第48話 走れアルフレッド

※王家の誇りも王太子の威厳もなにもありません。各自ツッコミながら読んでいただけると幸いですが、読まなくてもなんら支障はありません。



アルフレッドは激怒した。

必ずやあの厚顔無恥なピンクを排除せねばならぬと決意した。

なぜ愛しい人との時間を奪われねばならんのだ、と。

アルフレッドには婚約者の気持ちがわからなかった。

なぜ、あのピンクにかまうのだ。

かまうべき人間はすぐ目の前にいるというのに。


「というわけで、これから放課後はピンクの再教育をしますの」


アルフレッドは空いた口がふさがらなかった。空いた口からイザベルお手製サンドイッチがボロボロ膝に落ちた。

あらあら、と言ってイザベルがこぼれたサンドイッチを集め、またアルフレッドの口に押し込み顎を閉じさせた。

国の結界の件も片付き、何事も無くイザベルと愛を育くんでいたというのに。

学園入学時の一つ目の目標であった『ランチを二人で』も叶った。

三回に一回は『あーん』もしてくれる。

まさに謳歌していたのだ。

なのに、進級してからしばらくしてあのピンクが現れた。

どこでもパンツを見せるのだ。

なんと嘆かわしい。

貴族の令嬢がパンツを見せるだなんて。

そもそもピンクのパンツはパンツの形状をとっているがそうではない。

アルフレッドにとってのパンツとは、イザベルが履いて初めて完成するのだ。

イザベル以外が履いているパンツはもはやパンツではない。

苦々しい思いでいると、なにが起こったのかパンツ襲来の頻度が下がってきた。

懸念事項が消えた、とアルフレッドは喜んだ。

これからはイザベルのパンツを見せてもらおう、そう思っていたのに


「リルーシェ様とお茶会なの」


なぜそんな可愛い顔で言うのか。

週末二日のうち一日が潰れるというのに。

しかし狭量な男と思われたくはない、アルフレッドは快く送り出した。

成人まであと一年、大人の階段とやらを少しずつ登り始めてもいいのではないか?と思い始めていた矢先にこれである。

悔しいのでノクトの邸に行ったらものすごく冷たい声で


「・・・帰れ」


と言われた。・・・怖くてアルフレッドは少し泣いた。


リルーシェとのお茶会も少なくなり、さあこれからという時に冒頭に戻る。


アルフレッドは走った。

背後からイザベルの、どこ行くの?という愛らしい声が聞こえたが今はそれにかまっている暇はなかった。

己の側近らがいる場所に当たりをつけて走った。


「これから毎日ベルがピンクに教育を施すと言っている。言い出したベルを止める術がないことはよくわかっている。よって、日替わりを要求する」


側近達の婚約者は皆、快く頷いてくれた。

しかし側近達は渋面を作り「許可できない」と言うのだ。

これだけは、この手だけは使うまい、アルフレッドは胸中で葛藤した。

やはり使うしかないのか。

アルフレッドとて、こんなことはしたくない。

しかし、これからの己を思うと使うしかないのだ。


「ピンクの教育の為に婚約者を差し出せ。これは王太子(内定)命令である」


アルフレッドが初めて出した王太子(内定)命令であった。

己だけが割を食ってたまるか、その思いだけがアルフレッドにあった。



ちなみにアルフレッドがポンコツになるのはイザベルの事だけであり、通常は超絶優秀である。決して庇ってるわけではない、事実である。

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