お似合いのカップルでした
土曜日。この日は朝の開店時からバイトに来ていた。
そして、休日は彩葉さんの趣味でバイト時の制服とテーマが変わる時がある。
今日がまさにその日で、今日はお嬢様学校の制服っぽいコスプレだ。
色は黒を基調としており、襟元と袖、そしてロングスカートの裾には金色のラインが入っている。
それに合わせた赤い短めのネクタイはとても可愛らしが、全体的に見るとコスプレ感が否めない。
その他にも、前はメイド服や大正時代風の衣装などを着たこともある。
私は初めの頃、どこでこれらの服を入手してくるのか気になり聞いてみると、『友達が趣味で作ってるのよ』とのことだった。
そんなわけで、今日はお嬢様学校の制服を着ての接客となり、テーマはまさにお嬢様だ。
だからお客さんが来たらお姉様と呼ばなければならい。
「愛那、すげー似合ってるよ!」
「ありがとうございます。寧々さんもすごく素敵ですよ」
「ありがと。でも、まさか大学生になっても制服を着ることになるとは思わなかったよ」
そう言って苦笑いする寧々さんだが、彼女は背が高いため、すごくお姉様感がある。
それに、清楚っぽい制服にいくつも開けたピアスが良いアクセントとなっており、とても彼女らしかった。
「さぁ、そろそろ開店するから、みんな持ち場について」
私と寧々さんがお互いの感想を言い合っていると、彩葉さんが奥の方から出てきた。
彩葉さんは何故か保健医の格好をしており、似合ってはいるのだが、ひらけた胸元と彼女の妖艶さのせいで何ともコメントしづらい。
「愛那、私に何か言うことは?」
「とてもお似合いです」
「よろしい」
彩葉さんは私の感想を聞くと、上機嫌で奥の方へと戻っていった。
「愛那、あたしたちも頑張ろうか」
「はい」
寧々さんに声をかけられた私は改めて気合を入れると、ホールの方へと向かっていきテーブルの確認などを行なっていくのであった。
「ごきげんよう。お姉様」
開店してから3時間が経つと、ちょうどお昼時になったためお店の中にはお客さんが増えてきた。
ホールにいる私も今は忙しく、さらに言葉もお嬢様っぽくしないといけないため、いろいろと大変だった。
「お姉様、本日はどちらを召し上がりますか?」
「あ。じゃ、じゃあ、いちごパフェとカフェオレをお願いします」
このお客さんはここに始めてくるのか、お店の雰囲気に驚いて言葉に詰まっていた。
「お姉様、注文は?」
「あら、寧々ちゃん?言葉遣いがよろしくなくてよ?私がこの後、個人的に教えてあげましょうか?」
「はは。遠慮しておきます」
逆に常連の人たちは、店長の思いつきで行われるこのイベントのことをよく知っているので、むしろノリノリで楽しんでいる。
それからしばらくすると、また新しいお客さんがお店に入ってきた。
「わぁ〜、ここが女性限定のお店らしいよ!」
「みたいだね。本当に女の人しかいない」
新しく来たお客さんは、私と同じ高校生くらいの女の子が二人で、仲良く腕を組んで入ってきた。
一人は背が高めでクールっぽい雰囲気だが、綺麗に伸ばされた黒髪に白のセーター、そして黒のロングスカートがとても似合う女の子。
もう一人は少し小柄な女の子で、明るめに染められた茶髪に大きめの白いパーカー、そして黒のパンツとシンプルではあるが、首には黒のチョーカーが付けられており、それが彼女にはとても似合っていた。
タイプは違うが、お揃いのカラーで着飾った二人はとてもお似合いで、すごく素敵だった。
そして、この二人の一番の特徴は、お揃いの星形のピアスをつけていることだ。
(あれ、絶対カップルだ)
このお店で働いてまだ数ヶ月だが、最近では来る人たちがカップルなのか友達なのかが分かるようになってきた。
「お姉様方、席にご案内いたしますね」
「ありがとうございます」
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
私はそう言って席を離れるが、同じ年頃のカップルをあまり見たことがなかったため、どうしてもさっきの二人が気になった。
「ねぇ、六華。何を注文する?」
「雪音が最初に決めていいよ」
「んー。ガトーショコラもいいけど、チーズケーキも美味しそう…」
「なら、私がチーズケーキを頼むから、少し交換しようか」
「え。でも、六華も食べたいのがあるんじゃ」
「別にいいよ。私もチーズケーキを食べたかったし、どうせなら半分にして二人で食べよ」
