探索授業 夜休憩

大遺跡の探索が始まった。

パーティメンバーのフレンとアリスが下層の方がいいと言ったので、俺たちのパーティは地下5層まで降りて狩りをする方針になった。

大遺跡は1層1層が薄暗い迷宮のようになっており、通常なら下層へ行く階段を見つけるのにそれなりに苦労するのだが、アリスの白虎の鼻のおかげでここまで来るのに迷うこともなかった。

そして狩りを始めてから数時間が経過した。


「インフェルノブレイド!」

「虎拳!」


フレンとアリスが得意技でハイオーク、ワイルドウルフの群れを倒す。


「これで70ポイント〜。かなり順調ね!」


フレンはウキウキした様子でモンスターの亡骸から魔石を収集しバッグの中に詰めていく。

いずれのモンスターもCランク相当の強さだが、特に苦戦することなく順調に対応できている。

フレンに関しては魔剣士としての腕前を知っていたので驚くことはなかったが、アリスがここまで善戦していることが意外だった。

ふざけたコスプレをしているが、その実力はAクラスの中でも上位に相当するのではないだろうか。Fクラスのものとは到底思えない。彼女はなぜこのクラスに?とも思いたくなる。


「疲れたきたわね。そろそろ晩御飯の時間かしら。今日はこまでにしましょう」

「そうですね。私お腹すいてきました」


一区切りついたので近くの窪みで野営することになった。カバンの中から折りたたみのテントや調理道具一式等を取り出す。

テントを張り、入り口に設置したランプにファイアで火を灯す。いつモンスターが寝込みを襲ってきても対処できるよう、周辺には地盤で買える探知魔法のトラップも張っておいた。これでひとまず拠点が完成した。


「今日はカレーにしますね」


料理担当はアリスだ。

焚き火に網掛を被せ、その上に具材を入れた鍋を置いてグツグツ煮込む。15分ほどで出来上がった。

そして食卓を囲みながら他愛もない雑談を始める。


「フレンもアリスも凄まじいやる気だったな」


今日だけでかなりのポイントを稼ぐことができたのは、この二人がいつにもまして好戦的だったからだと思う。


「当たり前でしょう? レイヴン君に負けるわけにはいかないんだから」

「ああさっきの約束のことか」


俺とレイヴンの間で交わした男同士の戦いのはずだったが、この二人のほうが本気になっているらしい。


「あんなキザな男に付きまとわれるのはイヤ。この勝負は負けられない。だからわざわざ5層まで降りてきたんじゃない」

「そうですね。敵のレベルが低く倒しやすい1.2層には人が多く競合します。5層になると比較的相手のレベルは高いですが、その分ここまで来る人も減り競合することはなくなりますし」


なるほど。それで5層にこだわってたのか。


「確かにハイペースで討伐できるのはいいことだが、ペース配分には気をつけろ。まだ始まったばかりなんだ。終盤に向けてスタミナは温存しておいたほうがいい」

「大丈夫大丈夫。心配いらないわ」


本当に大丈夫なのか? まあ本人がそういうならいいんだけどな。


「ごちそうさま。アリス、体洗いに行きましょう」

「はい」

「テントの裏でシャワー浴びるからくれぐれも覗かないように」

「わかってるよ」


飯のあとはお風呂タイムといきたいところだが、あいにくここは地下ダンジョン。お風呂や入浴という概念はないので、温水魔法のシャワーで我慢するしかない。


「アリスってば意外とあるわよね」

「ああっくすぐったいです。触らないでくださーい」


ここからは見えないとはいえ、俺には少々刺激が強かった。

その後交代で俺もシャワーを済ませた。



明日の朝は早い。あとは寝るだけだ。

寝間着に着替えてテント内に入ると甘い香りが鼻孔をくすぐる。なんというか女子の匂いだ。

テントの中はすでに寝袋が敷かれているようで真ん中がフレンで左にアリス、右に俺となっている。


……それにしても距離、近すぎないか?


フレンとの距離は50cmもない。二人のことをただの友人という認識でいたが、いざこうしてみると妙に緊張してしまう。

さすがにこれはまずいと思って、寝袋をテントの端のギリギリのギリギリに寄せて距離をとる。


「ちょっとそんな離れないでよー」


え、どういうこと?

