探索授業 パーティ決め
それから俺たちはアリスの放課後クエストの付き添いを始めた。放課後でも気軽に立ち寄ることができる近辺の森や草原に発生したクエストをターゲットに受注し小遣いを稼いだ。
それ以外は特に目立った活動をすることもなく日々が過ぎていき、気がつけば入学から一月あまりが経過していた。
「もう1ヶ月経つのか。案外早いものだな」
ある日の朝。教室の隅で一人肘をつき窓の外を眺めながらホームルームが始まるのを待つ。
「以前とはうってかわって暇そうしてるわね」
「そうだなフレン。ようやく平和になってきたって感じで良かったよ」
入学当初こそシルバー先生に勝利してしまったことで一時的に注目の的になってしまったが、そのブームも徐々に消えていった。今では休み時間に自席を訪ねてくるものもフレンやアリス以外にいなくなった。
なんでも俺達とは別コマの授業にて、シルバー先生に勝利した生徒がAクラスにも二人現れたらしい。しかもそいつらがこれまたイケメンで学業も優秀とのこと。Aクラス所属でイケメンで強くてハイスペック。そのため強いことだけが取り柄とされていた俺の影は次第に薄くなった。そして気づけば俺のプチブームは終了していたのである。
もちろん実戦演習の授業では今のところ無敗を記録しているので、今はFクラスの強いやつという認識に落ち着いている。
「そういえば来週から親善試合の出場メンバーを決めるんだっけ。例のヤマト皇国との……」
「そうよ。当然代表選抜戦には登録したわ。登録は今週末までよ」
「ふーん。そうなんだ」
「Aクラスからはあなたに次いでシルバー先生に勝利したクロード・ミッシェル君やレイヴン・マスカーレ君も出場するそうよ。腕に自信のある生徒が多く志願しているわ」
「フレンもその二人に負けないくらいの実力を持っているんだろ? 代表めざして頑張ってくれ!」
俺ができるのはフレンを応援することくらい。フレンが闘技場でAクラスの男子たちと熱くハイレベルな戦いを繰り広げているところを、俺は観客席でジュース飲みながらアリスと応援するつもりだ。
「登録は今週末までよ」
「そうか。フレンはもう登録済なんだろ」
「ねえジュール」
「どうした?」
「登録は今週末までよ」
こっちをチラチラと見ながら、botみたいに同じことばかり繰り返すフレン。そんなに強調されたら、彼女の言いたいことは嫌でも察してしまう。
「言っとくけど俺は出ないからな」
手をパーに突き出して首を振る。きっぱりとした姿勢で断ってやった。
「やれやれ。やはり出るつもりはなさそうね。残念だけどそこまで出たくないなら私も強制するつもりはないわ。多分今戦っても勝てないでしょうし」
フレンのことだから怒ってげんこつの一つでも飛ばしてくると思ったが、すんなりと引いてくれた。
「それはそうとして今日から探索授業よ。代表選抜戦に出ないなら、せめてこっちはしっかりとこなしてよ。学院の成績にも大きく響くから、間違っても手を抜いたりして補修になってしまわないように」
「わかってるよ。ちゃんと荷物は持ってきているし準備は万端だ」
◆
ウェルセリア学院では月末の3日間を使って探索授業を行う規定になっている。そして今回が初めての野外実習。一ヶ月学んだことを活かす総まとめの授業だ。
放課後にアリスと外に出ることはあったが、授業の一環として外に出るのは初めてのことだ。
場所は王国北西部に位置する大遺跡。朝のホームルームが終了すると直ちに学院側で用意された馬車に乗って移動を開始し、昼過ぎに目的地に到着した。
今回の授業はAクラスと合同で行う。BからEクラスも今頃別の地で同様の授業を行っていることだろう。
遺跡前のベースキャンプにクラス別に並んで整列する。右にAクラスで左にFクラス。両クラス整列したことを確認すると、シルバー先生が俺たちの前に立って拡声魔法を使用した。
『みんな移動ご苦労だった。Fクラス担任のシルバーだ。これより探索授業の説明を開始する!』
そう言うと先生は話を続けた。
『この大遺跡はもともとD、Eランク相当の中下級モンスターが生息していた。しかし最近魔王軍から派遣されたモンスターたちが巣食うようになってしまってな。この問題を解決すべく我が学院が冒険者ギルドから依頼を引き受けることにした』
魔王軍とはその名の通り魔王が支配する勢力。大陸北部の帝国の更に北を支配し、その勢力を近年伸ばしつつある。俺たち人類にとって害のある厄介な存在。そして魔王軍勢のモンスターには魔王の加護が付与されており、そこらのモンスターよりも能力が高い。
魔王軍勢のモンスターの平均ランクはCランク。D・Eランク程度の並の冒険者では対応することが簡単ではないため、今回はこの学院が引き取ることになったのだろう。
以前もシルバー先生が依頼を指名されていたし、学院と冒険者ギルドは結構ズブズブの関係にあるのかもしれない。
『大遺跡は地下10層まであるわけだが、君たちにはこれから地下5層までを制圧してもらいたい』
下層にいけば行くほどモンスターのレベルは高くなる。一年生に任さられるのはせいぜい5層までというとか。
『地下10層には魔王軍幹部の眷属が眠っていると言われている。これについては我々教員や3年生で後日討伐に向かう。君たちはくれぐれも地下6層から下には行かないように』
ここまで念を押されれば、さすがに言いつけを破るバカはいないだろう。
『探索を行うにあたって、3人から10人で1組のパーティを組んでもらう。モンスター1匹を狩る毎に1ポイント獲得する。モンスター討伐を証明するため、魔石は必ず収集しておくこと』
