王立学院への誘い
王宮ことウェルセリア
このアパートからも一応見えるもののそれなりに距離があるので、使用人であるシズノさんの用意した馬車で移動……連行されることになった。
「今からフレン様たちとともに王宮に向かうと国王様に連絡しました。それではお乗りください」
シズノさんが手綱を握り、フレンとともに後ろに乗り込んだ。
「「…………」」
そして発車から5分が経過したわけだが。
お互い無言状態が続いている。お姫様はずっと窓の外の景色を眺めている。初対面だし、見てはいけないものを覗いてしまった仲だし色々と気まずい。何か話題を出さないと。
「ところでフレンさん、どうして王族の人間がアパート暮らしを?」
そもそもそんなことがなければ、さっきのようなトラブルは発生しなかったわけで。恐る恐る質問してみると、彼女は外を見ながら口を小さく開く。
「知見を深めるためよ。王宮の中なら家臣や使用人、シズノたちがなんでもしてくれる。それだけじゃあ見えてこないこともあるでしょ?」
なるほど。ちゃんとした理由があったわけだ。
「向上心が高いんだな。立派なものだ」
俺がその立場だったら絶対に楽だし引きこもり続けてただろうな。生き物というものは楽な方に引っ張られるものだし。
「……というのが建前で、単純に窮屈な生活にうんざりしていただけよ」
おい、そっちが本音かい。
「もちろん王宮のことが嫌いというわけではないわ。自分が王族であることには誇りを持っている」
「だろうな。なんとなくそんな感じはするよ」
「学院生活の間だけは一人暮らしさせてくれってお願いしたらあっさりオッケーしてくれたわ。今はシズノの最低限の護衛があるだけ。随分と楽になったわね。自由、それが王宮を出た感想といったところかしら」
「それはよかったな」
「それを、いよいよ明日は入学式ってところだったのにー」
ジト目になりながらこちらに視線を移してきた。あなたがこなければもっと素敵な生活を送れたのだけど、と言わんばかりに。
「そういえばそれ、あなたの武器なのよね」
「そうだけど」
フレンは興味深げな様子で、俺の右腰につけているリボルバーを見つめる。
「触ってもいい?」
言葉より先に手が伸びていた。とりあえず誤発射されては困るので、弾丸を抜いた状態にして彼女に手渡す。
「へえそう、これが……ふーん。なるほどねえ。悔しいけど凄いわ」
フレンは夢中になりながら銃を触り続けた。銃口を覗いたりレバーをカチャカチャ言わせたり。そしてハッとしたような顔になる。
「す、凄いのはこの武器よ! 別にこの武器を作ったあなたが凄いなんて思ってないからね!」
フレンは顔を赤くさせながらリボルバーをつき返してきた。
◆
20分の移動を経て、王宮に到着した。
白く凛々しく聳え立つ立派な宮殿。大きさだけじゃない。半径だけで1kmはあるんじゃないかと思えるほど、土地の広さもまた絶大。
「フレンさんってこんなすごいところに住んでいたのか」
「フレンでいいわ。ふふっ、この中に入ることができる人たちは限られているわ。せいぜいその汚れた靴で宮殿内を荒らさないように注意することね」
「心配するな。用が済んだらさっさと帰るから」
馬車は正門、中庭と順に抜け巨大な扉の前で停車した。
「玄関口に到着致しました。二人ともお降りなってください」
シズノからそう告げられ下車する。
黄金ででできた重々しそうな扉が、ゴゴゴッと開いていく。
扉が開くと、中から立派な鬚を蓄え豪華なお召をした中年のおじさんが涙を流しながら凄い勢いで飛び出してきた。
「うおおお!! 我が愛しの娘フレンよおお。会いたかったぞおおお!!」
おじさん、もとい国王様は勢いのままフレンに抱きつく。我が子が実家を出たのが寂しかったようだ。
「ちょっ、父様!? や、やめて、苦しい!」
フレンは少し困惑を見せている。傍から見ればおっさんが少女に抱きつくという事案のように見えるわけだが、親子なので問題はないと思う。フレンが少し嫌そうにしてはいるが。いくら親子といえど、父親から抱きつかれるのは嫌なお年頃なのだろう。
「あらあら〜、あなたってばはしたないですわね〜。」
おじさんの後から続いて、ティアラをつけた黒髪でフレンと似た雰囲気の綺麗なお姉さんが微笑みながらついてきた。
「ああ、そうだった。してシズノよ、報告があって来たわけだろう」
さっきまで娘との再開で号泣していた王様だったが、スッと切り替えて冷静になる。
「仰せの通りでございます、国王様」
「どうやらその客人に何かあるようだな」
「ええ」
そう言いながら王様はこちらを見据えてきた。
「ジュール・ガントレットです」
親バカなおじさんといえど仮にも国王様なので、こちらから跪いて丁寧に名乗る。
「うむ。吾輩はダイガロス・ウェルセリア、ウェルセリア王国が王である。そしてこちらが妻で女王の……」
「メギナ・ウェルセリアです。よろしくお願いしますね〜」
「まあなんだ。こんなところで話をするわけにもいかんしな。ディナーの用意をしている。丁度夕飯どきだ。飯でも食いながら話をしようじゃないか」
◆
宮殿内の食卓に案内された。
俺、フレン、王様夫妻、シズノの5人で長テーブルを囲う。
机上には高級そうな料理がならんでいて、どこから手を付ければいいかわからない。それに周囲では衛兵が見張りをしていて、ときおり視線を感じるので妙に緊張する。