こっちは男だぞ? そんなに近づいたら色々とまずいだろ。


「今からトランプをやるのです。そんなに離れたらやりにくいでしょう?」

「な、なんだよー。そういうことか」


いかんいかん。色々と思考が先走りすぎた。彼女たちは全くそういうことを考えていなかった。自分一人で舞い上がってたのだと思うと恥ずかしい。


「あ、もしかしてジュール今イヤらしいこと考えてた?」

「いや、そんな、つもり、は……」

「この人嘘が下手ですね」

「仕方ないわよアリス。私たちが魅力的すぎるってことだから」

「ですね」


どうやら思春期男子の考えはお見通しだったようです。


「とりあえずババ抜きと大富豪、七並べあたりならみんな知ってるわよね」

「確かにそのへんが無難どころだけど……。3人か」


カードゲームは4人以上からが盛り上がる。俺たち3人パーティだからなあ。


「その点に関しては大丈夫よ。今から4人目を呼ぶから」


そう言うとフレンはカバンから笛を取り出して吹いてみせた。

10秒とたたないうちにテントの中にメイド姿のお姉さんが飛ぶような勢いで入ってくる。


「ご無事ですかフレン様!?」

「心配いらないわ。シズノにもトランプ参加してほしくて」

「左様でありましたか。それでは僭越ながら私も参加させていただきます」


彼女は確かフレンの専属メイドのシズノさんだったな。


「えと。ど、どちら様……?」


彼女のことを知らないアリスはひたすらに困惑している。


「フレン様のご学友アリス様ですね。申し遅れました、私フレン様専属使用人のシズノと申します。以後お見知りおきを」


シズノさんときちんと会うのは王都に越してきた日に以来だ。まさかこんな近くにいたとは。


「どうしてシズノさんが? ここ遺跡の中ですよ?」

「私の務めはフレン様を護衛すること。当然ダンジョンの中にだってついていきますよ? 基本的に私はフレン様の半径50m以内に潜んでいると考えておいてください」


なるほど。護衛の仕事も大変なんだな。


「せっかくですし賭けをしてみては? そうしないとみなさん本気で戦いませんよね?」


と、シズノさんが早速意見を出す。


「負けた人には罰ゲームでどうでしょう。今気になっている異性を告白する、というのはいかがですか?」


うわー。ありがちな罰ゲーム。これは負けたくない。


「ちょっとシズノ! 変な提案しないでよ!」

「良いではありませんかフレン様。負けなければそれでいいのです。逆に勝てばアリス様やジュール様の気になっている相手を知ることができるのですよ? 負けなければよいのです」

「もう〜。シズノってば仕方ないわね。二人は大丈夫?」

「私は大丈夫ですよ」

「俺も大丈夫だ」


いや全然大丈夫じゃないけど。

え、誰を答えればいいの?  まともに交流のある女子ってフレンとアリスしかいない。どちらかを答えなきゃいけないのか? それってもう愛の告白をしているようなものでは……。



 

「こっちよ。こっちを引きなさい!」

「いやきっとそれは嘘だ。左だ。多分左だ。やっぱ右?」


罰ゲームを賭けたババ抜き。シズノさんとアリスが勝ち抜け、俺とフレンが熱い最下位争いを繰り広げていた。


「こっちだ! やったぞ! 勝ったああ!!」

「ま、負けたの、私……」


罰ゲームはフレンに決定。フレンには今学院で気になっている男子を告白してもらう。

フレンは学院の中でもマドンナ的存在であり、よく男子からアプローチされている。そんな彼女が今一番気になっている異性は誰なのか知っておくのは有益なこと。

やはりAクラスの誰かだろう。本命はあのクロードっていうイケメン男子か?


「さあフレン様。あなた様のお気になされている殿方をお教えくださいませ!」


なんかシズノさんノリノリだな。仕事のストレスでも溜まっているのかな。


「あ…私が今……気になって……」


いつもは強気なフレンだが、いつにもまして顔を真っ赤にさせてモジモジしている。こんな恥ずかしがる彼女を見るのは初めてだ。やはりこういった色濃い沙汰というのは男女問わず胸がドキドキとするものなのだろうか。


「なんかこっちまで緊張してきましたねジュールさん」

「そうだな」


なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。まあ本人が一番恥ずかしいとは思うが。


「気になって……いる……のは……あの……その」


え、こっちばかり見ないでくれよ。見られると余計に恥ずかしくなる。せめてアリスかシズノさんの方を向いて――


「おーい平民のジュール・ガンブレット! いるんだろ? 出でこいよおお!!」


せっかくいいところだったのに邪魔が入った。

テントの外に出るとそこにいたのはレイヴン一行だった。

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