第26話 男は女の手のひらでコロコロしてろ

引き続きシルヴァスタイン家離れである。


アルフレッドは語る。

国家機密じゃないの?って所まで語る。


聖女が見つかった経緯。

孤児院育ちで血縁はいない。

記憶がない。

魔力制御と舞を毎日鍛錬している。

皆、聖女と共に鍛錬し聖女を崇め大切にしている。

孤児院で暮らしていた頃より遥かに高待遇である。

もちろん、聖女に無理はさせない。

疲れが見えたら休ませる。

しかし、結界修復は急がねばならない。

キラキラ輝いていた聖魔力が徐々に失われている。

環境が変わったせいかもしれない、そう思い学園に入学させた。

普通の女の子としての生活をすればまた変わるかもしれない。

魔術科に入ったのは、魔力や魔素、魔術展開を学ぶため。

自分達は聖女の為に精一杯努力している。



イザベルは吠える。

吠えるイザベルは誰も止められない。


お前ら、揃いも揃って馬鹿か、阿呆か。

十四歳の女の子がいきなり聖女とかいわれて『はいそうですか』ってなるとでも思ってんのか?

『国を救う?オッケー任せて私国救っちゃう☆』ってなんのか?

あぁ?おめでてぇ頭してんな。

なんだ?頭お花畑になってんの?

記憶ないしー、血縁じゃないしー、って連れてきて大丈夫だと思ったわけ?

は?了承得てる?

おいおい、王家に言われて『いや、無理っす』って言えるやついんの?

ねえ、いんの?いねぇよなぁ?

しんどそうだったら休ませてる?

皆、優しくしてる?

んなこたぁ当たり前なんだよ!

だいたい聖女、聖女って誰か『アリス』って名前呼んでやってんのかよ!

お前もこれから『王子』って呼んでやろうかぁぁ!

聖女の前に一人の女の子なんだよ!

そりゃ荒むわ。

聖女の力って愛じゃないのかよ!

聖女じゃなくて、アリスを愛してる奴いんのかよ!

誰かアリスの好きな食べ物の一つでも聞いたか?

誰か、アリスに寄り添ってやれる奴はいなかったのかよ!!

あの子、今日すごく頼りなさそうに見えた。

でも笑ってくれた。

それは、そうしなきゃいけないから。

そうしないと居場所が無くなるから。

きっとアリスは馬鹿じゃない。

自分がやるべきことをちゃんとわかってる。

だから、きっと毎日一生懸命鍛錬してるんだと思う。

『アリス』としての居場所は奪われたから、あんたらが奪ったから!

だから今度は『聖女』としての居場所を守ってる。

『聖女』としての居場所まで失ったら何も残らないから。

そのために頑張って笑ってる。

なんで?こんな・・・こんな世界だなんて思わなかった。


いつの間にかイザベルの瞳からはボロボロと涙がこぼれ落ちていた。

ヒックヒックと、泣きじゃくりながらイザベルは考える。

この世界はこんなに辛い世界だったの?

この世界で生きてるって思ってた。

ほんとに?心のどっかで甘い甘い乙女ゲームの世界を見てなかった?

アリスが聖女の力に目覚めた理由なんてゲームに無かった。なかったからって、ないわけじゃない。

あんな切り取られた物語に何も意味なんてなかった。

みんな生きてる。誰もが生きてる。みんな自分だけの物語の主人公なんだ。ヒロインもヒーローも悪役令嬢もいない。わかってるつもりでしかいなかった。


「ベル、泣かないで」


そっと抱かれて髪を撫でられる。その温もりにまた泣けてくる。


「ほっ、ほんとに偉い奴らは馬鹿ばっかりだっ!!」

「うん、そうだね」


雨が窓を叩く音がする。

遠くで雷が鳴っている。


「大丈夫。きっとすぐ止む。ただの通り雨だよ」


かけられた声は掠れていたけれど、甘く響いて雨音に溶けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る