探索授業 救助

翌日午前9時。大遺跡探索の終了時刻を迎えた。

学生たちはスタート地点であるベースキャンプに集合した。今は先生から次の指示があるまで待機しているところである。

学生たちは一日半に及ぶ長い時間の間、モンスターの狩猟を続けた。体力、魔力ともに消費しきっており、みんなクタクタにくたびれている。


「おつかれー。何ポイントだったー?」

「おつー。私たちは57ポイント」

「ワシは88ポイント」

「えー、中々やるじゃん」


ふーん、周りは大体それくらいのポイントなのか。


「フレン様はどうでした?」

「242ポイントよ」

「はええ。さすがフレン様! Aクラスのクロード君チームの196ポイントよりも上だ」

「FクラスがAクラスを超えるなんて前代未聞!」


どうやら全パーティの中で俺達のところがトップらしい。

あと気になるのはレイヴンのチームだが、姿が見当たらない。トイレにでも行ってるのかな。


『よし全員揃ったなー。これにて探索を終了する。今からポイントを集計する。先生たちが回るので各チーム集めた魔石を提示するように』


シルバー先生が例の拡声魔法で呼びかける。

そして他の先生たちが魔石を集め始める。俺たちもカバンから魔石を取り出し、いつでも勘定できるよう準備を整える。

そんな中とある生徒が挙手した。


「先生、レイヴン君のチームがまだ戻ってきていません!」

『何だって!? それは本当かい? トイレとかじゃないのかい?』

「違うと思います。ずっと見かけていません」


あいつまだ戻ってなかったのかよ。もう時間オーバーだぞ。結局最後まで6層にこもってたのかな。早く戻ってこないと失格で0ポイントになるんじゃないか。そうなると俺達との勝負どころじゃなくなってしまうぞ。


『おかしいなー。1から5層、見回りの先生に確認してもらったんだけど……』


あいつら6層にいるからその方法では気づけないです。

これって言ったほうが良いのかな。気を利かせて黙ってやろうと思ってんだけどな。でも先生も心配しているし、ここまで来たら言うしかないか。


「あのシルバー先生レイヴン君のパーティのことですが実は6層に―――」


「助けてくださあいい!!」


言いかけると、二人の男女が大遺跡の入口がら出てきた。ラットとリシア。レイヴンの子分だ。二人とも服がボロボロで傷も負っており、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「君たちはAクラスのラットくんとリシアさん!? ひどい怪我だ。急いで治療を!!」 

「僕たちのことはいいんです。それよりもレイヴン様が……レイヴン様が地下10層に!! 地下10層まで落下してしまいましたああ!」

「うわああん! 6層で探索してたら罠があって! それでレイヴン様があああ。レイヴン様があああ!!」


「「「なんだって〜!?」」」


シルバー先生を始めここにいる人たち全員が騒然とする。


「10層。それはまずいですよ!」

「6層からは急激にトラップが増えます。おそらく落とし穴のトラップでしょう。それにしてもなんで6層まで……」

「そうですよ! あれだけ禁止事項として伝えたはずなのに!」

「そんなことを議論している暇はありません。大切なのは今どうするかです。すぐに助けに行かなければ!」

「ですが私達だけでは10層なんて。あそこには魔王軍幹部の眷属が……。ここに来ている先生たちだけではとても……」

「と、とにかく至急連絡魔法で学院長とルシファー生徒会長にこのこと報告をするんだ!!」

「もうやってます。もしもし学院長ですか。実は――」


刻一刻を争う緊急事態。引率の先生たちが慌ただしく議論している。先生たちの焦りようからして事の重大さが伝わってくる。


「私が行ってきます」

「それはダメだよフレンさん」

「どうしてですかシルバー先生! 彼が下層に入り込んでしまったのは私達にも責任がある。放っておくわけにはいかないの!」

「確かに氷炎の魔剣士である君は強い。しかし君一人で相手できるモンスターでは決してない。君の気持ちも痛いほどわかる。でも先生からのお願いだ。ここは大人しく待っていてくれ!」

「に、人数が足りないというのなら私にも行かせてください!」

「そういうことじゃないんだよアリスさん。10層に眠っているのは魔王軍の眷属、Aランク相当のモンスター。Bランクの先生よりも上。学院が総動員でかからないと倒せないんだ!」


先生に断られ、フレンもアリスも落胆する。


「眷属とは戦いません。マスカーレの息子を救出するだけです。それで手をうっていただけませんか、シルバー君?」


どこからとなくシズノさんが現れた。


「君はシズノちゃん!? どうしてここに?」

「10年前よりフレン様専属の使用人として雇われてまして、護衛にきていました。フレン様のおっしゃるとおり彼らが下層に出てしまったのは100%私達のせいです。私が彼女たちを守りますのでどうか」

「そうかい。君が見てくれるなら……わかった。一旦は任せるよ。すぐに援軍も向かわせるからくれぐれも気をつけるように」


承諾するシルバー先生。このメイドさんかなり信頼を置かれているみたいだな。ひょっとして只者ではない?


