして」


「いいよ。愛那が私のことを考えて待っているように言ってくれたのは分かってる。だからそんなに気にしないでくれ」


 そう言って力無く笑う優香を見ていると、本当に申し訳ないことをしてしまったと心が痛む。


 それでも、これ以上この話をする方が彼女にとっては辛いだろうと思い、私は話を切り替えることにした。


「それより、そろそろ帰らないと優香のお母さんが心配しちゃいそうだし、帰ろうか?」


「だな。お母さん心配性だし。そろそろ戻るか」


 改めて手を繋いだ私たちは、電車に乗って優香の家へと向かった。

 その間、優香が私から手を離すことはなく、彼女の家に着くまで手を繋いでいるのであった。





 優香の家はかなりのお金持ちだ。彼女の話によると、かなり歴史のある家系らしく、昔は総理大臣になった人もいるそうだ。


 そのため家はかなり大きいし、礼儀作法などにも結構厳しく躾けられるらしい。


「ただいま戻りました」


「あら、お帰りなさい優香。それと、愛那さんもいらっしゃい。今日はゆっくりして行ってちょうだいね」


「ありがとうございます、おば様。本日はお世話になります」


「ほほほ。愛那さんとは小さい頃からの付き合いですもの。今後も優香のことを頼みますね?」


「お任せください」


 優香はこの家のいわゆるお嬢様というやつで、昔から言葉遣いや姿勢などを躾けられて来た。


 なので、家で話すときはいつもの荒っぽい口調ではなく丁寧な口調に変えなければならない。


 優香のお母さんはあまり気にしないのだが、お父さんや父方の祖母が厳しいらしく、人の目がある場所では口調を変えている。


「夕食の時間まではまだありますから、お二人はお部屋で休んでなさい?

 とくに優香は顔色が悪いですから、温かい飲み物を持って行かせるのでゆっくり休みなさいね」


「ありがとうございます。お母様」


「いいのよ。さ、行きなさい」


 私は優香のお母さんに一度頭を下げると、二人で彼女の部屋へと向かう。


「はぁー疲れた。やっぱ堅っ苦しい言葉は疲れる。早くこの家を出たい」


 いつもの口調に戻った優香は、着替えもせずにベットに横になると、足をパタパタしながらだらける。


「ふふ。私としては、お嬢様口調の優香も可愛くて好きだよ」


「やめてくれ。あんなの疲れるだけだ」


 優香はそう言うと、少し不貞腐れたように唇を尖らせてそっぽを向く。


コンコンコン


「お嬢様。お飲み物をお持ちいたしました」


「どうぞ入ってください」


 どうやらお手伝いさんが飲み物を持って来てくれたようで、優香はすぐに姿勢を正すと、部屋に入ることを許可する。


「失礼いたします」


 お手伝いさんは部屋に入ってくると、お盆に乗せたカップをテーブルに置き、一礼して部屋を出て行った。


「はぁ。もう嫌だ。普通の暮らしがしたい」


 優香はよほど疲れてしまったのか、今日はとくに愚痴が多い。

 私はそんな優香を元気づけるため、ベットに座っている優香を押し倒して唇を塞ぐ。


「んん…?!」


 突然のことに驚いた様子の優香だったが、私を突っぱねたりする事はなく、むしろ背中に手を回して離れないようにしてくる。


 しばらく唇を重ね合った私たちだったが、優香の様子を確認するため一度唇を離した。


「元気出た?」


「…ばか。まだ足りないからもっとして…」


「ふふ。いいよ。気が済むまでしてあげる」


 その後私たちは、結局ご飯に呼ばれる少し前まで何度も唇を重ね合い、冷めてしまった紅茶で喉を潤すのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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