#04 おじさんの脳は白子でできてるの?

 また玄関に封筒が置いてあり、書いた覚えのない小説の原稿用紙が10枚入っていた。童話のつづきだ。お人形は今、中国にいるらしい。


 フェっちゃんとの約束の時間は過ぎてしまっただろうか。約束なんてしたおぼえはない。しかしフェっちゃんの方はおぼえているかもしれない。また電話がかかってきて、なんで来ないのかと怒られるのをわたしはずっと待っていた。今日は日中ずっと薄暗く、夕方からとうとう雪が降り出した。またあおぞら公園のベンチでひとり、もこもこになって待っているだろうか。そわそわして、今日の小説はあまりできがよくない。ついに電話がかかってきたころにはもう日が暮れていた。


「おじさん? わたしだけど」

「ごめん! この寒空に」

「なに言ってるの?」

「会う約束してなかったっけ」

「今日はずっとおうちだよ」

「公園じゃないのか」

「公園? 今日、マイナスいってるんだよ? おじさん、やっぱり脳が」

「いやあ」

「脳といえば、またキムチ鍋パーティーしない?」

「白子とか入れて?」

「なんで白子?」

「脳とか言うから」

「おじさんの脳は白子でできてるの?」

「おなかの中に入れば同じことだよ。これから来るのかい? けっこう雪が降ってるけど」

「大丈夫。今日はコバヤシに送ってもらうから」

「コバヤシ?」

「わたしのボディガード」

「男?」

「それがどうかしたの?」

「どうもしない」

「嫉妬してるの? 大丈夫だよ。仕事は仕事だからさ」

「ボディガードだって?」

「うん。このあいだも外で待っててくれたんだよ」

「一晩中ずっと」

「そうだよ。それがコバヤシの仕事だから。おじさんがあたしにえっちなことしようとしたら殺す仕事。それでお給料もらえるんだから、チョロいよね」

「フェっちゃんは何者なんだい?」

「だからギャングの娘だよ。パパがこの町を牛耳ってるんだよ。知ってた? 市長さんも警察も、学校の先生もみんなパパの言いなり。だからおじさんもパパの言いなり」

「会ったこともない人の言いなりにはなれないよ」

「わたしはパパの代理なの。だからおじさんはわたしの言いなり」

「また泊まるの?」

「わかんないけど。でも食べたら眠くなるから、泊まるかもしれない」

「じゃあ、パジャマだけ用意してきて。布団とタオルと歯ブラシは用意したから」

「ん?」

「うん?」

「なんで今回は歓迎モードなの?」

「歓迎してるわけじゃないよ。ただ、泊まるのに無いと困ると思って」

「そうだけど」

「ベッドはフェっちゃんが使っていいからさ」

「ふうん。じゃ、これから一緒にスーパー行って食材買おっか」

「コバヤシさんも一緒に?」

「コバヤシは車に置いてくよ。おじさんも、わたしとふたりきりの方がいいでしょう?」

「まあ」

「おじさん、わたしのこと好きだもんね」

「いやあ」

「じゃ、すぐ行くから」


 ガチャッと電話が切れた。今どき黒電話だろうか。いやあ、という返事はちゃんと否定の意味になっていただろうか。フェっちゃんを待つあいだ、私はさまざまな角度からその語の意味について考えていた。

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