第2話
私は高校生になる時に輝希と大揉めした。なぜかというと、一緒の高校に通うことになったからだ。義務教育まではまぁ仕方ないかな、と思っていた。歩いて行ける範囲に小学校も中学校もあったし、そもそも学校を選ぶという概念がなかった。しかし、高校ともなると受験もあるし輝希とは双子といえども違う道に行くと思っていたのに。
そもそも、入学式まで知らされなかったなんてありえない。両親は知っていたらしいけど、教えてくれても良くない? なんか「知ってると思った」って言ってたけど、アレ絶対輝希が口止めしたんだよ。そうじゃないと言わないなんてありえない。
唯一の救いは同じクラスでないということだけだ。からかわれたりすることだけは本当に勘弁。
「木下さん。今日も仲良く輝希君と登校してたね」
「岩本さん……」
輝希と同じ高校に通いたくない理由ナンバーワンの人物が朝から話しかけてきた。ショートボブの髪を内側に巻いて目には若干化粧を施している。中学からの同級生で、輝希のファンだ。いや、ファンというよりストーカー? 本人と関わっているところを見たことがないが、とにかく輝希が好きらしく、妹の私に色々ちょっかいをかけてくるのだ。それは中学からで、上履きを隠されたり教科書を破られたり、明らかにイジメとみなされる行為をされてきた。輝希のせいで。だから高校からは別々がよかった。中学の時は過ごせなかった平穏な青春生活を、高校で味わいたかったのに。双子の兄妹というだけでなんで私が我慢しなくちゃいけないんだ。
中学の時はただ耐えていた。されるがまま、なすがままに時間が解決してくれると信じて、ただ耐えていた。でももう高校生だ。少しくらい言い返してもいいのでは?
「……同じ家に住んでるし、テスト期間中だから出る時間がかぶっちゃうんだよね」
「は?」
ひっ! カエルを睨むヘビみたいな目つきになった。こ、怖い……
「調子こいてると痛い目見るよ」
岩本さんは不穏な言葉を残して自分の席へ帰っていった。
なんでこの人と同じクラスなの。っていうか、絶対輝希を追いかけてこの高校に入学したんだよ。なんで岩本さんが輝希の進学先を知っていて私は直前まで知らなかったのかが解せない。他人の岩本さんが知っていて身内の私が知らなかったのが悔しいのではない。輝希に嫌がらせをされたことが悔しいのだ。
元々輝希とは馬が合わなかった。聴いてる音楽も違うし、好きな教科も違う。輝希が好きな食べ物は私の嫌いな食べ物だし、私の好きな食べ物は輝希の嫌いな食べ物だった。血が繋がっているとは思えない。イタズラが好きで口が悪くて、岩本さんが『輝希が欲しい』というのなら、いくらでも差し出せるくらいには嫌いな兄だった。
あんな奴のどこがいいわけ? いっそのこと輝希と岩本さんをくっつけて攻撃を終わらせたいとも思うが、あの性悪女を輝希に紹介するのはなんか嫌だ。私より先に恋人を作らせたくないとかじゃなくて、ただ、私をイジメてきた同級生の思い通りに輝希と付き合って欲しくないだけだ。私の傷付いた心を知らんぷりして「ざまぁみろ」と言われるに決まっている。そんなの許さない。まぁ輝希が岩本さんのことを好きになったなら別にいいけど。性悪女だってことは黙っておいてやろう。
大きくて深いため息を吐くと、黒い感情が口からこぼれ出て少しだけ落ち着いた。
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