何がしたいのかな
私と瑠花先輩は学校に着くと、2階まで一緒に向かい、その後はお互いの教室に向かうためそこで別れる。
私たちの通う高校は3階建てとなっており、1階に1年生の教室と購買、職員室があり、2階には2年生と3年生の教室、そして図書室がある。3階は移動授業の際に使用する教室のみがあり、ほぼ空き教室だ。
また、校舎の横には寮もあり、1階が食堂となっているため、寮生活をしている人や出来立てが食べたい人はそちらで食べる場合もある。
「それじゃあ、先輩。ありがとうございました」
「うん。昨日は楽しかった。また泊まりきて」
「はい。また行きますね」
瑠花先輩と別れた私は、いつもより少しだけ早い時間に教室についた。
「あれ?今日は早いんだな」
「おはよ。今日は瑠花先輩の家から来たからね」
「なるほど。だからか」
優香と軽く話したあと、私はカバンを置いて自分の席に座る。
すると、椅子に座ったことで気が抜けたのか、寝不足のせいで思わず欠伸がでてしまった。
「ん?寝不足か?」
「瑠花先輩が寝かせてくれなくて…」
「今日も学校あるのにやったのかよ」
「私もそう言ったんだけど、瑠花先輩はスイッチが入ると止まらないから」
優香は私と瑠花先輩の関係を知っているため、特に隠したりせずにこうして話すことができる。
「はぁーあ。羨ましいなぁ。私もお前が好きなのに…」
「今度泊まりに行った時にね。それとも、学校でしたいのかな?」
「ばっ?!ちげーよ!そんなわけ無いだろ!!」
優香はそう言うと、顔を真っ赤にして逸らした。
そんな可愛い反応を見せられて揶揄いたくなった私は、彼女の耳元に顔を寄せて、ふっと息を吹きかける。
「ひゃん!!!」
彼女はよほど驚いたのか、普段ではあまり聞かない可愛い声で悲鳴を上げると、顔を赤くしながら耳を抑える。
「な、なにすんだよ!」
「何って、耳に息を吹きかけただけだけど?」
「何でそんなことすんだ!」
「優香が可愛かったからついね」
「っ!!くっそ!まじでお前のそうゆうとこ嫌いだ!」
優香はそう言うと、拗ねてしまったのか前を向いて目を合わせてくれなくなった。
さすがにやりすぎたと感じた私は、心を込めて謝罪する。
「ごめんね。そんなに怒るとは思わなかったんだ。もうしないから許して?」
しかし、優香は一向に私の方を見ようとはせず、私はその後も何度も謝り続ける。
「…わかった。なら、一つだけ言うことを聞いて」
「うん。何でも言って?」
「土曜日に遊びに行く時、私のことを恋人として扱って欲しい」
「いいよ。なら、いっぱい甘やかしてあげるから」
これまで特定の人と付き合ったことがないから恋人がどういうものかは分からないが、優香のことは好きだし、とにかくそういった気持ちを込めて接すれば良いのではないかと思う。
「楽しみにしてる」
優香は嬉しそうに笑うと、先ほどとは違い上機嫌で前を向いた。
それから数分後にはチャイムが鳴り、その日の退屈な授業が始まるのであった。
それから午前の授業は、ほとんど睡魔との戦いだった。もともと面白くもない授業ばかりだし、寝不足のせいで余計に眠かった。
それでも何とか寝ずに耐え切った私は、ようやく一息つける昼休みを迎えることができた。
「あ、やばい…」
「どうした?」
私はいつも優香と二人でお昼を食べているので、今日も彼女と食べるためにお弁当を出そうとしたのだが、そのお弁当を持ってきていないことに気づいた。
「瑠花先輩の家に泊まったから、お弁当持ってきてないんだった…」
「あぁ、そういえばそうだな。なら買いに行くか?」
「そうだね」
私はそう言うと、財布とスマホを持って席を立ち、パンなどが売られている購買に向かおうとする。
すると、何故か優香も席を立ち、私についてこようとしていた。
「優香は待っててくれていいよ?すぐ帰ってくるし」
「いや、一人でいても暇だしついてく」
別に私としてはどちらでも構わないし、彼女が来たいというなら好きにさせてあげるのがいいだろう。
そうして、急遽お昼を買うために私と優香は教室を出るのであった。
教室を出た私たちは、1階にある購買に向かうため廊下を歩いていた。
「そういえば、愛那のお昼がないってことは、瑠花先輩もお昼ないんじゃね?」
「瑠花先輩はいつも食堂で食べてるからいらないんだって」