「そういうわけです。フレン様にアリス様、私がついていきますので一緒に10層まで参りましょう」

「わかったわ、ありがとうシズノ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。それと……もちろん貴方も付いてくれますよね? ジュール様」


そうなるよね。当然断れるはずもない。




10層に到着すると、そこは祭壇のような場所になっていて赤いワイバーンが一匹とボロ雑巾のようになっているレイヴンがいた。

あの赤いのが魔王軍幹部の眷属。さすがのレイヴンもAランクのモンスターには太刀打ちできなかったか。


「俺たちが助けに来た。もう心配いらないぞ」


ぼぼ意識を失いかけているな。かなり負傷している。


「あと……あと少しで貴様たちに勝てるところ……だったのに」

「お前たちの負けだ。そうまでしてフレンに固執しなくてもいいだろ?」

「うるさい……貴様には関係のない……ことだ。言っておくがボクは……認めない……から……な」


そう言い残すとレイヴンはバタリと倒れた。


「いそいで治療してもらったほうが良さそうだ。アリス、シズノさんとフレンと一緒にこいつを乗せて先に地上に戻れるか? 3人まで乗せられるんだよな?」

「は、はい。ですがジュールさんは……」

「俺は目の前のアレを何とかする。今にも襲いかかってきそうだからな」

「でも……」

「心配するなアリス。すぐに戻るから」

「いくらなんでも無茶よ! あなた一人には任せられないわ! 私も!」

「落ち着いてくださいフレン様」

「シ、シズノ……」

「ジュール様、本当に大丈夫なのですね?」

「はい」

「……わかりました。ここはあなた様に任せます」


アリスの背中に3人が乗る。


『我の名は《赤眼のバハムート》。魔王軍幹部バアル様の堅実ナル下僕。その男を逃すワケにはイカない。その男は我の眠りを妨げタ』


バハムートが今にも襲いかかってきそうな目つきで俺たちの方を睨みつけている。かなり怒ってるみたいだ。


「寝ているところを起こしてしまったなら申し訳ない。ここは大人しく見逃してくれないか。でないと君が痛い目を見ることになってしまう」

『我が痛い目だと? お主我を侮辱スル気か』

「そんなつもりはない」

『イイダロウ。まずはお主からヤル』

「本当は穏便に済ませたかったんだけどな。どうしてもということなら俺が相手しよう。さあアリス、早く行くんだ」

「は、はい」

『誰一人として逃がすモノか!』


バハムートがアリスの方へ行こうとしたので、羽に銃撃を当てて止める。


『うぐっ』

「お前の相手は俺一人だ』


バハムートの注意をこちらに引きつける。

そしてアリスたちが立ち去ったのを確認。

これでひとまずレイヴンの救出は成功だ。

あとは地上に帰るだけ。穏便に帰してくれたらそれが一番良いのだけど。


「これで俺たち二人きりだな」

『お主、我と戦う覚悟はデキているのだナ?』

「戦う? 誰もそんなこと言った覚えはないぞ?」

『え?』


俺は”楽をしたい”をモットーに生きる人間。

こんなAランクのモンスターと真剣に戦えば苦戦することは目に見えている。

死闘の末なんとか倒すこともできるだろう。

しかし俺は同じ過ちを繰り返したりはしない。強敵を倒してしまうと、その後が面倒になるからだ。シルバー先生に勝利したときに俺はそれを学んだ。


俺がここで取るべき選択肢は――逃げること。


「ほんの少しだけ相手をしてやると言っただけだ」

『貴様一体どういうつもり――ぐおおおっ!!』


バハムートの左目に銃弾をぶち込んだ。

バハムートが怯んでいいるうちにすたこらさっさと上層行きの階段まで逃げ込む。


「お前の二つ名は赤眼ではなく隻眼のバハムートだ。はははは、呼び方が変わらなくて良かったな」

『ぐおおおお! 逃げるナあ!! 待ツのだあああ!』

「お前を倒すのは俺じゃない。さらばだ!」


そう言って俺は親指を立てて階段を登っていった。



その後、かけつけれくれた3年生と先生たちの精鋭部隊によってバハムートは退治され事なきをえた。


かくして俺達1年生の初めての探索授業はちょっとしたトラブルも発生したが、無事終了することができた。


ちなみに約束を破って無断で下層を探索したレイヴンたちは先生たちにこっぴどく叱られ、反省文を提出させられたそうだ。

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