第99話 お爺ちゃん、ゼニス支社ビルに行く


 翌日の土曜日、いつものように朝食と用事をすますと源三郎はギャラクシースターオンラインにログインする。


「さて、どれを作ろうかのう?」


 ログインした源三郎は自分のアイテムボックスやマーケットの地上車両設計図一覧を見ながら、ゼニス支社に向かうための装備を見繕う。


「彼方の配信映えの為ならメンバー全員が1人乗りの地上車両に乗るのがいいが、流石に製作時間が足りないしのう………」


 源三郎は表示される設計図一覧をフリック操作で検索しながらぶつぶつと独り言を言う。


「ふむ、ホバータンクか………これが良さそうじゃな」


 源三郎がマーケットでホバータンクと言う地上車両の設計図を購入すると、早速製造を開始する。


「流石にテック4ともなると、アダマンティンの必要量も洒落にならんのう………惑星で掘れるおかげで何とかなっておるが」


 源三郎はパネルを操作してホバータンクの製造を進めていく。


「完成まで2時間もかかるのか………うーむ………時間短縮買うか?」


 源三郎はチラリと現実時間を確認して、クエストにかかる時間やレースイベントの開催時間などを逆算して、課金アイテムページを開いて製造時間短縮系の課金アイテムを買うか悩み始める。