「そーなのか」
しばらく廊下を歩いていると、反対側から見慣れた人物がこちらに向かって歩いてきた。
「愛華」
優香の言う通り、こちらに歩いてくるのは愛華だった。
彼女はお弁当の入った袋を片手に待ち、珍しく一人で行動していた。
どこにいくのか少し気になったが、話しかけても無視されることは目に見えているので、横にずれて通り過ぎようとする。
しかし、何故か愛華も私と同じ方に動き、また私の正面に立ってきた。
「なに?」
「これ」
「ん…?」
愛華は短く答えると、私の方に持っていたお弁当を差し出してきた。
私は彼女の行動の意味がわからず、差し出されたお弁当をただ眺めていた。
「お母さんが持って行けって言うから持ってきただけ。早く受け取ってくれない?」
「あぁ、そういうことね。ありがと」
どうやらお母さんは、私が今日お昼を用意できないことを予想していたのか、愛華に私の分のお弁当も持たせてくれていたようだ。
納得した私は、彼女からお弁当を受け取りお礼を言うが、何故か愛華は戻ろうとしない。
「まだ何かあるの?」
そんな彼女が気になったので尋ねてみるが、愛華は何も言わずにただ立っているだけだ。
「何もないなら私らはもう行くからな。行こう、愛那」
優香はそんな愛華の態度に腹が立ったのか、少しだけ怒りを滲ませてそう言い放つ。
そして、私の腕に自身の腕を絡めると、強引に腕を引いて教室へと戻ろうとする。
「わかったから、そんなに腕を強く引かないで。じゃあね、愛華」
私は最後にもう一度だけ振り返りそう伝えるが、その時に見た愛華は、何故か優香のことを睨んでいた。
その表情の理由が少しだけ気になりはしたが、今は優香の方が大切なので、私は黙って腕を引かれて教室へと戻って行った。
「チッ!!何なんだよあいつ!ほんとむかつく!!」
教室に戻ってくるなり、優香はさっきの愛華の態度がよほど気に入らなかったのか、いつも以上に荒い口調で罵る。
「優香、落ち着いて。愛華はお弁当を持ってきてくれただけだよ?」
「そうだけど、その後の態度が気に食わない!言いたいことがあるならはっきり言えってんだ!」
確かに今日の愛華は、朝から様子がおかしかった。何故か瑠花先輩の家の近くで私たちのことを待っていたし、お母さんに頼まれたからとはいえ、私の分のお弁当を持ってきてくれた。
(愛華が何を考えてるのか分からないな。それに、最後のあの表情も気になる…)
「愛那、あんま気にすんなよ。あいつのことなんて忘れて早く食べよう」
私が考え込んでしまったせいか、優香は私のことを心配して声をかけてくれた。
「そうだね。時間ももったいないし、早く食べようか」
最近の愛華の行動は本当に分からないことだらけだが、私は愛華に振られたわけだし、何より今は大切な人たちがたくさんできた。
だから今は、愛華よりもその人たちと向き合いたいし、みんなとの時間を大切にしていきたい。
気持ちを切り替えた私は、受け取ったお弁当の蓋を開けると、優香と次に遊ぶ時の話をしながら楽しい時間を過ごした。
放課後。今日のバイトは休みだが、優香は家の事情で帰ってしまったため、私は一人で家に帰ってきた。
「ふぅ〜、疲れた。眠い」
カバンを床に置き、服を着替えた私はベットに横になる。
(このままだと寝ちゃいそう…)
目を閉じて少しずつ意識が薄れていった時、枕元に置いたスマホに通知があった。
私は何の通知かを確認するため、スマホをとって画面を見てみる。
『愛那、明日はバイトの後に直接家でいいか?』
そうメッセージを送ってきたのは、明日泊まりに行く約束をしていた寧々さんだった。
私と寧々さんは、明日は16時までバイトがあるため、私としても直接行った方が都合が良い。
『寧々さんが良ければ、それでお願いします』
『あたしは大丈夫だよ。明日も服とか貸してあげるから、荷物は最低限でいいよ』
『わかりました。ありがとうございます』
私はそう返信をすると、さすがに限界だったのか意識が微睡んでいき、そのまま眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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