マックス10人まででチーム組むことができるのか。2クラスで80人いるわけだから少なくとも8チームはできることになる。
『探索は明後日の朝までだ。それまでに獲得したポイントからパーティ人数を割った分が今回の授業の成績に反映される』
かならずしも10人で組んだからといって有利になるというわけではなさわけだな。いかに優秀な仲間をかき集めるのかが大切になってきそうだ。
『万一の場合に備えて見回りの先生もいるから、何かあればすぐに知らせるように。ここまでで質問はあるか?』
先生が見渡すとAクラスから手が上がる。手を上げたのは紫色の巻き毛で高貴漂う気品の高そうな男子。
「Fクラスの学生とパーティを組みたいのだがそれか可能か?」
それは確かに気になること。しかし、ここにいるのはAクラスとFクラス。1年生の中でも最も実力がかけ離れている組み合わせ。成績のこともあるし、俺達から向こうと組みたいのは理解できるが、まさか向こうから寄ってこようとは。
「当然認めているよ。パーティバランスもあるからね。クラス混合のパーティを結成することでより効率的になる可能性もある」
「フフッそうですか。ありがとうございます」
男は納得するとニヤリと笑う。
『他に質問はないようだな。それではこれから30分とる。まずはパーティを結成してくれ』
先生が合図すとクラスメイトたちはゾロゾロと動き始めた。
早速俺も動き出そう。
そして周囲を見てみると明らかに浮いているやつを発見した。
「なあアリスその格好……」
「どうかしましたかジュールさん?」
「いや、なんでもない」
気合が入っているのか彼女はすでに白虎に扮装していた。その奇天烈なコスプレにクラスメイトたちも引いており、彼女に近寄るものは誰もいなかった。
「よかったら一緒に組まないか?」
「お誘いありがとうございます。もちろん喜んで!」
よしこれで一人確保。あと一人だ。
「フレンさんオレたちと一緒に組みましょう!」
「ワシとー」
「私とー」
王族であるフレンは相変わらずクラスでも人気なようで。
是非うちのパーティへ、といろんなチームから引っ張りだこになっていた。
「みんなごめんね。私この人たちと組むわ」
フレンがこちらへやってくる。
それをみたフレン狙いのクラスメイトたちは残念そうに去っていった。
「これで3人揃ったか。それにしても凄い人気だな」
「王族っていうのも結構面倒なものなのよ」
フレンもフレンで色々と苦労しているんだな。
「人気といえど、あちらの彼らには敵わないわ」
「ん、誰だあいつら?」
彼女の言う方を見てみると二人の男子生徒のところにも人だかりができている。
「クロード様、是非私と」
「何言ってるのよ、私よ!」
「なら私はレイヴン様と!」
「いえ私がー」
AクラスとFクラスの女子たちが群がっている。
「彼らがAクラスのクロード君とレイヴン君。朝話したシルバー先生に勝利した生徒よ」
ほう。あれがそうなのか。話は覚えていたが顔を見るのは初めてだ。クロードと呼ばれているのが赤い髪の好青年風なイケメンで、レイヴンという方がさっき先生に質問してた紫髪の男子か。凄い人気だな。
「やあやあ。君たちと組みたいのも山々なんだけどねえ、ボクには運命の相手が決まっているのさ」
そう言いながら人だかりを出た紫の方の男子の一行がこちらに近づいてくる。
「ボクはノーザンド帝国公爵マスカーレ家が次期頭首――レイヴン・マスカーレ。フレン王女様ですよね、是非ボクたちとパーティを組みましょう」
レイヴンと名乗るその男はにこやかにフレンを勧誘してきた。俺とアリスのことは微塵も相手にすることなく、フレンの腕を握る。
「ごめんなさい私にはもう決めた相手が――」
「そこの薄汚い平民共のことかい? 非力そうな男と獣臭いコスプレをした女。こんな低俗な連中なんかとつるんでないでボクたちと行きましょう」
おや? もしかして今バカにされた?
「ちょっと引っ張らないで! 私はこの3人と組むって決めたの!」
「何をわけのわからないことをおっしゃっているのですか。さあ行きますよ」
嫌がるフレンの言葉に耳を傾けることなく連れて行こうとする。
「すまないが俺たちが先約なんだ。彼女のことは一旦諦めてくれないか?」
そう言って俺はレイヴン?の肩を掴んだ。
別にフレンがいなくなったら寂しくなるなんて微塵も思っていないからな。ただ彼女を失ってしまえば俺たちのパーティは人数が揃わなくなってしまうから止めただけだ。
「なんだ貴様。このマスカーレ家次期頭首のレイヴン様に指図する気か!!」
「そういうつもりじゃ……」
「うるさい!! 平民ごときがボクの家を馬鹿にしやがってー!!」
物凄い形相で睨まれた。さっきまでのにこやかな表情とは程遠い顔になる。こっちがやつの本性だな。
「ちょっとフレンさんと仲がいいからって、たかだか平民の分際で調子に乗ってんじゃあないぞ!!」
「はあ!?」
「ボクの方がフレン王女様のお相手として相応しいに決まっている!! そうだ、ちょうど授業もある。ここはどちらが彼女にふさわしい男か勝負しようじゃないか!」
「勝負だと?」
「今回の探索でよりポイントを稼いだパーティの勝ちとする。勝ったほうが彼女に相応しい男だ! そしてボクが勝ったら貴様は二度とフレン様に近づくな!」
「それはこっちのセリフた。お前こそ負けたら二度とフレンに近づくな!」
探索を前に面倒なバトルを引き受けてしまった。
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