第16話 ピリオドの向こう側

早朝、シルヴァスタイン家離れ。

結局、四人お泊まりし平民服に着替えて今である。

泣きすぎて不細工になった顔を、魔法ですか?な手腕で侍女が可愛く仕上げてくれた。

膝丈の白いワンピースに編み上げブーツ。

ワンピースにはそれぞれの誕生花が大胆に刺繍されている。

首に巻いたスカーフは水玉模様の色違いのお揃い。


「はぁー、忌々しいくらい晴れてやがる」

「オンちゃん、口悪い」

「うっせ」


最初の目的地«花の森»出発です☆


──カランカラン

「「 いらっしゃいませ 」」


出迎えたのは長い茶髪を後ろでひとつにまとめた垂れ目の甘い顔の店主。

イケメンである。

もう一人カウンターの中から声をかけたのは、黒に近い青い髪をサイドに流した神経質そうなこれまたイケメンである。


「ブレンド一つとカフェオレ三つお願いします」

「かしこまりました」


店主もカウンターキッチンに入り、注文品を準備していく。


「令嬢には紅茶っていう風潮無くなればいいと思うの」

「それな」

「パンの焼けるいい匂いするー」

「あぁぁああ、今日も今日とて推しカプが尊い」

「この後どうする?」

「裏通りにアクセ屋出来たらしいよ」

「まじで?」

「うん、サーちゃんに前聞いた。めっちゃ可愛いらしい」

「行く!!!」

「・・・レッタン拝むな」

「はぁ、コーヒーのいい匂いする」

「あと、ミスル広場にクレープ屋の屋台出てるって」

「まじ?転生者いるんじゃね?」

「ねー、どんどん美味しいもん作ってほしい」

「やっぱここのコーヒー美味しいねー」

「パンもカリもちで美味い」

「レッタン、もう出るけど目に焼き付けた?」


朝食戦線異常無しです☆



ランス王国王都ミスル───

王城は霊峰ランスミル岩山を背にそびえ立ち、そこから扇状に貴族屋敷、貴族街、平民街、貧民街と広がっている。

彼女達が今いるのは平民街。

メインストリートのミスル通りから一本外れたラオ通りは小さな店がひしめき合っている通りであった。

件のアクセサリー屋は人が五人も入ればいっぱいになるような小さな小さな店であった。

店主はまだ年若く、豊かな黒髪を緩く三つ編みにし後ろに垂らしていた。

聞けば、都立学園で経営のノウハウを学び店頭に並ぶアクセサリーは彼女の恋人がデザインから制作まで一人で請け負っているという。

卒業して二年必死で働いて、商業ギルドにも少し借金してやっと構えた夢の城だと言う彼女は眩しいほどに輝いていた。


布地のバレッタには繊細な刺繍が施されており、刺繍だけは私がやってるのと店主の彼女は笑った。


白地に鮮やかな緑の葉の中にある真っ赤ないちご柄のバレッタをイザベルは買い、小さなガラス玉を磨いて色を付け紐を通したブレスレットは四人お揃いで買った。


イザベルは夜の海のような青。

ヴィオレッタは芽吹いたばかりの若葉のような緑。

エリーゼはすみれのような紫。

オリビアは薄い黄と茶のマーブル。


これに深い意味はない。

ただ可愛かったから。

目についたから。

自分に似合うと思ったから。

深い意味なんて絶対ない。


「とてもよくお似合いですよ。こんな可愛いお嬢さん方につけてもらえるなんて彼も喜びます」



ありがとうございましたー!と朗らかな声を背に店を出る。

陽に掲げるとブレスレットはキラキラ輝き、なんだか泣きたくなった。


でも、だけど、泣くもんか。

絶対に泣いてなどやるものか。

通りを風が吹き抜け、思いがけず優しく頬を撫でていく風に小さく笑みがこぼれた。


休日はまだこれから。

きっとまだ大丈夫。


少女達は顔を見合わせ笑った。

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