#11 てめえに腐ったOLの何がわかるんだ。坊主

 その構想を食卓でτボーンを食べながら私はフェっちゃんに身ぶり手ぶりを交え語った。フェっちゃんは「タウ」とだけ言ってτボーンの肉片をミルフワーニーで流し込んだ。星の名前は「惑星タウ」にしようか。賛成賛成異議なーし。


 フェっちゃんは酔っ払って、食後、フカフカを私の頭の上に載せると言って聞かなかった。私もフカフカも困惑しながらもフェっちゃんに従うしかなかった。フェっちゃんは私たちを見て「同じ顔がふたつある! ツーフェイスツーフェイス!」とケラケラ笑い手を叩いた。こんな腐ったOLのような笑い方を覚えたらろくな大人にならない。


「もっと天使みたいに笑ってよ!」

「ああ?」

「腐ったOLみたいに笑わないで天使のLOみたいに笑ってよ!」

「てめえに腐ったOLの何がわかるんだ。坊主」


 フェっちゃんはズボンのポケットから女の子用ピストルを取り出した。初めて見たそれは想像していたよりもずっとピンク色に近くて、メタリックな光沢が安っぽかった。


「てめえの命はわたしの身の先三寸だということを覚えときな坊主」

「身の先三寸?」

「そんな言葉があった気がするんだ辞書で調べときな坊主」

「フェっちゃんに撃たれるのなら本望だよ」

「命は大切にしなよ坊主。フカフカが悲しむぜ……」

「そのときはフカフカも同時に消滅するんだよ」

「え、そういうシステムなの?」

「あれは一種の自意識だからね」

「卑怯だぞ坊主。わたしはおじさんが死んでも悲しくないけどフカフカが死んだら泣くと思う」

「フェっちゃん」

「なあにがフェっちゃんだ。わたしはフェっちゃんじゃなくてフェチ子だコン畜生ッ!」


 フェっちゃんは女の子用ピストルのお尻部分をテーブルにガンと打ちつけてからポケットにしまい、グラスに残ったミルフワーニーを飲み干した。目がうつろになって、なぜか涙ぐんでいた。


「泣いてるの? どうしたの?」

「なんか泣くと気持ちいい」

「それ、泣き上戸ってやつじゃないかな」

「なんかいろんなものに感謝したくなってきた」

「誰に感謝したい?」

「親!」

「それから?」

「コバヤシ! コバヤシ、いつもありがとー!」


 肘の裏の盗聴器に向かってフェっちゃんは叫んだ。


「それから?」

「フカフカに感謝ッ! ちっちゃい! かわいい! 挙動不審! 感謝の言葉もないよ!」

「それから?」

「空ありがとう! 風ありがとう! カンブリア紀ありがとう!」

「それから?」

「地球ありがとう。お月様ありがとう。お天道様ありがとう。冥王星、銀河、ワームホール、ブラックホール、ビッグバン、インフレーション、スタグフレーション、トービンのq、ケルビンのK、宇宙! そして無!」

「それから?」

う」

「誰か忘れてない?」

「本日の感謝はこれにて終了です。お忘れものの無いよう今一度身の回りをお確かめください」

「フェっちゃん!」

「だあれがフェっちゃんだ。わたしはフェミ子だコン畜生……」


 フェっちゃんの目がするすると閉じられて無になった。

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