第42話 ピンク!ピンク!ピンク!

極力関わらないでいこう、そうイザベル達は結論付けたが、彼氏達はそうもいかなかった。


やたらとぶつかられ、目の前で転ばれる。ハンカチを落とし、ペンを落とした。九割無視され一割あしらわれていたがピンクはしつこかった。


めげない!諦めない!は、実にヒロインらしくやはりどこかの世界線のヒロインが紛れ込んだのでは?と思わせた。



放課後──


「イザベル様。少しよろしいですか?」

「リルーシェ様、もちろん。どうされました?」

「実は折り入って相談がありまし」


「ベルー、一緒に帰ろう」


空気のよめない男の登場である。


「相談ですか?私でよろしければなんなりと」

「あの、そうなのですが・・・」

「あれはお気になさらず」

「ですがあの・・・すごく見られています」


淑女科の教室には男は入れない。

空気のよめない男は『待て』の体勢である。


「気にしたら負けです」

「そ・・・うですか?では、茶会の招待状を送ります。ご都合お聞きしても?」

「リルーシェ様のお誘いですもの。いつでもかまいませんわ」

「ですが・・・」

「本当にあれはお気になさらず」

「でしたら急で申し訳ないのですが今週末で。改めて招待状をお送りしますね。では、ごきげんよう」


リルーシェは微笑み小さく手を振って帰って行った。

なにか嫌な予感がする、そう思いながらイザベルは教室を後にした。



週末タイラー邸──


イザベルはタイラー邸のサロンに招かれていた。

通りいっぺんの挨拶を終わらせ、お茶が美味しいだのお菓子が美味しいだの一通り済ませ、リルーシェは壁際まで使用人を下がらせた。


「あの、イザベル様は、ボストン男爵家のローラ嬢をご存知ですか?」

「・・・????」

「ピンクの髪色の・・・」

「(あいつか!)その彼女がどうかされまして?」

「お恥ずかしい話なのですが、私の婚約者が・・・その彼女と・・・」

「リルーシェ様、婚約されてらしたのですか?」

「あ、はい。そうですよね、幼い頃に家同士の約束でしたので。そのあまり婚約者らしい、といえばいいのかしら?その、そういったことはあまりなくて」


リルーシェは困ったように笑いながら紅茶を一口飲んだ。


リルーシェは婚約者のことを語り始めた。


リルーシェの婚約者は、ジェフリー・モランド侯爵令息。公爵家の一人娘リルーシェの元へ婿入りし二人で公爵家を継ぐことになっている。

二歳上のジェフリーとは幼い頃は頻繁に交流があったが、今ではひと月に一度あるかないかの茶会だけである。

誕生日等は花が届くだけで、カードの筆跡は彼ではない。それなのに自分の誕生日には、カフスやタイピン等彼の瞳の色に合わせた物を催促される。

幼い頃に決められた婚約に鬱屈した思いを抱え、せめて学園卒業までは好きにさせてほしいと。

リルーシェが入学し婚約者同伴の茶会に招待されるもエスコートされたこともなし。同学年の色んなご令嬢と浮名を流している。ご令嬢と寄り添う姿を見せつけるようにされたこともあり。


「・・・(ここまでの話でもう満貫じゃねえか)」

「それでですね、最近はローラ嬢にご執心の様子で・・・」

「・・・(女を見る目もないとか、数え役満確定か)」

「あの、イザベル様?」

「リルーシェ様、その男必要ですか?」

「は?」


イザベルは決意した。

クズとピンクにお仕置きしてやろうと。

それはもう盛大にお仕置きしてやると。

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