代表選抜戦 祝勝会

 ”フレン・ウェルセリアとジュール・ガンブレットが親善試合の代表選手に選ばれた”


そうシズノさんから伝えられ、国王様はいてもたってもいられなくなった。


”我が愛しの娘の誉れある活躍を祝ってほしい”

”王宮を会場に差し出そう”

”飯もだそう”

”今宵はパーティだ”


超太っ腹な国王様の提案により、代表選抜戦を終えたその日の夜、俺たち1年Fクラスは祝勝会を行うことになった。


『この度はフレン・ウェルセリアさんの優勝、ジュール・ガンブレット君の準優勝。ならびに二人の親善試合代表決定を祝いたいと思う! 乾杯!』

「「「カンパーイ!」」」


赤い絨毯。豪華なシャンデリア。ガラス張りの窓。ビュッフェ。街を一望できるテラス。そんなパーティ会場としてはこれ以上にないふさわしいところで宴は始まった。司会を任されたのは担任のシルバー先生である。

会場には談笑用のテーブルがいくつも用意されており、立食パーティができるようになっている。


「フレン様優勝おめでとー」

「さすがですー!」

「フレン様が優勝すると信じていました」


パーティが始まると各自自由に行動する。

談笑を楽しむものもいれば、食を嗜むもの、芸や踊りを披露するものもいる。中でも半数以上のクラスメイトは今回の主役であるフレンのもとに集まる。フレンも楽しそうに談笑している。


「ジュール君も準優勝おめでとう」


そして俺はというと、フレン程ではないがそれなりに群がられてる。


「代表に選ばれるなんてステキ!」

「マスカーレ君に勝利したのはすごい!」

「今日はハメを外しましょう。ほらこれお酒よ!」


話しかけてくれるのは女子がほとんど。ジュール・ガンブレットのプチブーム再来である。


「くそう! ジュールのやつ羨ましすぎる!」

「ぐぬぬー!」

「あいつ3回戦以降は何もしてないじゃん!」

「そうだ! そうだ! 仕組んだんだろ!」

「不正だー!」


そして、一部の貴族男子たちからは相変わらずやっかみの目で見られている。


「ほらほらそいつから離れろー! 群がってて邪魔なんだよー!」

「ちっここにいたら男子たちがうるさいわね。ごめんねジュール君、またね!」


貴族男子を睨みながら去っていく女子たち。

俺のもとから女子がいなくなって満足に浸る男子たち。


「いやあ、あっぱれな試合でござったよー!」


男子からは目の敵にされている俺だが、味方を見つけた。それは1回戦で戦った坊主頭侍、ヨシマサ・ムライだ。ヨシマサが喜作に話しかけに来てくれた。


「いい戦いだった……と言いたいところだが」


彼のことは一瞬で倒してしまったため、ちょっと罪悪感がある。


「気にするなでござるよ」


そんな俺の考えを汲み取ったのか、ヨシマサはニッと歯を出して親指を立ててくれた。絶対いいやつ。友達になりたい。


「拙者ももっと精進せねばな!」

「そのときはまた勝負しよう!」

「もちろんでござる! それでは拙者、腹が減ったのでこれにて失礼でござる!」


ヨシマサは飯を食べに行った。

パーティ会場にはビュッフェが並んでおり、様々な国屋地方の名産料理が用意されている。中々味わう機会のないものが揃っているため、特に平民のクラスメイトは飯にぞっこんになっている。

