第12話 覚醒─発展途上俺─

某日王立騎士団黒騎士団にて──


王城や要人の警護を担当する白騎士団。

城下の警備を担当する青騎士団。

魔獣討伐を担当する黒騎士団。


三つある騎士団のうちオリビアが推しているのは専ら黒騎士団である。

黒騎士団はその任務の過酷さから、門戸を広く開き平民から従事しているものが多数であった。

そこがオリビアの心を震わせる。

叩き上げのハングリー精神、仕上がっている体躯。

筋肉大好きなオリビアが黙っていられるはずがない。

今日も今日とてオリビアは黒騎士団の鍛錬場に見学に来ていた。


ふんふふんふんふーん等と鼻歌を歌いながら通い慣れた鍛錬場までの道を歩く。

もちろん平民服に身を包み、お付の侍女にも平民服を着てもらいお姉ちゃん設定にしたオリビアにぬかりはない。


「あー、オンちゃーん!こっちこっち!マルクが遠征から帰って来てるよー」

「まーじーでー!」


オリビアは駆け出す。

マルクは平民出身二十二歳のオリビア一推しの騎士である。

オリビアを呼ぶのは鍛錬場で知り合い仲良くなった平民のサラ。


「どこどこー?・・・・・・は?な、なんであいつがここに!?」


オリビアの視線の先にはマルクではなく赤髪の騎士見習いであった。


「オンちゃん知ってるの?あの赤髪の子こないだから来てるよー。かっこいいよねー。あれはいい筋肉育ちそう♡」


これはサラと同じく仲良くなったミンファ。

サラ、ミンファ、オリビアの三人娘は筋肉同盟を結成しこの黒騎士団の鍛錬場見学の常連であった。

ちなみに会長は騎士団マニアのサラである。


「さ、サーちゃんミンちゃん、わ・・・私今日は・・・」

「あ、休憩だ。マルク脱ぐよ」


見つかってはいけない、早く逃げなければと、2人の影に隠れていたオリビアが華麗な身のこなしで柵に飛びついた。

汗で張り付いたシャツを脱ぐ団員達の中にお目当てのマルクを見つけ相好を崩すオリビア。


(あぁ、あの盛り上がった僧帽筋。はち切れんばかりの大胸筋!素敵すぎる!叫びたい!)


「オリビア嬢!」

「・・・っ!・・・・・・(やばい、一瞬で愛騎士の事忘れてた!)」


オリビアの単純単細胞は長所である、と思いたい。


「本当だったんだね、オリビア嬢がこの鍛錬場に見学に来てるって。そういう装いも似合ってる」

「・・・・・・ごきげんよう・・・カ・・・カーティス様。どうしてここに?」

「ん?オリビア嬢がよくここに来てるって聞いたのと、あと全てにおいて強くなりたいから」

「(は?誰が情報漏洩しやがった!)・・・そ、そうなんですの」

「そちらはご友人?」


オリビアはハッと思い出し、同盟仲間を振り返る。振り返った先の二人は不思議そうにオリビアとカーティスを見つめている。


「・・・友人のサラとミンファです」

「「 こんにちは 」」

「こんにちは。俺はオリビア嬢の婚約者のカーティス・リード。よろしく」

「婚約者!?」

「ちょ、待って、リードってまさか・・・」

「あぁ、父は総団長のステファン・リードだよ」


あぁ、オワタ・・・せっかく仲良くなれたのに・・・

筋肉談議できる仲間だったのに・・・

こいつの婚約者だとバレた今、自分も貴族であるとバレたに違いない。

あぁ、さようなら私のめくるめく愛欲の筋肉の世界・・・

最後にマルクを見れて良かった・・・

オリビアの顔からは血の気が引いておりもう真っ青である。


「オリビア嬢?」

「え?あ、はいなんでしょう」

「さっき、ずっと先輩方を見てたね?」

「ひっ!・・・・・・(怖い、怖いから!普段大型犬みたいなのにこのたまに見せるヤンデレみたいな瞳がほんと怖い!見ないで!見ないで!)」

「・・・・・・まぁ、いいや。これからリビィって呼ぶから。じゃあね、リビィ」


駆け出すカーティス、見送るオリビア。

この世界に神はいないのか・・・とオリビアは倒れ・・・


「「 オンちゃん!!詳しく聞かせな! 」」


・・・られなかった。

オリビアは話した。それはもう洗いざらい話した。

貴族であること、総団長の息子が婚約者であること、その婚約者に塩対応しているのになぜか日を追うごとに懐かれ犬みたいになってること、その犬がたまに仄暗い瞳をするのが怖いこと。貴族だけど今までと変わらず友達でいて欲しいこと。好きな筋肉のこと・・・は話を止められた。


「・・・オンちゃん、男ってのはね、基本皆追いかけたいんだよ。男は狩人って聞いた事ない?距離とられるとその距離詰めてやるって逆に燃えるんだよ。特に騎士だったら余計に闘争心がわくんだよ」

「へ?じゃ、じゃあ、今からグイグイいけば嫌われるかな?」

「もう遅いでしょ。懐に入れられて囲いこまれるよ。マルク見てたオンちゃん見てた瞳すんごい怖かったもん」

「じゃ、じゃあ、詰んだってこと?」

「てか、何が駄目なの?カーティス様かっこいいし将来有望じゃない」


次の定例報告会で報告せねばならない。

塩対応は悪手であった、と。

オリビアは燃え尽きながらそう思った。




休憩する騎士たちに駆け寄るカーティス。

「先輩!!」

「あ、カーティス様」

「ここでは身分関係ないのでカーティスと呼んでください。あの、あそこにいる3人なんですけど」

「ん?よく来てる子達だね。可愛いよなー、あのちっちゃい子はマルクをよく見てるし」

「マルク先輩!あの子は俺の婚約者です!負けません!マルク先輩より筋肉つけて強くなります!」

「え?あ、はい、わ・・・かりまし・・・た?」


マルクは悪くない。










余談だが、カーティスはとっくに精通を済ませている。

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