第25話 重ねる唇

シルヴァスタイン家離れにて──


馬車から降り、そのまま手を握られ足早に離れへと急ぐアルフレッド。


(ちょ、ちょ、足の長さ考えて!早い!早い!)


イザベルは足がもつれないようにするのに必死である。


「お嬢様ー!お待ちくださいー」


振り返れば侍女のマリーが追いかけてくる。もうすぐ追いつく所で離れに到着。


「マリー、マリー、お茶!お茶いれて」

「いらん!呼ぶまで誰も来るな!」


イザベルとマリーは唖然とした。いつも王子様然としたアルフレッドからは考えられない物言いであった。

怒ってるの?ヒロインと会ったばかりで意地悪なんてしていない、なんで?なんで?イザベルの頭は混乱した。

まさに放り込むというようにイザベルを部屋に入れ、バタンと扉を閉めるアルフレッド。

そして、そのままイザベルはアルフレッドに背中から抱きしめられた。


「あ、あの殿下?」

「もうアルって呼んでくれないの?」

「そ、それは、その・・・」

「・・・なんで手紙の返事くれなかった?」

「返事?・・・出してませんでしたっけ?」

「もらってない」

「・・・ごめんなさい」


イザベル痛恨のミスである。

アルフレッドはイザベルの肩口に顔をグリグリと埋めている。

そのままアルフレッドの好きにさせていたイザベルだが辛抱切らし問いかけた。


「アリス様はよろしいのですか?」

「・・・・・・なんでアリス嬢?」

「それは・・・可愛らしい方でしたし、一緒にいらっしゃったので」

「・・・・・・・・・・・・」


何も答えないアルフレッドに不安になるイザベル。

どうしたんだろう?やはりヒロインの事が気になるのだろうか。

考えると鼻の奥がツンとする。

イザベルは知らず俯き、グッと下唇を噛んだ。と、その時不意にぐりんと体が回り真正面にアルフレッドがいてそのまま抱きしめられた。


「妬いたの?」


抱きしめたまま、ニヤニヤと笑いながら見下ろすアルフレッド。

その顔を見た瞬間、イザベルから全ての猫が逃げ出した。


「はぁ?なんで笑ってるわけ?」

「ベルが妬いてくれたんだぁって思ったら嬉しくって嬉しくって」


そう言いながらアルフレッドはイザベルの額にそっと口付けた。


「は?なに、いきなりデコちゅーなんてしてんだ!」

「でこちゅう?あぁ子どもの頃、額のことおでこって言ってたな。じゃぁ、ちゅうってこれのこと?」


と、言いながら額に頬に口付けを落としていく。


「はははっ、ベル顔真っ赤」

「ひ、人の気も知らないで!こんな・・・てか、今まで手つないだことしかない!それをいきなりぎゅうするし、しかもちゅうまでするとか、もう、もう、飛ばしすぎ!」

「ぎゅうにちゅうってベルは可愛いなぁ」


アルフレッドは止まらない。

腰と後頭部に手を回し自身に押し付けるように抱きしめる。イザベルはされるがままである。


「寂しかったよ。ここしばらくベルに会えなくて寂しくて寂しくて、今日学園でベルを見たら止められなかった。可愛いベル、僕にはベルだけだよ。せっかく想いが通じあったんだ。手放すわけないよ」


そっと抱きしめる力を緩め、額をコツンと合わせる。

吸い込まれそうな青い瞳には涙目のイザベルが映っている。


「ねぇ、ベルは?寂しかった?」

「・・・会いたかったよ、アルに」

「ふふ、僕も」


見つめ合いながら、鼻を小さく擦り合わせる。

そのままどちらからともなく唇を合わせる。

触れ合うだけの小さなキス。

ふふふ、と笑い合う二人。


「もう1回ちゅうしていい?」

「ちゅう言うな」

「ん、可愛いから」


ちゅっちゅと小さく音をたてながら、額に頬に瞼に鼻に、そして最後は唇に。

唇を食むように口付けていく。

ゲームの事、ヒロインの事、アルフレッドの事、漠然とした不安が渦巻いていた心がそっとほぐれていく。

キスってすごい、そうイザベルは思った。

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