第33話 Wデート夏の陣─食事の部─
眠る子豚亭にて──
ミスル通りにあって創業150年の老舗である眠る子豚亭。
名物は口の中でホロホロと崩れるビーフシチュー。子豚亭なのに牛とはこれいかに。
ジャンの好物をリサーチ済みのエリーゼに死角はない。予約していた個室に通されビーフシチューを注文、その頃には脳内処理を終えたアリスが還ってきていた。
「ここのシチュー食べて見たかったんですよ」
ジャンもご機嫌である。意外と単純な男なのかもしれない。
「あぁぁああぁあの、ジャ、ジャジャジャンさん。ど、どどどどうして、、きょきょきょうは」
「アーリン、落ち着いて。ほら水飲んで」
渡された水を一気に煽るアリス。もう一杯!とおかわりを要求しそうな勢いである。
「・・・もう一杯!」
あ、言った。
「アリス嬢、大丈夫ですか?」
「あああああの、以前転びそうになった時に助けていただだだいてありがとうございました!」
「アーリン、『だ』が多いわ」
「あぁ、いえいえそんな。もしかして今日はそのお礼で呼ばれたのでしょうか?ご丁寧にありがとうございます。でも、そんな気にされなくて大丈夫ですよ」
口角が上がっているので多分笑っているのであろうジャンをぽけーと見つめるアリス。
そんなアリスを見ながらエリーゼは考える。
これ、絶対もう好きじゃん。頭ボッサボサだし何がいいのかよくわからんけど。いや?これはありがちな前髪あげたらイケメンパターンなのでは?
「ジャン様、ちょっと失礼」
テーブルの斜向かいに座るジャンに身を乗り出し前髪をあげるエリーゼ。
思い立ったがスグ行動。エリーゼの長所であり短所である。
「は?」
「エリー!」
「エリちゃん、ちょ、なにしてるのー!?」
「ん?前髪あげたら絶世の美青年がいるのかと思ったんだけど、意外と普通だった。あ、でも薄い青の瞳は綺麗ね。アクアマリンみたい」
「~~~~っ!!ジャンさんはか、顔じゃないの!ジャンさんの魔力制御はほんとに精密で、魔力効率が凄くいいの!魔術展開も、防御壁の不安定なところに自分の魔力馴染ませて直ぐに均一にしちゃうんだから!それに、助けてくれた時の手がすごく大きくて安心感があって、鍛錬してると暑くなるんだけど、たまにジャンさんが水魔法で霧みたいなの降らしてくれてそれも涼しくて、魔力も透き通った川の水みたいで気持ちいいし、見えないけど多分絶対優しい瞳をしてると思うし、それに」
「アリス嬢!その辺にしてもらえるかな?ジャンがもう撃沈してるし、ビーフシチューも用意されたから」
なんと、給仕が個室に入って来たのにも気づかずジャンについての演説をぶっぱなしていたアリス。
好物のシチューを前に両手で顔を覆い丸くなるジャン。
全く令嬢らしくない顔でニヤニヤ笑うエリーゼ。
「アーリン。それに、なによ?」
「エリー、やめなさい」
「はーい」
熱くなりすぎて思わず立ち上がっていたアリスがゆっくりと椅子に座る。
そっと水を口に含み喉を潤す。
スプーンでビーフシチューの肉を崩し口に入れる。
「うわぁ、ほんとに美味しいですね」
その声にジャンはハッと顔をあげ同じようにシチューを口に運ぶ。
それを合図にハルバードもエリーゼもシチューを食べ始める。
「名物だけあるね、口の中で解けていくよ」
「えぇ、本当に美味しいです。ハルバード様なら食べ慣れているのでは?」
「そんなことないよ、ジャン。君は僕をなんだと思ってるんだ」
アハハ、と笑うハルバードとジャン。
「エリちゃん、お肉柔らかくて美味しいね」
と、アリス。
「アーリン。なかった事には出来ないわ」
エリーゼ、お前って奴は・・・
Wデート夏の陣は今まさに佳境を迎えようとしていた!!
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