第17話 ピリオドの向こう側裏

シルヴァスタイン家の私兵に混じって少年達は婚約者達を見守っている。

繰り返す、これは見守りである。


「ベル可愛すぎない?」

「エリー拐われたりしない?」

「ヴィオは何を祈ってるの?」

「リビィが可愛いすぎて辛い」


再度繰り返す、これは見守りである。

婚約者が街で暴漢に襲われやしないか、道に迷い心細さに泣きだすのではないか、あまりの可愛さに不埒な者が声掛けするのではないか。

そういった輩から守ってやらねばならない。

そういった強い意志の元、少年達はここにいるのだ。

可愛い婚約者の姿を見てにへらにへらと笑う会ではない。

しつこいようだがこれは見守りである。


冒険者ギルドミスル本部──

国内最大のギルドであり、第一線級の冒険者が集まる本部でもある。

ギルドは五階建てで一階に大食堂を併設しており、冒険者でなくとも誰でも利用出来るようになっている。


「あ、ベル達の後ろの席空いてる」


各テーブル衝立で仕切られただけのそこに婚約者達を見つけ、コソコソと後ろの席に陣取る少年達。


「オンちゃん、さすがに500は無理じゃね?」

「どっかの海賊が肉さえ食ってりゃ大丈夫って言ってたから大丈夫!」

「んなこと言ってた?」

「言ってなかった?」

「知らねー」


ゲラゲラ笑う少女達に対比して肩を落とす少年達。

彼女達はこんなに口が悪かっただろうか。

自分達が見ていた彼女達は一体なんだったろうか。

微笑む姿は可憐で、決して声を荒らげる事もなくいつも穏やかに話していたように思う。

一体どちらの彼女を好きになったんだ?

ただ、あの日あの場所で笑う彼女を見て心が震えたんだ。

自分の隣で笑ってほしい、と。

願わくばその笑顔をひきだすのは自分であってほしい、と。


「都立学園の話、面白かったね」

「ね、職業訓練校なんかあったんだねー」

「・・・・・・うちら行けないかな」

「無理でしょ」

「だよね」

「や、でも、断罪後ならワンチャン」

「なるほど。けど断罪内容によらない?」

「そこは平民落ち目指すしか・・・」



何だ?何の話をしている?

都立学園に通う?

平民落ちって彼女達は貴族籍を抜けたがってる?

どうして?

嫌な汗が背中を流れる。

彼女達は何を言っている?

少年達は焦っていた。

彼女達の言ってることがわからない。

考えてみれば、いつもいつも一定の距離から近づけないような気がしていた。

何度も会って話して、笑顔もたくさん見てきたと思う。

だけれども、あの日のような心からの笑顔を自分達に見せてくれたことがあっただろうか。


「僕達は彼女達と話さなければならない」

「アルフレッド・・・」

「今の聞いたか?なんで平民になりたがる?」

「僕もずっと思ってた。あと一歩近寄らせてくれない。嫌われてはないと思う。エリー達は何か隠してるよ」

「俺もそう思う」


初恋に浮かれていた少年達は立ち上がる。

想い人に真意を問いただすために、今、彼女達のテーブルへと・・・


「お嬢様達ならもう出ましたよ」


私兵があっさり言う。


「「「「 なんでもっと早く言わないのー!!! 」」」」



「なんか深刻そうだったんで・・・申し訳ありません」


シルヴァスタイン家私兵トーマス・ディーン(32)は多分悪くない。

見守り対象から目を離す方が悪い。

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