第28話 少女が見ている夢

楽しいランチタイムである。

イザベルは張り切った。

それはもう張り切って前世チートした。

なんのこだわりかこの世界米だけはない。

だが、探せば醤油や料理酒なんかはある。

肉じゃがや(こんにゃくは探したけどなかった)卵焼き(甘いヤツ)唐揚げもつくった。

照り焼きチキンサンドや野菜サンドにハムサンド。

たくさんたくさん作った。

アルフレッドの呻き声は幻聴と判断した。

アリスにはたくさん食べろ、と何故かオリビアが勧めていた。

関西のおばちゃんパワーを遺憾無く発揮していた。

アリスは間違いなく遠慮するであろうと予測していた四人はとにかく考える暇を与えないように食べさせ、自分たちも黙々と食べた。

あらかた食べ終わった所でイザベルが切り出した。


「美味しかった?」

「はい。どれも美味しかったです」


アリスはニッコリ笑う。


「こちらの生活には慣れた?」

「はい。皆さん良くしてくださいます」


またニッコリ笑う。


「学園はどう?」

「はい。楽しいです」


また、笑う。


「城は胡散臭い笑顔のおっさんばっかりでしょ?」

「はい。うさ・・・え?あ、いえ、その・・・」


アリスはくしゃりと顔を歪めた。


「いいのよ。誰も咎めないわ」

「ねえ、アリスって呼んでもいい?」


イザベルは微笑み、エリーゼが声をかける。


「アリスはどんな食べ物が好き?明日はそれを作るわ」


ヴィオレッタが言う。


「お城のご飯飽きてない?好きなもの言っていいんだよ?」


オリビアが水筒からお茶を淹れて、アリスに手渡す。

アリスはお茶を一口飲んで瞠目した。


「このお茶・・・」

「市井に出回ってる一番安いお茶よ。ごめんね、意地悪とかではないのよ?」

「いいえ、いいえ!懐かしい・・・この味よりもっと薄かったけど、でもこの味」


アリスはカップを大事そうに抱えてクスリと笑いをこぼした。


「私が前にいた所は毎日生活していくのでいっぱいいっぱいで、食事なんかは小麦粉を水で溶いて薄く焼いたものに畑で取れた野菜を巻いて食べたりしてました」

「美味しそうね?」

「ふふふっ、全然おいしくなかったです。生地は味なんてなくて、野菜の味しかしなくて・・・たまにお姉ちゃんがトマトを刻んで煮詰めてってソースを作ってくれて。お母さん先生が教えてくれたって。その時だけはおいしかったような気がする。でもいつもはあんまり美味しくなくて・・・でもそれが嫌だなんて思ったことなかった。お姉ちゃんもシムも笑っててとても楽しかった」

「大事な、大切な人達なのね?」

「・・・突然家に人が来て、私を連れていくって。魔力暴走したからって。身一つでいいからって、でもお姉ちゃんとシムが床に頭擦り付けてお願いして次の日の朝まで待ってもらった。だから、朝までたくさんたくさん話したの。きっともう会えなくなるって何となくわかったから。お姉ちゃんもシムも、自分達がいなくても、きっとアリスを愛してアリスも愛せる人が現れるって。アリスは可愛いから、この人だって思ったら逃がしちゃダメよ?って。アリスは幸せになれるってお姉ちゃん笑ってた」


アリスはお茶をゆっくり大事そうに飲む。


「私は今、毎日美味しいご飯が食べられて、ふかふかのお布団で眠って、お菓子だって食べられるし・・・皆、優しいし。学校にまで行かせてもらえて・・・幸せです」

「アリス・・・」


アリスはまた笑った。

そうするのが正しいというように。

笑うアリスはとても愛らしかった。

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