「ここは買うべきじゃな、試運転なしでぶっつけ本番とかで配信がグダグダになるのも嫌じゃし」


 源三郎は少し悩んだあと製造時間短縮の課金アイテムを購入して時間を一気に短縮してホバータンクを完成させる。


「あ、お爺ちゃん、新しい地上車両もう作ったの?」

「ずいぶんと重厚ですね」

「へー、強そう」


 ホバータンクの完成すると同時に彼方達がログインして、完成したばかりのホバータンクを興味津々に見上げる。


「うむ、テック4強襲型ホバータンク【バルバドス】じゃ」

「二門のレールキャノンにチェーンガンも二門、さらに多目的ミサイルランチャーもついてるんだ」

「装甲とバリアのヒットポイントが凄いですね、装甲車両の【ウォーカー】の四倍ちかくですか」


 源三郎は自慢げに胸を張って機体名を読み上げ、車両ステータス画面を表示する。

 彼方達はバルバドスの性能を見ながらあれこれと感想を述べてはしゃぐ。


「試運転して問題なければ、早速ストーリークエストに向かうか?」

「そうだね、早めに終わらせてレースに間に合わせたいしね」


 源三郎は彼方達をのせてホバータンクの試運転に入る。


「タンクの中は狭いね」

「居住性までは考えられとらんじゃろ」

「それでも動けないほどではありませんね」

「私【ヴァルム】に乗って随伴した方がよくない?」


 装甲車両と違ってホバータンクのコクピット内部は狭く、ノエルが気を遣ってか多脚戦車のヴァルムに乗り換えて随伴を申し出る。


「ノエルさんがそれでよいなら」

「んじゃ乗り換えるね」

「それじゃ改めて試運転するぞ」


 ノエルがヴァルムに乗り換えると改めてホバータンクの試運転を始める源三郎。


「強襲型だけあってスビードは凄いな」


 まずは惑星ドーマンの地表をまっすぐに走ってみる。

 ノズルから吹き出すエアーで土煙を発生させるが、かなりのスピードが出せる。


「ちょっとまってー!」

「ふむ、随伴機体がある時は足並みを揃えんといかんの」


 気づけば随伴していたノエルの多脚戦車【ヴァルム】が離されていき、通信で待つようにノエルがいってくる。


「直線スピードはわかったが、小回りはどうかな?」


 源三郎は今度はカーブしたり、急転回などしてホバータンクの足回りを確かめる。


「ホバーだからか、少し滑るな」


 タイヤのように地面に接地していないため、どうしても滑ってしまう癖があった。


「なるほどの、だいたいこいつの癖は体が覚えたかの?」


 30分ほどドライブして源三郎はそんなことを言う。


「もういいの?」

「うむ、これで問題なかろう。早速ストーリークエストを再開させるか?」

「それじゃあ向こうの惑星に着いたら配信しましょうか」

「おけ、告知文打っておくね」


 運転を終えると彼方が声をかけてきて、源三郎は自信に満ちた顔で返事をする。

 源三郎の返事を聞いた鈴鹿が配信の開始時間を口にすると、ノエルがSNSなどに配信の開始時間を告知する。


「皆さんおはようございます! 昨日のクエストから始めます!」

「私達は今、イレイザーと呼ばれる有機生命体の抹殺を目的とした機械生命体に襲われてる星でストーリークエストを行っています」

「現在のクエスト目的はイレイザーに占拠されたゼニス支社ビルの調査です」


 ストーリークエストを再開すると、彼方達は配信撮影を開始すると、現在進行中のストーリークエストの概要を視聴者に移動しながら解説する。


「そしてお爺ちゃんが今回のクエストのために新しい地上車両を作ってくれました! お爺ちゃん、おねがいしまーす!!」

「あいよ」


 ゼニス支社ビルに向かう高速道路前のガレージ内に移動した彼方はそういうと、撮影ドローンのカメラを源三郎に向ける。


 源三郎は彼方の合図に合わせて強襲型ホバータンク【バルバドス】を呼び出して視聴者達に披露する。


 格好いい、重厚!、強そうと好意的なコメントが書き込まれて視聴者達の反応は悪くない。


「それでは出発しまーす!」

「GOGO!」


 ガレージのシャッターが開くと、イレイザーの襲撃でボロボロになった高速道路がカメラに映る。


「ふむ、ボロいが道はちゃんと繋がっておるの」

「流石に道が崩落してたらクエスト進行できないよ」


 高速道路をバルバドスとヴァルムで進みながらボソリと源三郎が呟くと、呟きが聞こえた彼方が返事する。


「ユーザー、レーダーに反応あり。右上空です」

「む? イレイザーの船か?」


 高速道路を進んでいるとサポートロボットのロボが警告し、源三郎達と配信カメラが右上上空をみる。

 そこには機械でできたゲンゴロウのような宇宙船が源三郎達と平行するように飛んでおり、スピードをあげて先回りすると、進行方向の高速道路に金属の塊を幾つか投下してそのまま大気圏を突破していく。


「爆弾………ではないな」

「変形した!」


 源三郎達が投下された金属の塊を警戒していると、金属の塊は変形して機械でできた首の長い陸亀の姿になる。


 機械の陸亀の頭部は単眼のカメラアイになっており、バルバドスとヴァルムの姿を認識するとカメラアイが赤くなり、口からミサイルを吐き出す。


「敵の名前はタートルイレイザーだってさ」

「見たまんまだね」

「バルバドスのデビュー戦じゃ!」


 ヴァルムを操縦するノエルがスキャンして金属で出来た亀の名前を知らせる。

 源三郎はバルバドスに搭載されているチェーンガンで弾幕を張ってミサイルを迎撃すると、レールキャノンを打ち出す。


 レールキャノンから打ち出されたマテリアルはタートルイレイザーのバリアを一瞬で貫通し、タートルイレイザー本体の体に穴を開ける。


「もういっちょ!」


 もう一門のレールキャノンが火を吹き、同じように別のタートルイレイザーのバリアを貫き、本体に穴を開ける。


「うひゃあ、一撃とか凄い!」

「ただリロード時間が長いのがネックじゃ」


 タートルイレイザーを一撃で倒す威力を持つレールキャノン。

 源三郎が言うようにコクピットに表示されるHUDにはリロード中と言う文字が表示される。


「今度は私の番だね!」


 ノエルが操縦するヴァルムが蛇足走行しながらチェーンガンを打ち放ち、タートルイレイザーのバリアを削っていく。


 タートルイレイザーもレーザーを放って反撃してくる。


「よいしょっと!」


 ノエルは迫りくるレーサーを壁走りで回避して、逆にミサイルを発射してタートルイレイザーを倒していく。


「これで全部じゃな」

「取りあえず増援もなさそうだよ」

「ドロップ品の回収、完了しました」

「それじゃあ先に進もう」


 タートルイレイザーを倒し、ドロップ品を回収した源三郎達はクエスト目的地であるゼニス支社ビルへと向かう。


「ジーサザザ」

「なんじゃ? いきなり通信がオンになったぞ?」


 ゼニス支社ビルにある程度近づくと、突然通信機にノイズが入る。


「聞こえますか? こちらはゼニス社所属の者です」

「む? 生存者か? こちらはフリーパイロット。コロニーからの救援要請でそちらに向かっている」

「よかった! こちらはビルの地下シェルターにいます!」


 最初はノイズ混じりだった雑音もビルに近づくにつれて声がはっきりと聞こえてくる。

 源三郎が応答すると、相手はゼニス支社の社員と名乗り、コロニーと同じくシェルターに避難しているようだった。


「そちらに向かうから暫く待っててくれ」

「出来ましたらビル内にいるイレイザーを排除してください。無理ならせめて対空砲のコントロールの奪取と、妨害電波の解除を! そうすれば軍や本社に救援を求めれるんです!」


 通信相手が要望を言うと、クエストが更新されて対空砲のコントロールを取り返す、妨害電波の停止と言う二つのクエスト目標がクエストジャーナルに表示される。


 それをみていた視聴者達は一介のパイロットに特殊部隊並みの要望とか無茶すぎるなど突っ込みをいれていた。


「とにかく、詳しい話を聞きたい。一旦そちらに向かってもいいか?」

「でしたらビルの地下駐車場から徒歩でシェルターに行けるルートがありますので、そちらからきてください」


 源三郎が面会を求めると、ゼニス社員と話すと言うクエストオプションが追加された。

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