第8話
ミナヅキは順調に飛行を続け、カラツ基地の近くに来た。
「こちら、ミナヅキ。着艦許可をお願いします」
「こちら、カラツ基地管制。3番発着場へ着艦を許可します」
「了解しました」
ミナヅキは3番発着場へ、ランディングギアを出し着艦する。
メルル―テが、エクセリオンの交換パーツのリスト作りを始める。
イナバはメルル―テに頼まれて、手伝いをしている。
「しかし、いいんですか、メルル―テさん。 他国の整備士が王家の専用艦とはいえ、軍用艦なんかに触って」
イナバは、メルル―テが読み上げるパーツリストにチェックを入れながら言う。
「メルでいいですよ~ 元々ジェットはレンマ王国製ですし、下ろしたらそのままカティサーク工廠に修理に出すことになりますし~」
「シルルートの技術は、流線型のリフティングボディーとエアインテークとエキゾースト周りですから~」
シルルート独自の曲線を多用した、モノコックフレーム。
艦の出入り口と開閉式のエアインテーク、エキゾースト周りには、「触らない」と書かれた赤い封印の紙が貼られている。
破られると外交問題になる。
「メルさん、こっちのチェック終わりましたよ。 ……スロットルのマニュアルコントロール、ワイヤーなんですね?」
「ワイヤーのわずかな弛みが大事なんですよ~」
ちなみにミナヅキもワイヤーが使われている。
ワイヤーは古い艦によく使われていた。
古い艦になれている人は、プッシュロッドよりワイヤーを好む。
(何年、飛行艦に乗ってるんですかって聞いたら失礼なんだろうな~。見た目でハーフエルフの年齢は分からないし)
どう見ても幼女、までは行かなくても少女にしか見えないメルを見ながら考えていた。
トウバはカラツ基地長官ナガウラに、長官室に呼び出されていた。
長官室には、飛竜用の飛行服を着た一人の男が立っていた。
「ミナヅキ艦長トウバ・ゲッコウ。到着しました」
敬礼をする。
「ご苦労」
机に座った、ナガウラ長官が言う。
「今回は、シルルートへ、王家の方をお送りすることになる」
飛行服を着た身長175センチくらいの男に視線を向ける。
「カラツ基地飛竜隊所属、竜騎士、ナンド中尉であります。 相棒は、”イナズマ”、ライトニングドラゴンであります」
「この度、飛竜空母”ミナヅキ”に配属になりました」
「お会いするのは去年の訓練以来ですね」
この世界で竜と、その竜と契約を結んだ竜騎士は最強である。
竜の持つ鉄壁の防御障壁とブレス。
竜騎士の攻撃。
更に人と契約するとたまに竜が種族進化する。
ライトニングドラゴンは元々、ウインドドラゴンだった。
ライトニングドラゴンは”
「……いいんですか?」
「トウバ艦長。中央から(特にキバ第2王子から)は色々言われているが、私は四年前の君の事故は、君だけのせいとは思っていない」
「本来なら一個小隊(騎竜三騎)をつける所だが、すまない」
「いえ。十分です。ありがとうございます」
「これからよろしく。ナンド中尉」
「よろしくであります」
ナンド中尉が敬礼をしながら言った。
◆
二日後、メルル―テがエクセリオンに必要なパーツを調べ終えたので、ミナヅキはシルン地方に飛び立った。
新たに、ナンド中尉と飛竜”イナズマ”がクルーとして増えている。
久しぶりに乗せた竜騎士のために、離艦と着艦訓練が行われた。
光信号と手旗信号で、離艦や着艦を誘導していく。
久々の管制業務に、管制官兼酒保(売店業務他)の乗組員は喜んだ。
飛行甲板後ろにある扉付きの竜舎が”イナズマ”の当面の家になる。
一度、シラフル湖の”ミナヅキ”の母港に、湖の水を補給するために寄った。
「ここにいましたかトウバ」
トウバが気に入っている、宿舎の前の小高い丘の上である。
机と椅子を出して、コーヒーを飲みながら、煙草を吸っている。
まだ小麦が収穫されず、頭を垂れていた。
「……ここは、私のお気に入りの場所です」
「シル様。隣に座りますか。コーヒーは?」
「いただきます」
トウバが宿舎にシルファヒン用の椅子とコーヒーを取りに行く。
冬が近い。
少し寒いが温かいコーヒーで体を暖める。
一面に広がる穏やかな田園風景を、二人はしばらく眺め続けた。
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