悪魔というと、人の弱みに付け込んで甘言を囁き、超常的なパワーで強制的に願いを叶える……と見せかけて破滅へと導く、恐ろしい存在――といったイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
この作品に登場する悪魔は、まさにそういった所業を見せつけてくれます。
ですが、恐ろしいのは本当に悪魔の方なのでしょうか?
何となく目障りだから、仄かに抱いていた夢を裏切られたから、どれだけ想っても伝わらないから、自分だけを見てほしいから――そういった小さな悪意の積み重ねで、我々人間は容易く心を闇に染めてしまいます。
しかし度を超えた悪意の闇は、漆黒に喩えられる悪魔以上に暗く深い……!
自分勝手で自己中心的で、自分のためなら他者をどれほど貶めても構わない。
そう思えるほどの強い負と陰の感情に染まり切った人間達は、悪魔などよりも恐ろしい存在に映りました。ここまでではなくとも、自分にもそういった自分勝手な悪意を抱いた覚えがあるからこそ。
悪意の塊となった人間達に比べると、社食でうどんを食べながら同僚に向かってほほほとタヌキ顔で笑っている悪魔、印布さんが可愛く見えます。
いや、実際に印布さんは本当に可愛い。苦労人ならぬ苦労悪魔。抜け目ないようでいてどこか抜けてる癒やしキャラ。好きです。一緒にうどん食べて世間話がしたい。
そんな印布さんが、人間の悪意によってあちこちぶんぶん振り回され、活躍(?)する四話。
全話に共通して汚泥のような悪意が溢れ、溺れそうなほどの悍ましさに満ち満ちておりますが、ミステリ要素あり、時には脱力することもあり、ホロリとさせられることもありとバラエティに飛んだ名作揃いです。
一話一話は長めではあるものの、先へ先へとそれこそ取り憑かれたように衝き動かされ、一気に読んでしまいました!
印布さんの活躍をまだまだ見たい!
シリーズ化希望です!!
現実世界とその裏側との交差点、といった世界観の作品は、カクヨム内外を問わず、結構たくさんありますが、この作品は今まで読んだそのような作品たちに比べて、頭一つ抜きんでているように思います。
この作品は、『現実世界に隠れ住む悪魔』という世界観で繰り広げられる、決して表に出てくることは無いストーリーをまとめた、一話完結の群像劇のような小説です。
世界観そのものももちろん魅力的ですが、この作品の最も大きな魅力は、登場する人物たちの、決して純粋ではない、様々な要素を含んだ性格、精神の、細かなニュアンスのようなものがふんだんに盛り込まれた文章なのだと思います。
他の方の連載小説と比べると一話完結で、一話一話が少々長く感じるかもしれませんが、これはそういう仕掛けの作品なのだと思って一気に読んでほしいなと思います。
同じ方の他の作品も読んでみようと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。