代表選抜戦 決勝戦 vsフレン

代表選抜戦2日目。

これから3回戦が始まる。ここを勝てば準々決勝進出、ベスト8だ。

しかし俺にとってこの試合は消化戦。当初?の目的であるレイヴンを倒すことができたので、宣言通り3回戦は試合開始と同時に場外まで走り場外負けをしようと思う。


『3回戦第6試合、対戦相手のサンカ・イーセン選手が体調不良により欠席のため、ジュール・ガンブレット選手の不戦勝と致します!』


対戦相手が目の前に現れなかった。

まあそういうこともある。次の相手は3回戦を戦った相手だから欠席ということはないはず。次で負けよう。


『準々決勝第3試合、対戦相手のジュンジュ・ショウケイ選手、3回戦で受けたダメージが大きすぎました。治療に間に合わないとの判断。よってジュール・ガンブレット選手の不戦勝とします!』


対戦相手が目の前に現れなかった。

まあ一度あることは2度あるってな。

やったね、これで準決勝進出だ。


『準決勝第2試合、ショウ・ジュンケ選手、腹痛による棄権のため、ジュール・ガンブレット選手の不戦勝となります!』


対戦相手が目の前に現れなかった。

二度ある事は三度ある。ただし、三人目のお前はせめて腹痛くらい我慢してでこいよ、国の代表になれるかがかかってるんだぞ、と言ってやりたかった。


兎にも角にも俺は一度も引き金を引くことなく決勝まで進出してしまった。

そして決勝進出ということはつまり上位2名の枠に入ったということ。親善試合の1年生代表として選ばれてしまったわけだ。

ちなみにアリスは大穴!大穴!と観客席で連呼して叫んでいた。




そして来たる決勝戦。

対戦相手と目があったので礼をする。


「決勝進出おめでとうジュール」

「ああ、そっちこそおめでとう」


黒くサラサラに手入れされたストレートヘア。左肩から右膝にかけて、淡いピンク色から水色のグラデーションが掛かった高貴なドレス。腰に携えられるは紅く蒼く輝く二本の剣。

こうして見てみるとやっぱり王女様って感じがする。


「まさか準決勝で優勝候補本命のクロードに勝ってしまうなんて。流石だな」

「たまたま相性が良かっただけよ」

「俺はお前の優勝に賭けた。お前は俺の優勝にかけた。こんな奇遇なこともあるんだな」

「そうね。本人はあれだけ3回戦で敗退するんだあって意気込んでたのに」

「それは言わないでくれ」

「ふふ、そうね」


フレンはムネに右手を当て、目を閉じて大きく深呼吸する。再び目を開き、改まった感じでこちらを見据える。


「あのときのようにはいかないわ。ずっとジュールの近くにいて、私なりにジュールに勝つための分析を続けてきた。どうなっても悔いが残らないようお互いに全力を尽くしましょう」

「無論そのつもりだ!」


『試合開始!』


バンッ


始まりの合図と同時にフレンの右足めがけ手ゴム弾を発射する。初めて戦ったときと同じ攻め方を再現した。


キンッ


フレンはゴム弾を切った。


「シルバー先生に教わったわ。その口の向きと音を聞けば、いくら速くても防げないことはない!」

「ふっ、やるじゃないか」


俺の銃弾を切るやつは初めて見た。

嬉しくて思わず笑ってしまう。


「アイスバーン!」


フレンの剣先から地面に向けて冷気が発せられる。


ツルッ


コケてしまった。地面を凍らせたのか。まずい、隙を見せてしまった。


「しかし、滑るのはフレンも同じこと」


フレンにとってもバランスを崩しやすい今の地面状態なら銃撃が当たるとふんだ。


バンッ パァンッ


「フレイムバーン!」


フレンは自分の立っている地面を熱する。氷が溶けて水になる。そして彼女は滑ることなく体制を保ち、キンッと確実に銃弾を弾く。


「一発は外したようね」

「かもな」


凍らせたり熱したりと、かなり器用な戦い方をする。放課後クエストや探索授業でインフェルノブレイドという大技で狩りをしていたときの姿とはまるで別人。


「それじゃあ行かせてもらうわ」


フレンはフレイムバーンで自分の足場だけを溶かしながら距離を詰めてくる。


「近づきすぎだ! 今度は避けられないぞ」

「心配してくれてありがとう」


バンッ


フレンの胸にゴム弾がヒット。しかし、彼女は倒れない。


「本当に厄介な武器ね。遠かったら一方的に撃たれて近づきにくい。かといって距離を詰めれば、今度は避けられない。――それなら、はじめから避けなければいいだけのことよ!」