「ありがとう、六華!」
会話を盗み聞きしていた私だが、二人はとても仲が良いように感じられて微笑ましかった。
なにより、お互いに相手へ向ける気持ちが真っ直ぐで、とても大切にしていることが分かる。
その後、二人は注文したケーキを半分に分けて美味しそうに食べ終えると、支払いのためレジの方へと向かう。
私もそれに合わせてレジへ向かい、二人の支払いを行なっていると、突然さっきの二人が声をかけてきた。
「ケーキ美味しかったです。これから頑張ってくださいね」
「応援してます!」
「ありがとうございます」
二人が何について応援してくれているのかは分からなかったが、何となくお礼を言った方が良さうだったので、私は感謝を伝える。
支払いを済ませた二人は、また仲良く腕を組むと、なんとも幸せそうに笑い合いながらお店を出ていくのであった。
それからはお客さんの数も少しずつ落ち着いてきて、お昼頃の慌ただしさも無くなってきた。
私はホールの隅の方に行き少しだけ休む。すると、寧々さんが私の近くまで来て声をかけてくれた。
「ふぅ…」
「疲れたな。でも、あと少しで終わりだし頑張ろう」
「そうですね」
寧々さんは高校生の時からここでアルバイトをしているらしく、土日の忙しさにも慣れているようだ。
その後、私は寧々さんに言われた通り改めて気合を入れると、バイトが終わるまで頑張って働いた。
勤務時間が終わった私と寧々さんは、更衣室で一緒に服を着替えていた。
「今日はこのまま泊りに来るんだよな?」
「はい。よろしくお願いします」
「なら、帰りにスーパーに寄っていこう。今うち、何もないからさ」
そう言って楽しそうに笑う寧々さんだが、そこが彼女らしくてとても落ち着く。
「わかりました」
「ありがと。…うっし、私は準備できたぞ。愛那は?」
「私もできました」
私はロッカーから持ってきた荷物を取り出す。今日はいつもバイトに来る時に使っているリュックと、泊りに必要なものが入ったカバンの二つがある。
「そっちのカバンは持ってやるよ」
「いつもありがとうございます」
「別にいいよ」
カバンを寧々さんに渡した後、私たちは彩葉さんに挨拶をしてからカフェを出ると、私の方から寧々さんと手繋いでスーパーまで向かうのであった。
「愛那、今日は何食べたい?」
スーパーにやってきた私たちは、手を繋ぎながら店内を見て回る。
「そうですね。寒くなってきたのでシチューがいいです」
「わかった」
寧々さんはアパートを借りて一人暮らしをしているため、料理は出来る方だ。
彼女は私が泊まりに行く日は、いつも私が食べたいものを優先して作ってくれる。
必要な材料を買った私たちは、スーパーを出ると寧々さんのアパートまで向かう。
アパートまではそんなに離れていないため、話をしている間にすぐに着いた。
「さぁ、入って」
私はいつものように彼女の部屋に入ると、部屋の中には相変わらずたくさんのぬいぐるみなどの可愛いものが置いてあった。
「
私は寧々さんの部屋に入ると、彼女に対する言葉遣いを変える。
これは彼女からのお願いで、本当は外でも敬語とか無しに話してほしいと言われたのだが、さすがに年上の人に呼び捨てなどは気が引けたので、泊りに来た時のみ変えることで妥協してもらった。
「うっ…。だって可愛かったんだもん」
寧々さんは少しだけ落ち込みながら呟くと、ベットに置いてある犬のぬいぐるみを抱きしめる。
「別に責めてはないよ。私も可愛いと思うし」
「だよな?!あたしもこの子を初めて見た時、あまりの可愛さに運命を感じたんだ!」
「ふふ。そっか。でも、あまり買いすぎると、寧々の寝るところがなくなるからほどほどにね」
「わかってるよ」
寧々さんはぬいぐるみをベットに置くと、夜ご飯の準備をするためにキッチンの方へと向かっていく。
私は寧々さんが先ほど抱きしめていた犬のぬいぐるみを一度撫でると、私も手伝いをするため彼女の後へとついていき、二人で料理をするのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327
また、雪音と六華が分からない方は、前作『人気者の彼女を私に依存させる話』もよろしくお願いします!
前作完結後の二人なので、どんな所が変わったのかも見ていただけると嬉しいです!
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