転生者の真実

「今の怪物はな……に?」


「そんなことより、なんでいるの?魔育館のプライバシーシステムは起動させたはず!!」


 険しい表情で詰めよりアルシェの胸を掴むメリナは、どこか怒りを見せている。


「く…くる」


「ストーーップ!!」


「こ……心さん……」


 詰め寄るメリナの肩を掴み自分の元へと引き寄せる黒い長髪の女性。小山心。聖女召喚によってシズウェンに呼ばれた女性。彼女は世界の食文化を数百年進めたと言われている。


 数十年前まで全てにおいて貴重品だった胡椒や砂糖も今では、質の悪いものなら庶民の手に届く価格まで下がっている。彼女の生み出したレシピは庶民から貴族にまで愛されている。


「ケホッ、ゴフッ…え?こここここ……」


 心……そう発音しようにも緊張で舌が上手く回らないアルシェ。


「とりあえずねーー。移動しよっか?」


 朗らかな笑みを浮かべながら指を鳴らすと、一瞬にして空間が入れ替わる。魔育館よりは狭いが図書室くらいの広さがあり、栞が乱雑に挟まった本が積み上げられている。


「え?転移魔法。地球の人!!」


「それで、なんであんなとこにいたの?」


 感激をしているとすぐにメリナが問いただしてくる。それに対してアルシェも、もしかしたら魔法訓練の様子が見れるかもという期待をして覗きに来たことを素直に説明する。


「普通の現地人があそこに入れるはずないんだよね」


「え?」


「あそこはねー、表向きは普通の魔法訓練のための魔育館だけどね。裏の目的はねー。転生者を殺すための結界の役割もあるの」


「は?はぁ?」


 心の唐突な暴露に動揺し、なぜ殺す必要が?等の疑問がどこまでも追いかけてくる。


「最初から説明してあげるねーー」


~15年前~

 スタジュアネ。穏やかな農村でゆっくりとした時間が流れてるような平穏な村。リューチャと呼ばれる老人が微笑みながら元気に遊ぶ子供を見守っていた。


「神か……」


『うん。君も解ってると思うけど君の寿命はもうすぐ尽きるよ』


「そうか」


 いつの間にか隣に空中で胡座をかき浮遊している金髪の少年。それに驚くこともなく頷く。


『リューチャ……いや北村春也。最初の転生者の最後を間近で見届けに来たんだ。あの空間でも見れるけどね』


「はは、ありがとう」


『せっかくだし、僕がこの世界に送り込んだ10人の転生者も呼んだんだ』


 そう言われ、既に一線で活躍してる現役冒険者や、これから何を成すのかわからない子供を男女ひっくるめて8人の人間が現れる。次々とリューチャへと挨拶していく。そもそも同郷の人間というだけなので、知らない人間を合わせて何をしたいのか解らない。そこまで酷い性格をした人はいなかったのは幸いだった。


ラルラ・ディアウェン

オルド・チャウス

セーレ・ネインジャ

ルカ・レドシア

リリック・チャージ

アクロ・セインド

ラウス・エレルド

リュカ・アルス


 リューチャを除き8人の転生者が周囲に現れて自己紹介をはじめる。


「1人足らなくないか?」


『あれ?……あー、最後の転生者はまだ産まれてなかったよ。ごめんね』


「いや、別に構わないが。まぁ、大勢に看取られながら眠るのは悪くないな」


 そう言いながら目を瞑る。


「な、なんだ!!」


 リューチャの身体から黒色の霧が溢れだし身体を包み込み、それは次第に肥大化していき黒く禍々しい竜へと姿を変えていく。その光景をみた赤髪の冒険者リリックが最初に声を発した。


『アハハはは!!成功だ!!』


 黒竜へと姿を変えたリューチャは我を忘れ暴走を始め、自らが愛した村を破壊し始める。


「なんだありゃあ!!」


「モンスターよ!!逃げて」


「リューチャさんは今はいないのか?」


 村人は口々に各々の考えを言いながらも逃げ惑う。黒竜はそんな言葉に異を介さず暴虐の限りを尽くす。町も人も、竜の吐息に焼かれていく。


「やめなさい!!……くっ…こっちはダメか」


 セーレは暴れる竜化したリューチャに次元から鎖を出現させ縛り続ける。時折様子を伺いながらも隷属の首輪を出現させ隷属化を試みるが、つけたとたんに首輪はすぐに腐敗してしまう。


『あはははは!!!!最高だよ!!最高だ!』


 転生者を送り込んだ神は歪な笑みを浮かべたと思えば、村が破壊され人が殺戮される光景に恍惚とした表情を見せる。


「何を笑ってるのですか!!!」


 リュカ・アルスは神に向かって険しい表情で諌めようとするが、笑いはやめない。


 数時間後8人の転生者は与えられたチートを使い元リューチャの討伐に成功した。


「はぁ……はぁ…これはどういうことだ?神ィ!!?」


 とどめをさしたオルドが神に向かって怒鳴るが、怯むことなく神は説明をはじめる。


「これって?これは君たちの末路だよ!!君たちに与えた僕の力は君達が死ぬとき君達を蝕む呪いなんだよ!!!僕のために君達は魔物になってもらうのさ」


「な……なんで!!私が死んだとき手違いで殺して申し訳ないと謝ってたでしょ?謝罪をしたのに呪いをかけるなんて……」


 セーレが聞くと神はきょとんとした表情を見せる。


「嘘に決まってるじゃーん。見返りもなく下等生物を助けるとか自分達がどれだけ偉いと思ってるの?君達は知らず知らず潰してしまった蟻を丁重に弔ったりするのかな?」


 そんなことを言われ黙ってしまう転生者一同。


「まぁ、君達に流れる僕の力を解析した事で召喚なんていう魔術を王家が開発したのには驚いたよ。しかも人の分際で時空に歪みを作ったせいで歪みが消えず彷徨者なんていう転移してくる人も現れる始末だ。まぁ、些細なことだ。君達は死ぬときに世界を壊す怪物になる。その運命は変えられないよ」


 そんなことを言い残し消えていく神。残された転生者。


「転生かと思ったら魔法少女でござったか」


 ラウスは呆然としながら呟くがオタクは少なかったのか返答はなかった。


 転生者達は生き残りがいないか確かめるが、ほとんどの人は症気に当てられ生き絶えていた。そんな折に1人の赤ん坊の少女を見つける。


 誰が引き取るかで揉めたが最終的にラルラが引き取り嫁であるシェイナと共に育てられる。少女はメリナと名付けられた。


 そして、メリナを拾った10年後。メリナの元に1人の彷徨者 小山心が現れる。


「ラルラさんですね?」

 

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