交流会 開会のダンス

月末。ついにヤマト学院との交流会の日を迎えた。

今年の交流会はウェルセリア側で行うことになっており、ヤマト皇国の方がはるばる遠くから来てくれるそうだ。


朝のホームルーム。教壇に立つシルバー先生。これから交流会の大まかなスケジュールを教えてくれるらしい。


「知っての通り交流会は2日かけて行う。初日はまず開会式だ。それが終わったらヤマト学院の子と一緒に座学の授業を受けてもらう。そして授業が終わると王宮に移動し、パーティ会場で食事会を行う。それが終わると王宮ホテルで学院の生徒たちと相部屋で寝泊まりする。これで一日目が終了だ。ここまでで何かあるか?」


特に質問は出ない。とにかくてんこ盛りなスケジュールなことだけは伝わった。


「親睦を深めた最後の2日目に拳と拳で語り合う親善試合で締めだ。タイトなスケジュールだと思うが、たくさんの学びを得られることだろう。しっかりと交流会を満喫してくれ。以上だ。これより開会式の式場であるコロッセオへ向かう」


先生の說明が終わる。俺たちは席を立ちコロッセオへ向けて出発の準備を始める。


「ああ忘れてた。フレンさんとジュール君。親善試合代表の二人には開会式でダンスをしてもらうからよろしくなー」


え? 聞いてないんだけど。


「なあフレン」

「踊りくらいできるでしょ?」


そりゃお前が王族で仕込まれたからだろ。ひええ、躍ったことなんてねえよ。それもこんな大事な場面で。


「先生、ペアってどういうことですか? 俺はフレンとってこと?」

「違うぞー。君たちには同じヤマト皇国の代表選手と踊ってもらう」


ああこれ面倒くさいやつだなー。もし女子と組まされて下手なダンスで恥を晒そうのものなら、一生笑いものになる。女子だけは嫌だ。ヤマト皇国ならせめてヨシマサのような武士系の男子とペアになれますように。

そう祈りながらコロッセオ向けて歩き始めた。



徒歩10分ほどでコロッセオに到着。以前代表選抜戦を行った場所だ。


この日のコロッセオは半円で区切られる。もちろん物理的な意味ではない。

西側がウェルセリア学院で、東側がヤマト学院の生徒で分けて座ることになっている。ちょうど大陸の位置関係を示すようにセッティングだな。ヤマト学院の生徒たちはすでに到着しているようで、向こう側では俺たちと同じように開会式を待っている様子だった。


「あれがヤマト学院。穏やかな生徒が多そうね」


和装を召した人たちが多い。黒髪も多い。

ヤマト皇国の学生が多数を占めるが、中にはうちの学院と同じように他国からの留学生の姿もチラホラといる。


「あそこに座りましょう」


式の席は固定ではない。ウェルセリア学院側の1年生のブースの中ならどこの席に座ってもいい。前のほうにちょうど4人分開いてるところがあったので、フレン、アリス、ヨシマサと一緒に着席する。


しばらくするとブザーが鳴り、開会式が始まった。


『これよりヤマト皇国とウェルセリア王国との交流会を開催いたします。まずヤマト皇国による挨拶です。ヤマト学院代表、ヒミカ・テンノウジ皇女様、闘技場へお上がりくださいませ』


巫女装束を召した薄桃色の姫様カットの女の子。背はフレンよりも少し高い。雪のように白い肌、長いまつ毛、薄ピンクの唇。胸もアリスに負けないくらい大きい。美しくておしとやかで可憐な少女。

ヒミカと呼ばれた皇女様が立ち上がると、彼女の進路に沿ってレッドカーペットがしかれる。そして多数の護衛に跪かれながら、その少女はゆっくりとした足取りでコツコツと階段を降り、真ん中の闘技場まで上がってきた。