その中でも飛び抜けた勢いでトラのようにがっつくコスプレ貧乏娘がいた。


「かなり堪能しているようじゃないか、アリス」

「あ、ジュールさん!」

「食欲旺盛だな。それも白虎の能力か?」

「そんなわけ無いでしょう。今のうちにお腹に蓄えておかないと。今月も食費が厳しいですから」

「はは、大変そうだな。それは何を食べているだ?」

「寿司です。ヤマト皇国の名産品だそうですよ。マグロと鯛がオススメです」

「ふーん」

「私の分、少し食べますか」

「いただきます」


パクッ。口の中に広がるさっぱりとした味わい。酢飯との相性も完璧。これは確かに旨い。


「そういえば惜しかったですね、決勝まで進んだのに優勝できなくて」

「別に構わないさ。そもそも優勝なんて狙ってなかったし。それに俺が勝てば今度はフレンが負けることになるだろ? いずれにしろどちらかが負ける運命だったのだ」

「そうですね。確かにジュールさんに1000口賭けましたが、それでもアリスさんも同じくらい応援してましたよ。やっぱり友達ですからね」

「ああ、そういえばお前俺に1000口を……ああっ!!」

「どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない」

 

なんでもないことあるか!

しまった、完全に忘れてた。アリスは俺の優勝に10万イェンを賭けてたんだった。

本来なら俺はフレンとの試合に勝利していた。しかしほんの遊び心でババ抜きして、彼女に勝ちを譲ることになった。

もしそのことを知ったらアリスは……。

うん、気づかなかったことにしよ。このことは死ぬまで黙っておこう。


『ジュール君聞こえるかい? 国王様がお呼びになられている! 今すぐ向かってくれー!』


王様からの呼び出しらしい。ナイスタイミング。


「すまないアリス。ちょっと行ってくる」

「はい。ちょうど私も食べすぎたのでトイレ行こうと思ってましたから」




ダイガロス国王とメギナ女王。国王夫妻はテラスでワイングラスを片手に二人きりで黄昏れていた。


「お久しぶりです。外にいらっしゃったのですね」


パーティ始まってから姿が見えないと思っていたらこんなところに。


「年寄りがいる場所ではないさ。宴は若いもので楽しめばいい」

「うふふ。パパったらさっきまで外は寒いって愚痴ってたじゃありませんか?」

「ちょっとメギナ。それは言わないでくれよおお」


なんとも仲睦まじい夫婦だ。


「話とは何でしょうか?」

「今回はフレンに花を持たせてあげてありがとう」

「ジュール君のことだからきっと手を抜いて差し上げたのでしょう?」


何かと思えば。まったく二人とも俺を買いかぶり過ぎだ。


「結構本気でした。彼女は確実に成長していますよ」

「そうかい。そう言ってくれると嬉しいよ」

「それに比べ俺なんて伸びしろがありませんよ」

「そんなことないさ」


少しの沈黙。王様は続ける。

 

「娘のわがままで入学させる事になってすまなんだな」

「いえいえ。それなりに楽しんでます」

「それなら良かった。安心した」


学費を免除してくれてるのも嬉しいし。


「友達はたくさんできましたか?」

「あまり。男子たちからは嫌われてるようで」

「なるほど。ジュール君に嫉妬してるのね。平民に対する差別は良くないと思うわ」

「もっともです」


でもアリスやヨシマサといった味方も増えてきたのも事実。今後も友達を増やしていきたい。


「フレンのことはどうですか?」

「どうとは?」

「うふふ、そのままの意味よ。あなたさえよければフレンをもらって欲しいところなんだけど……」

「そのことについて俺からも一つ聞かせてもらってもいいですか?」

「あらあら何かしら?」

「帝国の……マスカーレ公爵のことで」

「「…………」」


夫妻は目をまんまるにさせて固まる。


「それはシズノから……聞いたんだね?」

「はい」


先に口を開いたのは国王様。国王様は全てを察したように天を仰ぐ。


「悩んでいるのだ。帝国はフレンと婚姻を結ぶことで、内側から侵略を企んでる。マスカーレを通してな」


どうやら王様も気づいてるようだが……悩んでもいると。


「確かに帝国は魔王軍のために懸命に防衛を行ってくれているのも事実。帝国には頭が上がらなくてな。そんなところの公爵家が相手だ。下手に断れんのよ。まだ幼いから、と年齢を理由に誤魔化してきたが、それも厳しくなってきてな」


