虫ケラ2023

@kaburanaiID

虫ケラ2023

吾輩は虫である。

名前はある。まあ使うことはないのだが…。

そんな僕でもこの世に生を受けて、なんだかんだ生きている。

今日は公園に散歩に出ている。

良い陽気である。

木陰で休んでいるとそこに人間という強大な力を持った生き物がやってきて僕を踏み潰した。

またか、と思う。

こんなことは日常茶飯事である。

不思議と踏み潰されても生きているものだが、痛いものは痛いのである。

彼らは僕がここで潰れ、苦しみの叫びをあげようともそれには気が付かない。

僕の声はとても小さいからだ。

卑屈な自己紹介になってしまったが、僕は僕が好きである。

力無き存在であるが、そんな自分を誇りにすら思っている。

僕には夢がある。

いつか、僕にしか出来ないことをするという夢が。

そんなことを願っているうちにいつしか僕にはやるべき事ができた。

それはこうして文字を書くこと。


本当のところ、僕は虫ではなく人間である。

力あるもの達が自分達を虫に例えて、卑屈な文章を書いていたのを真似てみたのだ。

僕からしたら彼らは虫などでは無い。

彼らもまた気付かずに虫を踏みつけ、その絶望の涙に僕を沈め、苦しめるのだ。


僕には教養が無い。

だからこの文は小学生が書いたような文に見えるのかもしれない。

難しい言葉など知らない、努力する気力すら湧いてこない。

自分を虫に例えるような、そんな卑屈な作品を書いてきた文豪達の作品を読んだ教養のある者達は、この作品が二番煎じ、三番煎じに思えるだろう。

お前の感じている苦しみなど、既に皆が通っており、お前の言葉も何度も見て、使い古されたものだと詰るのだろう。

それでも僕にはこうして書くことしかできない。

僕の苦しみを普遍的なものにしないでくれ、この苦しみは僕の誇りでもある。

僕が僕であるための苦しみなのだ。


ああ、こうして書いているうちに何が言いたいのかわからなくなってしまった。

悲しいかな、こういうところに頭の悪さが出てきてしまうのだろう。

あわよくばこの文が人目に触れ、本当は僕にも力があったんだと思えたら、今より少し幸せになれるのかもしれない。

でも、そうしたら僕は虫達の裏切り者になってしまう。

僕を仲間だと迎え入れてくれた人達を裏切りたくは無い。


ああ苦しい、苦しいなぁ。

ふと死にたいなぁなんて思うこともあるけれど、それは言葉だけのもので本当は死にたくは無い。

生きたいからこんなにも苦しいんだよ。

もし僕が人間になっても僕を嫌わないでいてくれるかい?

きっと無理だろうな。

僕の仲間からそうして人間になったやつを見て、祝福こそしたけれど、その一方で憎しみにも似た感情が湧き上がってくるのもわかっていたんだ。


なんて醜いのだろう。

醜いと言えば、僕がこうして自分を虫に例えてはいるけれど、虫さんだって卑下の象徴みたいにされて御立腹なのではないか。

虫さんの方が立派にカッコよく生きている。

ごめんなさい、虫さん。

もう自分のことを虫だというのはやめるよ。

じゃあ僕は僕のことをどう表現したらいい?

そんなことを思いながら文字に書き出して、少しでも頭がぐちゃぐちゃにならないようにしている。




あ、今何になりたいのか思いついた。

ヒーローになりたいんだ。

僕の仲間達を全て救ってあげられるようなヒーローに。


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