フレンのドレスの内から氷の破片が崩れ落ちる。


「アイシクル・アーマー。これでダメージを軽減したわ」


「そしてフレイムスライス!」


フレンは炎を付与させた斬撃を放ってきた。これは避けきれない。


「急所は外したか。回避は上手なようね」

「いてて。それはどうも」


攻勢を整えるため、お互い地面の凍ってないところまで行き距離を取る。


「同じ手は食わないぞ。今度はこっちから反撃させてもらう」


相手が二刀流ならこっちも二刀流。ニ丁目を用意した。両方の銃で連射する。


バンッバンッバンッバンッ


バンッバンッバンッバンッ


キンッキンッキンッキンッ


キンッキンッキンッキンッ


弾丸を弾かれながらも、今度はこちらから詰めていく。

そして1mの距離に接近した俺たちは互いに銃と剣を突きつけ合う形になる。


「この距離なら銃撃の方が速い。心苦しいが、今度は鎧のない顔に撃つ」

「いいわ。でももし失敗したら私のインフェルノブレイドの餌食になってもらうわ」

「自信ありそうだな」

「すでにその武器には弾が入ってないからよ。12発撃ったのをきちんと聞いて確認した」

「そうか」


どうやら彼女は見事に罠にハマったみたいだ。


「参考までに教えてやろう」


パァンッと拡声魔法を使用する。


「ジュール、あなたまさか!?」

「そうだ。一発だけフェイクの音をまぜた。実際には11発しか撃ってない。つまり、まだこのリボルバーの中には弾が残っている。俺が魔法を使えないとでも思い込んでいたか?」

「まんまとハメられたのね」

「フレンが的確に発射数を数えてくれると信じたからできたことだ」

「ふん、今更褒めたって何も出ないわよ」

「そうだな。とりあえずこの場は俺の勝ちということでいいな?」

「……そうね。私の負けだわ」


フレンは下を向き、ポケットからハンカチを取り出そうとする。


「待ってくれ」

「え?」

「どうせなら最後にババ抜きをして遊ばないか?」

「どういうこと?」

「お前の剣撃スピードならかろうじてどちらかの銃を弾くことだけはできるだろう? さて、ババ抜きの時間だ。残りの一発はどっちの銃の中にある? 右か? 左か?」

「なるほど、そういうことね」


フレンが剣で銃を弾いた瞬間、俺は弾かれなかった方の引き金を引く。

もしフレンが弾の入っている正解の銃を弾いた場合、俺は空の銃を撃つことになる。当然弾は発射されないので、俺の負け。

そしてフレンが弾の入っていない不正解(ババ)の銃を弾いた場合、弾の入った銃撃がフレンを襲い俺の勝ち。

もちろんすでに事実上の決着はついているので、実際に攻撃するつもりはないが。


「またババ抜きなのね」

「今回は罰ゲームなしなんだからいいだろ?」

「避けるのに夢中だったし、どっちが正解かわからないわね」

「撃つのに夢中だった。俺もわからない」


完全なる50/50のゲーム。


「そうね、案外罰ゲームアリのほうが面白いかもしれないわ」


フレンが顔をモジモジさせながらそんなことを言う。


「だってお前、探索授業のとき嫌がって……」

「べ、別にいいじゃない! 負けたほうが今気になってる子を告白するってことで!」

「やれやれ。そんなことだったらババ抜きなんて提案するんじゃなかったよ」


結局フレンは右手のリボルバーを弾き飛ばした。


その後、決勝戦でくり広げられたババ抜きバトルの話を耳にしたアリスは、大変大きなショックを受けたそうな。

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