「どこかのお姫様とは扱いが違うな」

「いいのよ。私は自分から王宮を出ていったわけだし」


ヤマト皇国側からすればこの平民の隣りに座っている女の子が王女だとは気づかないだろう。


さて、皇女様は全方位の聴衆に一通り礼を済ませると、巻物を取り出す。そこに書いてある内容を読み始めた。


「本年もヤマト学院との交流の場を取り持っていただき感謝申し上げます。この貴重な機会を無駄にすることなく、お互いの発展へ繋げられたらと考えます。2日間という短い時間でございますが、何卒よろしくお願いいたします」


パチパチパチパチー


「皇女様すてきー」

「好きだー」


観客から歓声と拍手が湧き上がる。早速うちの学院の男子共はメロメロになる。


「すごい優しそうな感じの女子だな」

「そうでござるよ! ヒミカ殿は皇女でありながら巫女を務めていらっしゃる。素晴らしい女性なのでござるよ!」


清楚系のおっとり美人。つい目が奪われてしまう。

ニコニコとした微笑み顔で聴衆に向けて手をふる皇女様。

あ、今ちょっと目があった。なんか心臓が一瞬ドキッとした。


「あ、今拙者と目があったでござるよー! ヒミカ姫ー! ヒミカ姫ー!」


さすがヤマト皇国出身だな。姫様への信仰ぶりが桁違いだ。


「はあ、どうだか。ああいう品行方正ぶった女子に限って本性は黒いって相場は決まっているわ」

「そういうものなのか?」

「ええ。例えるならアリスが天然であの人は計算ってとこしら」


フレンが不機嫌そうにため息をつく。女の敵は女。女子にしかわからないことがあるのだろう。


さて、皇国の次は王国だ。今度はルシファーが歓迎の挨拶を始める。


「遠い東の地から訪れていだききありがとうございます。ようこそウェルセリアへ。ヤマト学院のみなさんを歓迎いたします。学院を代表しまして私ルシファー・レクミリナスがご挨拶させていただきます。――――以上で私からの挨拶とさせていただきます」


挨拶が終わると両学院の女子から熱い声援が湧き上がる。

クールでイケメンだが、アレで女だそうだ。先日王様に聞かされたときは耳を疑ってしまった。

でも女だと言われて改めて見てみると結構可愛いかも。金髪碧眼のショートヘア。よく見れば胸も膨らんでいる。


『それでは最後に舞踏を交わしたいと思います。各学院代表者は闘技場まで上がってきてください』


うわー。ついに来てしまったか。ダンスタイム。


「さあジュール行きましょう」

「ああ」


フレンに手を引っ張られ、そのまま階段を下り闘技場へ。

俺たちと同じタイミングで2年、3年の代表の先輩もやってきた。顔は知らない。ちなみにルシファー生徒会長の姿はなかった。彼女は代表ではないらしい。


さあ誰と当たるんだろ? 向こうも代表選抜戦で選ばれた人が来るのかな。侍か? それとも忍者か?男子であってくれ。


なんて考えているとヤマト皇国の代表も全員出揃う。

侍が二人、忍者が二人、くノ一が一人。そして皇女様。

よしよし6人中4人が男子。これは男子の可能性大だ。


「それでは同じ学年生同士でペアを組んでもらいます」


化粧を決めたマドリア先生がこの場を仕切ってくれる。


「1年生はこちらの四人になりますね。話し合ってペアを決めてください」


そう言われて前方を確認する。

紺色の忍び装束を纏った青髪ポニーテールのどう見てもくノ一の女の子。そしてもう一人が皇女様。

この二人がヤマト皇国の1年生代表であり……そしてダンスの相手。現実とは無情なもの。見事にどっちも女子でした。残りの男子四人は2年と3年でした。


「はじめましてシズクです。ヒミカ様の専属使用人を務めさせて頂いております。以後お見知りおきを」


王女様の専属使用人……なんかうちにも似たような人が。


「ちなみに姉のシズノがお世話になってます」


誰かに雰囲気似てるなーと思ったらシズノさんの妹だったのか。姉妹揃ってお姫様の使用人を務めてるって、よく考えるとスゲーな。


「先程もご挨拶さし上げましたヒミカ・テンノウジと申します。趣味は花札と武芸。よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願います! ジュール・ガンブレットです。趣味は寝ることです」


