代表選抜戦 1回戦
開会式が終わり、レイヴンとの勝負の話もつけた。
俺の試合までは時間があるので、クラスの観客席まで戻る。キリンのコスプレをしたアリスが慌てた様子で手でまねいていた。
「ジュールさん急いでください。早く!」
「どうしたんだ?」
フレンとアリスの間の席に座る。着ぐるみのアリスが無駄に幅をとってて狭苦しいのがちょっと気になるけど。
「あと10分で第一試合が始まってしまいます」
トーナメント表を確認してみる。俺の試合は第10試合。まだまだ先なんだが。俺第一試合じゃないぞ?
「これを提出するのよ」
フレンからそんなことを言われて一枚の紙を渡される。
そこには記載者の名前欄と優勝者予想と書かれた枠が一つ。
「大会といえば賭博ですよ。優勝者を予想するのです。見事当てたらお金が入ります。この紙に優勝予想者の名前と口数を書いて、第一試合が始まるまでに先生に提出します。一口100イェンです!」
アリスたちが慌てていたのは俺の試合のことではなく、このことだった。
優勝者を当てる競馬のようなもの。周りのクラスメイトたちも同じような話題で盛り上がっている。
「過去の先輩で1000万イェン儲けた先輩もいるそうです」
そりゃ盛り上がるわけだな。
「金剛の重騎士、クロード様でしょ」
「だよなー。クロード様の防御力は王国No1だ!」
なるほど確かに無難どころだな。一番予想者が多そうだ。Aクラス所属というのもポイントが高い。その分オッズが低いのが難点だが。
「神速の雷槍、レイヴン様よ!」
「レイヴン様に1000口かけるわ!」
1000口って。そいつはやめといたほうがいいと思うぞ。
「いえいえ氷炎の魔剣士、フレン様です」
「我がクラスの才色兼備の王女フレン様が一番です」
うーん、賛成! オッズと実力のことを考えると彼女が一番お得だと思う。
「BクラスやCクラスからもダークホースが現れるかも!」
確かにそれもありえるかもな。トーナメント表に出場者の名前と所属クラスも書いてある。でもちょっと博打すぎるような。
「ジュール君じゃない?」
やめておけ、後悔するぞ。
――といった感じで様々な予想を盛りたててていた。
「俺はフレンに1票だな」
「いや、ジュールでしょう?」
「俺は3回戦で敗退する予定だぞ?」
「なによその訳のわからない宣言は。しかも3回戦って微妙なところを……」
「2回戦でレイヴンと当たるからな。あいつには勝っておきたい! そしてその後敗北する」
心配させたくないので、フレンのことを賭けてレイヴンと勝負することになったのは伏せておく。
「なるほどねえ。ま、それでもジュールを信じるわ。本当は私自身に投票したいところだけどね。あいにく今の私ではまだあなたには勝てないと思う」
「確かに。そんなこと言いつつ、なんだかんだジュールさんはいい結果出してくれそうですからね」
こんなに負けてやると宣言しているのに。そんなに俺に賭けたいのか?
「決して一攫千金、大穴狙いをしているわけではありませんよ?」
おいアリス、お前はそれが本音だろ。
「俺は大穴になるつもりはない。勝つことは難しいが負けることは簡単だ。宣言しよう、俺は3回戦が始まった瞬間場外に走り敗北してみせよう」
「うわ、せこいです!!」
「なら俺なんかに投票しないことだな」
「ふん、そこまで言われたら余計に投票しますから。ですよね、フレン?」
「ええ」
はあ、逆効果だったか。彼女たちに何を言っても無駄。
結局俺はフレンに、フレンは俺に100口投票した。ちなみにアリスは俺に1000口投票した。
そして、試合は進んでいく。
第4試合、フレンの1回戦が始まる。
闘技場を駆け回る黒髪オッドアイの美少女。遠目で見ても可愛いとわかる。
彼女の1回戦の対戦相手はCクラスの斧使い。フレンは得意の氷と炎の二刀流を駆使しながら、熱い戦いを繰り広げていた。
「フレンのほうが優勢だな」
「そうですね。さすがフレン様です」
「アリスは出なかったんだな」
「私は強くありませんよ?」
「そうか? 白虎のアリスは強いけどな。Aクラスでもおかしくない。勉強が苦手ってわけでもなさそうだし。どうしてFクラスになった?」
ちょうどフレンもいない。前々からアリスに聞いてみたかったことを聞いてみた。
「えっとですね、入学試験のときにコスプレしていったら模擬戦用の装備とサイズが合わないと、脱ぐように言われまして。それで本来の力を出せずに……。なんとか合格はできましたが、上のクラスでの合格はかないませんでした」
「そんな事情が。残念だったな」
思ってたよりも可哀想な理由だった。本当は実力があるはずなのに、試験の規定のせいで評価されない。これほどやるせないこともないだろう。彼女には同情する。
「聞いてしまってごめん」
「いえいえ。別に残念でもありませんよ?」
「え?」
「このクラスでよかったです。こうしてジュールさんたちに出会うことができましたから」
そう言ってアリスはニコッと笑ってくれた。少し気恥ずかしくなったので話題を変える。
「そういえばどうして今日はそんな着ぐるみ着てるんだ?」
クエストのとき以外は基本はジャージ姿のはず。それに白虎しか見たことなかったからな。キリンとは意外なチョイス。
「シマゼブラは視力のいいモンスターです。観客席からでも闘技場の様子がバッチリ見えます!」
そのコスプレをするとキリンのように目が良くなるのか。
便利な能力だな。
「他の人が着ても同じ効果が現れるのか?」
「そうでしょうね。この衣装自体に能力が宿ってますから」
「へえ」
「ちょっと暑苦しいのが難点ですけど」
本当に目なんか良くなるのか?
ちょっと気になってきた。
「……」
「どうしましたか? そんなにこちらを見つめて……」
「着てみても――」
「ダ、ダメですっ!」
即答で拒絶された。
『勝者、フレン・ウェルセリア!』
「ほらほら、フレンさん勝ちましたよ」
「お、本当だな」
フレンが難なく勝利し2回戦にコマを進めた。
そして第10試合、俺の試合の番になった。
この代表選抜戦、俺のやるべきことはレイヴンとの勝負にかたをつけること。1回戦はさっさと片付ける。
「拙者、Fクラスのヨシマサ・ムライと申す。ジュール殿とは前々から戦いたいと思っていた!」
目の前で名乗る男子が1回戦の対戦相手。
坊主頭、濃ゆい眉、厚い唇。武士のような和装を身に纏い、腰に刀を携えたヤマト皇国出身の侍。
しかもクラスメイトらしい。クラスメイトの顔とかよく覚えてなかったから気づかなかった。
『試合開始!』
「いざ尋常に勝――」
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
「ぐはっ! 両手と両足に撃ち込まれてしまった。参ったでござる!」
『しょ、勝者、ジュール・ガンブレット!』
俺は長い戦いが好きではない。速戦即決、先手必勝、短期決戦。それが俺のバトルスタイル。
この調子で2回戦のレイヴンも速攻で倒してみせる。
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