代表選抜戦 2回戦 vsレイヴン

午後から2回戦が始まった。

フレンは順調に勝利をおさめる。

それからしばらくして俺の番となる。

もうすぐで闘技場の準備ができるようなので、俺は入退場口で待機していた。

 

「うむ、こいつだけで行けるのか?」


右腰のリボルバーを見つめる。


「こいつも持っておくとしよう」


念のためもう1本のリボルバーを内ポケットに入れた。


『2回戦第12試合、ジュール・ガンブレット 対 レイヴン・マスカーレの試合を開始します』


アナウンスが聞こえたので闘技場に出る。

わあああと両者を出迎える歓声。さっきよりも歓声が大きい。それは優勝候補に上がっている者同士の戦いだからだ。結構注目されているカードらしい。


前方を見れば、金の槍を構えたレイヴンが手を振りながら観客の声援に答えている。


『試合開始!』


「ボクは神速の雷槍、レイヴン・マスカーレ。ハハハ、この動きについてこられるかな。――身体強化・雷活性!」


黄色の雷魔力を纏ったレイヴンは闘技場を超スピードで飛びだす。俺の周りをグルグル回る。

単純に速い。銃撃の狙いが定まらない。


「さすが神速の雷槍! 速すぎる!」

「いいぞー! レイヴン様! 平民なんてぶっ倒してやれー!」


ここからじゃ観客席から何言ってるのかは聞こえないが、レイヴン派の学生が盛り上がっていることはわかる。


「どうやら狙いがつかないようだねえ。所詮大した事ない武器だ!」


わかってても対策できないのがリボルバーの強さだと思ってたんだけどな。ここまで速いとは聞いていない。


「今だ、サンダーエッジ!」


雷属性の身体強化魔法により大幅にスピードを向上させる。そこから繰り出される神速の槍。

この男は典型的なスピードアタッカー。探索授業で狩りが早かったのもうなずける。

右腕に槍がかすって小ダメージを受けた。


「ほう貴様、ボクが見えているのか?」

「銃撃を扱うからな。動体視力は鍛えている。しかし速い。避けきれなかったぞ」


いくら見えてると言っても、体がついてくるとは限らない。

アリスやフレンのような身体能力があれば余裕でかわせたんだけどなあ。鍛錬を怠ってるツケがきてしまった。


「今度は確実に決める!」


レイヴンは再び超加速を始め、俺の周りをグルグル回る。そしてどこかのタイミングで突っ込んできた。


「終わりだああ!! くたばれええ!!」


しかし焦ることはない。引きつけるんだ。ギリギリまで。

よし、ここだ!


バンッ


脳天にゴム弾を打ち込んだ。


「バカな。これが貴様の攻撃……?」


銃撃によってレイヴンはひっくり返る。

ちょっと厄介だったがこれで試合終了だ。


『勝者、ジュール――』

「くっ……まだだ!」


今の攻撃を受けて耐えたというのか?


