第19話 貴族に恋は難しい
ゆっくり話せる場所とやらに向かうために馬車に乗る。
男女で別れようとするのを、作戦会議阻止の元男二女二で別れて二台の馬車に乗る。
オリビアが小さく舌打ちしたのを聞いていたのはエリーゼだけであった。
そして着いた先は、シルヴァスタイン家離れである。
「昨日着ていた部屋着に着替えることを要求します!」
「えぇぇぇ、イーちゃんあんたの婚約者頭大丈夫?」
オリビアの開き直りの早さは電光石火である。不敬の二文字は彼女の辞書にはない。
「殿下?どのような部屋着かを知っている、ということでよろしいですか?」
「ぐっ・・・そ、それは・・・」
「やっぱストーカーじゃん」
「オンちゃんおだまり。まあ、私たちのこと話すなら着替えた方がわかりやすいか・・・みんないい?」
「「「 いいよー 」」」
「あ、ベル!うさぎのやつ!ちゃんとフード被ってきて!」
「・・・・・・かしこまりました」
ジト目のイザベルに対して満面の笑みのアルフレッド。
温度差がすごい。
「オンちゃん、マジでそれ着るの?」
「うん、一番の芋ジャージ」
「3-5っていつ刺繍したし」
「無駄にうまい」
「三つ編みおさげにしよう」
「レッタンとエリちゃんはお団子にしてあげるー」
扉の向こうからキャッキャウフフの声が聞こえる。
少年達はソワソワしながらクッションに座りじっと扉が開くのを今か今かと待ち侘びている。
ガチャ───
「おまたせしました」
淡いピンクのもこもこうさみみフード付きパーカーにショーパン、同じくもこもこのニーハイを履いたイザベルが頭を下げた。
その次に現れたのはヴィオレッタ。
白のシャツワンピに黒のレギンス、レギンスの裾にはレースがあしらわれており裸足である。
エリーゼは薄いブルーの大きめの長Tシャツの右胸にはクマの刺繍が施されている。もちろんショーパン裸足である。
最後はオリビア。小豆色のジャージにハーフパンツ、もちろん袖とパンツのサイドには白いラインが2本はいっている。
「「「「 100万点!!!! 」」」」
「それは、まぁ、ありがとうございます」
「カーティス様は目がおかしいですよ」
話しながら席につき、着替えてる間用意してもらっていたお茶を飲む。
「んんっ、ごほん。色々聞きたいことがあるのだが・・・」
アルフレッドが口火を切った。
「ええ。そうだと思います。ただ、私たちも何から話せばいいのか・・・」
イザベルは片手を頬に当てて首を傾げた。
「私たち、ずっと猫を被っておりましたの」
「猫?」
「ええ、猫です」
「「「「 にゃーにゃー 」」」」
四人の少女達は緩く拳を作り、それを胸の前や顔の横につけ各々の思う猫のジェスチャーをしながら鳴いた。
少年達は胸を押さえ、ハァハァと肩で息をしているがイザベルは無視することにした。
「この猫を五十匹ほど被っておりました」
「なぜ?」
「言わなきゃいけませんか?」
「聞くまで帰らない」
「・・・好きになりたくなかったからです」
「どうして?」
「・・・いつか、捨てられるから」
「根拠は?」
「学園に入れば私たちよりもっと素敵で可愛い令嬢がたくさんおります。今は、多分憎からず思ってくださってるんでしょうが・・・他の方に気持ちが向いてしまうのが耐えられなくて」
「未来のことなんて誰にもわからない」
「わかるんです」
「どうして?」
「私たちは臆病なんです。怖いんです。好きになった人に他に想う方ができた時に自分がどうなるのかが怖い。きっと嫉妬にかられて酷いことをしてしまう。それが怖いんです。だから、猫を被って好きにならないように、こちらに踏み込んで来させないようにしていました。そうすれば、近い未来殿下達が心変わりしても耐えられると思って」
それに、とイザベルはなおも言葉を紡ぐ。
「私たちはおよそ貴族の令嬢らしくない。それらしく振る舞うことは出来ますが、今この場の私たちが素の私たちです。口も悪いし、このような軽装を好みます。容姿も地味ですし、あなた方の隣にたつのにふさわしくありません。」
「だから、平民になりたいの?」
「・・・っ、そ・・・うですね。貴族社会から抜ければあなた方とお会いすることももう無いでしょうし、気持ちに区切りがつくかと思いまして」
「昨日、泣いていたのはその猫を被ってるのが辛くなったからなの?」
「え、いや、それは・・・」
「答えて。なんで泣いていた?」
「・・・・・・笑っていたからです」
「誰が?」
「殿下達が、です。あんなてらいもなく笑うお姿は初めて見ました。その笑顔がこの先他の方に向けられると思うと、止められませんでした」
「それは、僕達のことが好きってことでいいのかな?」
四人は答えない。
目を伏せ、袖に隠されたブレスレットをさするだけ。
好きになってしまった。
忘れられるかも?と今日は朝からはしゃいで時間を過ごした。
けど、駄目だった。
アクセサリー屋の店主の恋人と二人で夢を叶えた話は素敵だった。
広場で恋人たちを見た時、正直自分達に置き換えてデートする様を想像した。
そして、声をかけられ見上げた顔を見た時もう駄目だった。
あぁ、この顔が好きだ、と。
あぁ、この声が好きだ、と。
思い知らされた。
これが強制力なのか本当の気持ちなのかはわからないが、もう止められない、止めることができないと悟った。
だったら、全部さらけ出そう。
ふさわしくないと、今、ここで引導を渡してもらおう。
まだ、まだ傷は浅いはず。
少女達は、祈るような気持ちで拒絶の言葉を待った。
恋とは、ままならないものである。
もうすぐ日が暮れる。
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