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せまい穴の中には、ねぶくろやら食べかすやら土の入ったふくろやらがちらばっていました。奥では、泥棒たちが、「冷える日だなあ、土が氷のように固いぞ」などとつぶやきながら白い息を吐いていました。スコップで固い土をけずるように掘っています。
「おい、そろそろ上に出てみよう。このあたりで食料の調達でもしておかないと、腹がへって死んでしまうぞ」
親分が言いました。子分は「ヘイ食料」と向きをかえてななめ上にスコップをあてました。そのとき一瞬、子分はうずくまりのいるあたりに目を向けてビクリとしました。「何かいる」と思ったけれども、そんなことを言ったらまた親分におこられてしまいます。
子分は気のせいだと思うことにしました。そして、今見たものを忘れるために、今まで以上に熱心に、わき目もふらずに堀りました。
おかげで、あっというまにどこかの店の床下に出ることができました。
「やるじゃないか」
親分はよろこんで、そっと床板をもち上げました。夜明け前です。シャッターをおろした店内はまだしんとしずまっています。
親分はランタンの明かりを弱めて、そっと店内を照らしました。
「おい、やったぞ、パン屋だぞ」
さんざん掘ってようやく、となりのパン屋につながりました。銀行まではまだまだ遠い道のりですが、これからはいつでもパン屋にしのびこめます。腹をすかさずにすむと思うと、二人はうれしくなりました。
きれいにかたづけられた棚のすみに、ビニールぶくろに入れられた、売れのこりのパンがおかれていました。二人はさっそくパンのふくろをひっつかみました。そして「それにしてもひえるな。地下の方がまだましだ」とささやきあいながら、穴の中に戻ろうとしたときでした。
うずくまりが、ランタンの光を追って穴からぬうっととび出してきたのです。
これには親分もびっくりです。泥棒たちは、ぎゃあとさけんでパンのふくろをとりおとし、店内をあちこち走りまわったあげくにランタンをけとばしてこわしてしまいました。あたりは真っ暗闇です。光を追ってきたはずのうずくまりは、あたりが急に暗闇になったのであわてふためいてしまいました。夢中で、にげまどう子分の背中にしがみつきました。泥棒たちはうずくまりを背負ったまま、あっちにぶつかりこっちにぶつかり、もときた穴を逃げ帰りました。
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