「まだ……負けたくないんだああ!」


レイヴンは精神力だけで持ちこたえた。しかし、今の一撃で得意の身体強化魔法も途切れてしまっている。もう避けることはかなわない。


「これを撃てば今度こそ終わりだ。降参したほうがお互いのためだぞ」


銃口を仰向けに倒れ込むレイヴンの頭に向ける。


「ひいい! 頼む! 撃たないでくれえええ!!」


レイヴンが突然涙目となり命乞いを始める。


「ボクはどうしても代表に選ばれなければいけないんだ!! そ、そうしないと、父上に殺されるうう!!」

「なんだと!?」

「そうだ。ボクは、ボクは脅されているんだああ!!」


そんなことがあったのか。確かこいつの家は帝国の公爵だったはず。脅されているという可能性もなくはない。その顔の表情を見ても、とても嘘だとは思えない。

もしここでレイヴンを倒してしまえば、レイヴンが危ない。

確かに気にくわないやつだが、このまま見捨てるわけにもいかない。こいつにもこいつなりの事情がある。


――手を引くか。


「どうしても代表になりたいんだな?」

「そうだ。じゃないと」


レイヴンは真っ直ぐ俺を見つめる。


「わかった。もともと俺も勝ち上がるつもりはなかった。もしフレンに近づかないと約束してくれるなら、俺が棄権しよう」

「ありがとう! それじゃあそれを下ろしてくれるのかい?」

「ああ、リボルバーはもう使わ――」


グサッ


左足に槍が突き刺さる。立てなくなった。その場で崩れ落ちる。


「ジュールうううう!!」

「ジュールさああん!!」


観客席ではフレンやアリスが血相変えて叫んでいる。


「お前……まさか噓を……!?」

「嘘に決まってるだろおおお!! 真実を少し混ぜる、それがコツなのだああ!!」

「レイヴン……お前というやつは!」

「ククク、勝てば良かろうなのだああ!」


レイヴンは高笑いを上げながら、ヨロヨロと立ち上がる。

これがやつの本性。観客席までは聞こえていないから、みんなは何が起きているのかわからないだろう。


「これさえなければ、貴様はただの雑魚野郎だ!」


レイヴンが俺の持っていたリボルバーを取り上げ、そのまま場外へ放り捨てた。


「どうしてお前のような奴に負けないといけないのだ! このっ、このっ!!」


レイヴンが俺の右腕と脇腹を蹴飛ばす。


「ハッハッハーー!! ざまあねえなあ!! 貴様のせいでボクの計画は狂った! 今度こそフレン様はボクのものだ!!」


「ヒャーヒャッヒヤッヒャ!! 次は首か? 顔か? 心臓かあああ?」


やれやれ。こいつのことを少し見くびっていた。

まさかここまで悪の輩だったとは。

もういいよな。ここまで洗いざらいやられたんだ。


「本当に……運がよかった。用意しておいて……よかった」

「なんだ?」


内ポケットからもう一本の銃を取り出す。


「俺のリボルバーが一本だといつから錯覚していた?」

「貴様、まさか!」

「俺はもう一つの銃を用意していた」

「なにいいい!?」


さっきまでが余裕だったレイヴンの顔が歪む。


「よくも……俺を騙してくれたな」


正直かなりムカついてる。ここまで腹が立つのは初めてだ。


「そしてよくも……こんな卑怯な手でここまでいたぶってくれたじゃないか」


ゆっくりと立ち上がる。そして睨みつけるとレイヴンは顔を引きつらせてた。


「対人戦のときは基本的に手加減してゴム弾にしてるんだ」

「ゴム……なんだって?」

「実弾でいいよな?」


言いながらカチャリ、と弾を充填する。

銃口を向けると本能的な恐怖なのか男はより一層震え上がった。


「まずは左足! さっきお前が槍で指してきたところだ」


バァンッ


「ぎゃああああああ!!」


レイヴンは足を抑えてうずくまりながら倒れた。


「こんな痛み初めてだああ! たすげでぐれええ!!」


心配するな、お互い痛いのはこの試合の時だけ。

試合が終わればすぐに医療チームに回復してもらえる。といってもある程度の治療は必要だけどな。


「次はどこがいい?」

「やめろお、やめてくれええええ!!」

「もうその手には乗らないからな」

「父上と約束したんだ! 代表に選ばれなければ恐ろしいことになる!! 死んでしまうかもしれないんだ!! お願いだ!! フレン様のことは諦める!! 見逃してくれえええ!! ボクを助けてくれえええ!!」


股間から液体が漏れている。どうやら今回は本当のことを吐いているようだ。

しかし最後まで油断はならない。

もう一度銃口を向ける。


「んああああ!! 負けましたあああ!! 負けましたあああ!!」


観念したのかレイヴンは白のハンカチを投げた。


『勝者、ジュール・ガンブレット!』


勝敗がつくと、俺たちは直ちにタンカに運ばれた。

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