第39話 3000年ぶり2度目

王城謁見の間──


結界修復はとても長いように感じたが、実際のところ一昼夜の出来事であった。

倒れたアリスはまる二日眠り続け、目を覚ました時の第一声が


「お腹すいた」


であり、見守っていた人々を大いに安心させた。

念の為7日間の療養を経て帰城。

そして本日任務完了報告として国王に謁見する。

謁見の間には、国の重鎮たる高位貴族達、その中には王族の婚約者であるイザベルも公爵である父の隣に控えていた。

玉座の前には、無事に結界修復の任務を果たした錚々たる面子が勢揃いしていた。

総騎士団長、黒騎士団長、魔術師団長、防御壁展開をした面々、そして聖女アリス。


各団長が恭しく挨拶をし、道中を総騎士団長が、結界修復についてを魔術師団長が報告した。

国王は満足そうに一つ頷き


「大義であった」


と言葉を発した。

居並ぶ重鎮たちは拍手で讃え、結界修復メンバーは膝をつき頭を下げた。


「聖女アリス、前へ」

「はい」

「此度のそなたの貢献に大いに感謝する。何か褒美をとらせたい。なんでも申してみよ」


アリスは顔を伏せ、逡巡したが意を決したように顔をあげこう告げた。


「私が今から話すことを全て許してください。不敬には問わないでほしいです」

「・・・・・・わかった。一切を不問とする」


アリスは一旦頭を下げ、すぅーと深呼吸しながら頭をあげた。


「すっごいすっごいしんどかった!いきなり聖女とか言われてお姉ちゃんと離されて平気だとでも思ったの?空っぽの小娘一人なんとでもできるとでも?国の為って言えばなんでも許されるとでも思ってる?子どもの戯言だと思ってるでしょう?子どもにも、頭があって心があって思うことがあるの!蔑ろにしていい訳じゃない。大人の事情も国の事情も知るか!私が今回頑張ったのは早く終わらしたかったからだ!あんたらの為でも国の為でもない。私はアリス、ただのアリス。聖女なんかじゃない。もう二度と聖女なんかやるもんか。ぶぁーか!ばーか!ばーか!!」


大きな瞳から大粒の涙を零すアリス。

袖で涙を拭いながら、最後に一言。


「・・・でも、大切な人達に出会わせてくれた事は感謝してる。ありがと」


未だかつて謁見の間がこれほど静かになったことがあっただろうか。

誰もが言葉を発せずに中央で泣いているアリスを見つめている。

アリスは鼻水をすすりながらその場を離れ、イザベルの元へいきぎゅうと抱きついた。

イザベルは背中を擦り頭を撫でながら言う。


「よく言った」


堰を切ったように、ふっうっ、うわ~んわ~んと大きな声を出して泣くアリス。

聖女じゃないただのアリス。

誰も泣いてるアリスを止めることはしなかった。

泣き止むのをただ待った。待つのに誰も口を挟まなかった。

そのうち小さくヒックヒックとしゃくりあげるようになると


「ジャン・ウィーズリー!」


イザベルの大きくは無いがよく通る声が謁見の間に響く。


「はい!」


と返事をし、弾かれたように飛び出してきたジャンにイザベルはそっとアリスを任せた。


「連れていきな」

「は?いや、でもしかし・・・」

「私が許す」

「は・・・ははは」


乾いた笑いしか出ないジャンに対して、ほら早くとニヤリと笑うイザベル。

ジャンはアリスを横抱きに抱いて、国王に一礼してその場を去った。

去っていく後ろ姿を全員が見ていた。

全てにおいて前代未聞のこの謁見は後世に語り継がれることとなる。



3000年ぶり2度目の聖女の任期はたった9ヶ月。

本人の強い意向により契約更新は無し。

聖女はただの少女に戻り民に紛れた。


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