ふふふ、と微笑みながら俺と握手してくれた。優しくそっと握手してくれた。柔らかい手のぬくもりが伝わってきた。いままで以上にドキッとしてしまう。

それに趣味までおしとやかときた。フレンもこのくらい柔和な感じだったらなー。


「おほほ、近くで見ると鈍そうなお姫様ですこと」


フレンが早速ジャブをかます。


「おいフレン、何ケンカ売ってんだよ」

「いいじゃない。あざと過ぎてちょっと気に入らないのよ」


今日は珍しく機嫌が悪いな。そういう日もあるってか?

確かに俺にも無性に引きこもりたくなる日はあるからな。


「貴方のことは存じ上げておりますわ。ウェルセリアの王女。ちょっと品が足りないのではなくて?」

「いったわね、このー!」

「ごめんあそばせ。言い過ぎましたかしら?」

「ムキーッ!」


ダメだ。初対面なのにすげえ仲が悪い。

この二人を一緒に踊らせるわけには行かない。


「シズクさん」

「はい、そうですね」


シズクさんと目があった。何も言わなかったがお互いの思考が通じたらしい。


「私はぜひともフレン王女様と踊りたいです。ヒミカ様はジュール様と」

「俺も賛成です。ぜひともヒミカ様とダンスを」


ということで俺の人生初めてのダンスの相方はヒミカに決まった。




「あらあら。ダンス初めてなんですか?」

「えっとまあ。恥ずかしながら……」


ダンスが始まった。俺以外の5人は教養があるらしくダンスを心得ていた。俺一人だけが見事に浮いてしまっている。

ステップの仕方、手の添え方、腰の当て方などわからないことが多すぎる。


「ちゃんと踊れや平民ー」

「平民のくせにヒミカ様とダンスを……認めないぞー!」

「うらやまけしからん!」

「帰れー!」


貴族男子たちからは野次が飛んでくる始末。

ああ、早くこの時間終わって欲しい。


「落ち着いてくださいな。ゆっくりと深呼吸、ですよ」

「は、はあ」

「ほら、もっとここを触ってください」

「ここですか?」

「違います。もっと下」

「こ、ここ?」

「ああーっ。そこっ。そこがいいの!」


腰を当てる位置を探すだけでここまで労力を使ってしまう。向こうはダンスだからそういうイヤらしいことは考えていないのだろう。でもこっちとしては、こんな美女に指揮されながらとなるとどうしても緊張してしまう。


「ここまで慣れてないのも珍しいですよね。代表に選ばれるような方ですのに」

「すみません。平民なもので」

「え、そうなんですか!?」

「かたじけないです」

「いえいえ。平民で代表に選ばれるということは、それだけジュール君の実力が認められたということですよ」

「ははは、そうですね」


笑って誤魔化しておく。実際のところは不戦勝続きで決勝まで上がってしまっただけなんだけどな。

こんな作法も常識もない人間が代表に選ばれること自体がナンセンスなんだ。


さて、非常に長く感じたダンスの時間もいよいよ終わりを迎える。


「楽しかったです。またの機会がありましたらご一緒にダンスしましょう」

「そうですね。そのときまでには俺もダンスの腕を磨いておきます」


ヒミカは笑顔でそう感想を述べてくれた。

一見脈アリのようにみえるが、これはいわゆる社交辞令。本音と建前というやつだ。社交辞令には社交辞令で返しておけばいい。


「それではまた授業で会いましょう」 

「はい。次の授業でお見かけしましたら、そのときはぜひー。それではさようならー」


こんな可憐で美しい皇女様が平民の俺なんかと一緒に授業を受けたいわけがない。当然これも社交辞令。


互いに社交辞令を交わしながら俺たちは自分の席に戻っていくのだった。

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世界唯一の銃使いによる学院無双冒険譚 @SX48430

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