とりあえず一番手前にあったローストビーフをフォークで突き刺し口に入れる。モグモグ、ああこれ旨いわ。
「それでシズノよ。今日は何の用件で訪ねてきた? そなたにはフレンの護衛を命じていたはずだが……」
「はい国王様。こちらの少年について報告しなければならないことがありまして」
衛兵たちから警戒したような視線がこちらに向けられたので、思わずつばを飲む。
「この者は先程フレン様と決闘をなされましたのですが――」
「ほう。ならフレンの圧勝だったろうなあ。なにせフレンはインフェルノブレイドを操る王国最強の魔剣士だからなあ。学院にも特待生枠で合格したし、並大抵の人間じゃ相手にならんよ、ハッハッハー!」
自分の娘に余程自身があるのか、王様はジョッキを片手に豪快にビールを飲みながら軽いノリで話を聞いている。
「フレン様は敗北しました」
「なにいいっ!?」
「フレンが負けたですって!?」
ブブーッとビールを吹き出す王様。そして女王様も危うく椅子から転げ落ちそうになる。
「私が彼に負けたことは事実よ」
「本当なのかい、フレン?」
「ええ。彼はユニーク武器使いで、手も足も出なかったわ」
「おお……」
フレンの口から直接言われたことで、二人はそれが事実であると受け入れる他なかった。
「近くにこれほどの実力者が存在しているとは思いませんでした。ジュール様は近いうちに間違いなく王国内の大きな戦力として活躍することが期待できます」
あのシズノさん? 勝手に戦力に換算してもらっても困るんですけど。俺は一般冒険者として程々の生活を送るつもりなんですけど。
「そして私はジュール様こそがフレン様のご結婚相手に相応しいと考えました!」
「はああっ!?」
危うくローストビーフを吹き出しそうになる。
結婚だと!! 俺が? フレンと? いきなりなんてこと言い出すんだこの人はああ!?
「なるほどなあ。フレン以上の実力の持ち主などそうはいないからなあ。強い遺伝子を残すのは自然のこと……」
「ミステリアスな雰囲気だけど、よく見たらカッコいいし、わたくしはタイプです。フレンさえよければ賛成ね」
そして特に否定することもないお二人様。
「ちょっと父様も母様も勝手に決めないでください! 結婚なんて考えられません!」
これにはフレンも黙らずにはいられない。
そして珍しく彼女と意見が合った。俺もこんな無茶苦茶な婚姻話には反対だ。
「……困ったわね、どうしようかしら」
フレンは顎に手を乗せ、考え込む仕草を始める。
そして何かを思いついたようにニヤッと僅かに口角を上げた。
「……そうだ。これならどうですか。私はまだジュール君のことをよく知らない。だからお互いを知る期間というものが必要だと考えます」
「うむ、確かにそういう期間は設けたほうがいいのかもしれないなあ」
「そこで彼にも王立ウェルセリア学院の生徒として入学していただきたいと考えました! 学院生活を通して彼が私の結婚相手としてふさわしいかを見定めさせてほしいのです」
ちょっとまて! 学院? 生徒として入学?
フレンのやつなんてことを考える!! いやまあいきなり結婚させられることに比べれば、マシな案かもしれないけども!
それに学院といえばさっきフレンが明日入学式とか口にしていたような……。
「なるほどお。それは良い案だな! さすが我が聡明なる娘であるな!」
「わたくしも賛成ですわね」
ちょっと王様に女王様? さっきからそんな軽々しく同意するじゃないぞ?
「まったくシズノってばとんでもないことを提案するんだから」
お前もとんでもない提案をしているわけだが。
「おい、俺はまだその案に了承したわけじゃないぞ」
「あらそうなの? でも、私があなたに一緒に学院に来てもらいたいのは本当よ?」
「え?」
本当に来てほしそうな目をしている。
「さっき負けたことで私の目標はあなたに勝つことに変わったわ。学院では闘技大会のような人同士で戦う機会も与えられている。その舞台でもう一度あなたと戦わせてよ! そうすれば、さっきの覗きの件もチャラにしてあげるから」
やれやれ。わがままなお姫様だな。
学院生活か。案外そういう生き方も悪くないかもしれない。のんびり冒険者やるつもりだったが、ここまでフレンに言われたらなあ。
「仕方ないな。わかったよ」
「お? 言ったわね?」
「言ったよ。俺も学院に入学する。それでもう一度勝負しよう。それでも勝つのは俺だけどな」
「それでいいんだねジュール君!」
「はい。決めました」
「そういえば入学式は明日だったはず。突発だが、急いで入学手続きを済ませなくては! おい家臣! 今すぐ書類を準備して学院長のところへ行ってこい!」
「は、はい。かしこまりました国王様ー」
そうしてトントン拍子で話が進んでいく。
「ウェルセリア学院は王立の学院でな、最適な環境で学ぶことができるよう、吾輩たちがスポンサーとしてあらゆる支援を行っている。いい学校であるぞ。フレンとの戦いの件もそうだが、それ以外にもたくさんの学びの場があると吾輩は考えている。是非とも学院生活を謳歌してくれたまえ。いいな二人とも!」
「はいわかりました、父様」
「わかりました、国王様」
「では飯の続きにしようか。今日はいい飯が食えるぞー!」
その後腹いっぱいになるまで飯を食わされた。
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