裏世界ゲーマー:人格交代
頭の奥から響いてくるような頭痛で、僕は目を覚ました。
まず目に入ったのは白い天井、それから白いベッドだ。
ここはどこだろう? どう見ても僕の部屋じゃない。窓から入ってくる光が強いから、今はもうお昼かな。
視界に入った異物は、誰かの手の平――いや、違う。僕の念じたとおりに動くこの手は、間違いなく僕の手の平だろう。
裏っ返して手の甲を見てみても、まるで大人の手のように大きな手は、僕の手には思えなかった。
ズキン――
「ウゴァ……」
再び頭部を襲った鈍い痛みに、思わず変な声が出てしまった。
「うん? えっ……。アー、アッ、アッ、アッ。なにこの声……?」
喉から出てきた声が異様に低い。なんだろう? こわい。
ベッドの掛け布団をめくると、僕の体は白くて薄い布に身を包まれていた。いや、これは服だ。白装束のような、なんて言う服だろう? よくわからない。気持ち悪い。
胸元から布をめくって下半身の方を見ると、中には見知らぬパンツを履いていた。
そしてそのパンツの中には――
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
モジャモジャになってる!! なんで!?
口を開けたまま固まっているとスライド式のドアが開いて、見知らぬ女の人が入ってきた。
「おっ、リューキ。目ぇ覚めたぁ?」
金髪ポニーテールで、茶色い肌の色をしたお姉さんが、僕に話しかけてきた。
「だれ……ですか?」
「えぇーっ!? 私のこと忘れちゃったのぉ?? リューキのお嫁さんじゃぁぁん」
「えっ? 何の話をしてるんですか?」
「んっだよ、ボケに対するツッコミが甘いっ! さてはまだ、本調子じゃないなぁ~?」
「だから、何が、どうなってるんですか!?」
「えっ? マジで言ってる? 記憶飛んでんの? どこから覚えてない?」
「いや……僕……昨日の夜に部屋で寝て、それから――」
「あー。丸1日分飛んじゃってるんだぁ。リューキさぁ、体育の時間に椅子から転けて、後頭部を打ったんだよ」
「頭を……ですか?」
「敬語なの、マジウケんだけど~。動画撮っておこっ」
まるで話が噛み合わない。ポニーテールのお姉さんが何を話しているのかはわかるのに、僕の話がまるで通じない。どういうことなの? 何が起こっているの?
また他の女の人が入ってきた。今度はもう少し大人だ。やっぱり肌の色が緑色じゃない。この場所、やけに外国人が多いなぁ。
「あっ、目が覚めたんですね~。大丈夫? 気持ち悪いとか、頭痛いとかなぁい?」
「気持ち悪いですし、頭も痛いです」
「そっかぁ。まぁ、検査は異常無しなので、今日帰れますからね~。お母さんもお迎えに来ましたよ」
「よかった……」
「エ゛ッ!? リューキ、ママとめっちゃ仲悪かったじゃん! 仲直りしたの?」
「えっ? 仲悪くないですよ?」
「はぁあ? なんか、まだ頭バグってなぁい? リューキ、大丈夫?」
「『リューキ』って、どういった意味の言葉ですか?」
「[大隈竜鬼]だよ、リューキは名前!」
そう言うと、茶色い顔のお姉さんは顔をこわばらせて、病室のドアを開け放った。
「看護師さぁぁん!! やっぱ再検査した方がいいかもー!! あっれ? もういない?」
その病室を見回すと、壁際の洗面台に鏡が取り付けられていた。
嫌な予感がする。でも、今の僕の顔がどんな風になっているのかは見ておきたい。
ベッドから体を起こして床に足を付けると、お姉さんが駆け寄ってきた。
「ちょっと、立てる? 大丈夫?」
「はい……。なんとか……」
お姉さんの右肩を貸してもらいながらベットから立ち上がると、目線が高くなってることに気が付いた。
高鳴る心臓の音を聞きながら、一歩ずつ鏡の方まで歩いていき、ようやく鏡の正面に立って、視線を恐る恐る上へ向ける。
すると僕がいるべき場所には、僕に似ている――でも僕じゃない男の人が立っていた。
「大人に、なっちゃってる……。でも髪の毛が黒くなってるのは……」
「髪は染めたことないじゃん――」
「あっ、眼が黒いし、耳も尖ってない!」
「なに言ってんの?」
目の前にいる薄い水色の服を着ていた人物こそ、僕のはずだった。首を左右に振ってみても、瞬きをしてみても、一瞬たりとも遅れずに、鏡の中の彼も動いた。
肌の色も、顔の大まかな形も同じだったけど、なんかいろいろと違う部分が多い。身長は高くなってるし、手も大きくなってるし、体は絶対に一回り大きくなっている。
こんなことが起きるなんて……。まるで僕が大人の体に憑依してるみたいだ。
しばらく鏡との真似っこ遊びをしていると、視界の端に窓の外の風景が見えた。
窓枠に手をついて上半身を乗り出すと、やっぱりそこから見えたのは――
「……えっ? えええっ!!」
「今度はどした?」
全く見覚えのない場所だった。なんていうか、別世界の光景だ。外国の風景というか、なんというか……上手く言えない。ただ、環浦とは全く違うところだと思う。
なんか、建物の形が……変だ。木の形をしてないし、やたらと四角い形が多い。木は生えているけど、中に人が住めるような太さじゃない。普通の街路樹だ。
こわい、こわい、こわい、こわい。
何が、いったい、どうなっちゃったの?
「ここ、どこぉぉぉぉぉぉっ!?」
お腹の底から湧いて出てきた、例えようのない不安感が、叫び声に変わって口から飛び出ていく。
鏡を向いたら、知らない男の人が驚いた顔を向けている。
「僕、誰ぇぇぇぇぇぇっ!?」
また急に眩暈が強くなり、膝から力が抜けていって、ペタンと床に崩れ落ちてしまう。
「ほらっ、支度しな! 帰るよ!」
ドアを開けて部屋に入ってきた人は、僕と同じ肌の色をしたおばさんのように見えた。東邦語を話してるってことは、この人も東邦人なのかな? でも――
「えっとぉ……誰ですか? この人」
「リューキのママじゃん」
『リューキ』って、誰? 僕、オウガだよ。お母さんはどこにいるの? お父さんは?
「ったく、これからアイルを送ってかないといけないんだよ! ごめんねぇ、レーカちゃん。こんなバカの相手を――」
明らかに怒った顔をしているおばさんの顔を見ながら、僕は頭から床に倒れ、後頭部への衝撃と共に意識がブラックアウトした。
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