はあーっと王様からため息が漏れる。


「それにレイヴン君は文武に秀でているし、ルックスもかなりのもの。間違いなくフレンに相応しい相手だと思ってる。レイヴンを受け入れることも考えた」


レイヴンへの評価はかなり高いらしい。


「でももしマスカーレでも諦めるような実力のあるものが現れて、フレンの相手になってくれれば……」


王様と女王様はこちらを見つめる。


「ルシファー生徒会長とか?」

「彼女は女だぞ?」

「え?」

「レイヴン君に勝利したのだろう? マスカーレが諦めるまでの間、偽りの関係でもいいんだ。フレンの相手になってくれないか?」


そうお願いされた。


「偽り……ですか」

「フレンには我々から説得する」


王様としては俺のことを評価してくれているというのは素直に嬉しい。もしこのまま王族になることができれば、富も名誉も手に入れられ、人生イージーモード間違いなし。

帝国の手からフレンと王国を守ることもできるし、そうすれば全てが丸く収まる。


でも、本当にそれでいいのだろうか?


俺は一体どうすればいい?

 

答えが見つからない。


「すみません、考える時間をください」


すごく悩んだが、結局今ここで決めきることができなかった。

  

「突然のことだし受け入れられないこともあるだろう。すぐにとは言わない。それじゃあ我々はこれで失礼。これから仕事に戻るとするよ。もう少しで宴もお開きだ。最後まで楽しんでくれ」


王様たちが去っていった。

俺はその場でしばらく悩んだ。

部屋の中に戻ることなく、テラスから見える街の景色を呆然と望しながら。


「こんなところにいたのね、ジュール」


しばらくするとフレンが一人でやってきた。

こっちが悩んでいることも知らずに。


「なんだ? クラスメイトたちと楽しんでたんじゃないのか? 今日の主役だろ?」

「わかってるけど、どうしても伝えておかなければならないことがあって」


フレンはモジモジしながらあたりをキョロキョロと見渡し、近くに誰もいないことを確認する。


「罰ゲームの件、結局あなたが負けてしまったわね」

「そうだ。おかげで今気になっている異性をお前に告白しなければならなくなった」

「右、選んだでしょ?」

「え?」

「探索授業のときは右を選ばれて負けてしまった。右がババなのよ。だから今回も右がババかなって。私、負けるつもりだったの」

「それはどういう?」

「わからない? 探索授業で言いそびれたから、そのケジメをつけたかったってこと」

「ああ、たしかあのときレイヴンに邪魔されて」

「そうよ。だからこの場で私があのときの罰ゲームの続きを実行するわ。私が今気になっている異性わね……それはね……」


なぜだろう。心臓がバクバクする。

酒でも飲んでたのかフレン? そんな赤い顔をしてこっちを見ないでくれ。


「ジュールさん、フレンさん、罰ゲームって何ですかー?」


言いかける寸前、アリスが聞きつけてきた。

一気に緊張が解け、フレンがフラフラする。


「ふー、やれやれ。まったくアリスってば」

「え、どうしたんですか? 私なにかいけないことを……」

「いえ、別に大したことじゃないから」

「へえ。それで罰ゲームってなんですか? もしかしてこの前の続きの?」

「いえ、違うわ」


え、違うの?

だって今さっき”あのときの続き”って言ったばかりじゃ……。

さてはこいつ、アリスが来た途端誤魔化しやがったな。


「決勝戦、ほんの遊びで罰ゲームを賭けたババ抜きで勝敗を決めることにしたのよ。私が優勝したのはそのせい……あっ、しまった!!」


もう遅いぞフレン。今のでアリスが完全に疑ってしまったぞ。


「待ってください。決勝戦? ババ抜き? 遊びで? あの、ちょっと詳しく聞かせてもらえませんかね?」


アリスは怒りを通り越してニコニコとしていた。

俺とフレンは決勝戦で熱いババ抜きを繰り広げていたと、アリスに正直に告白した。アリスは大穴ー!せっかく二人とも応援してたのにー!と無惨に叫び崩れ落ちた。


その後俺は決勝戦の罰ゲームとして、二人の前で今気になっている異性を告白。「フレンとアリス」と答えた。もちろん友人という意味で。

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