第94話 お爺ちゃん、新しいストーリークエストを見つける


 翌日の金曜日、いつものように朝食とゴミ出しなど家の用事を終えた源三郎はギャラクシースターオンラインにログインする。


「昨日は思いがけない儲けになったのう………」


 昨日の配信で発見したアノマリーを報告したら、極寒の惑星のアノマリーが医療に役立つことで凄い報酬額になった。

 もう一つの毒ガスの惑星もそれなりの額にはなったが、極寒の惑星の前では月とすっぽん、雲泥の差であった。


「今のうちに研究プロジェクト幾つか投資しておくかのう」


 源三郎は手に入れた大金を惜しげなくカンパニーや惑星開拓に注ぎ込んで、幾つかの研究プロジェクトをアンロックしていく。


「さて、今日も練習しにいくか」


 ある程度投資を終えると、源三郎はテック1

宇宙船【スプライト】に乗り換えてイベント星系にワープする。


「平日の昼でもそこそこ人はいるのう」


 イベント星系に設置されたレースコースを航行する宇宙船達。難所エリアで操縦に失敗した宇宙船が宇宙の藻屑になったりして、死に戻りしては再度挑んで撃沈している。


「まず完走できるだけの参加者が残るか不安じゃの」


 源三郎はそんなことを思いながらレースコースにはいると、安全運転でコース完走を目指す。


 最初の難所であるアステロイドベルト帯では大半の参加者が外回りを選び、操作に自信のあるプレイヤーがアステロイドベルト帯を突っ切ろうとして隕石に激突したり、隕石を避けたが他のプレイヤーとぶつかり口論になったりしている。


「喧嘩するのはいいが、オープンボイスチャットでやるのはやめて欲しいのう………」


 外回りでアステロイドベルト帯を通りすぎる最中もやれぶつかっただの、進路妨害したなどオープンボイスチャットで怒鳴りあってる声が漏れ聞こえてきて源三郎は苦笑する。


「あ、スタッフがきた」


 オープンボイスチャットで罵りあっていたプレイヤーの元にゲーム運営が違反者を捕らえるために派遣する衛兵スタッフの宇宙船がワープアウトしてきて、口論していたプレイヤー達に運営が定めたNGワードを発言した違反行為で監獄サーバーに強制的に船ごとワープされる。


「わしも気を付けんとな」


 衛兵スタッフに連行される間も一部のプレイヤーは相手が悪い、俺は被害者だと主張するが喧嘩両成敗なのか聞く耳持っておらず全員監獄サーバーへと強制的に送られていく。


 一部始終をみていた源三郎は自分もそうならないようにと言い聞かせて、次の難所へと向かう。


「む? 今北産業のハプシエルさん?」


 雷雲と磁気嵐のエリアでなぜか問題なく通過した機体があり、パイロット名前を確認したら源三郎に探索船を売った今北産業カンパニーのハプシエルだった。


「お疲れ様です、ハプシエルさん」

「あらっ! 源ちゃんじゃないの! お久しぶりねぇ、元気だったん?」


 練習を終えてお互いに船を降りたところで源三郎はハプシエルに声をかける。


 声をかけられたハプシエルは最初は怪訝な表情で誰だ?という感じで振り向くが、源三郎の姿を確認するとニカッと笑みを浮かべてくねくねとしなを作って挨拶してくる。


「ええ、こっちでは足腰しっかりしてますし、目もはっきりみえて、ボケてる暇なんてありませんよ」

「ふふ、それはよかったわあ。あ、お孫さんの配信みているわよ。アノマリー頑張ってるじゃないの」

「これはありがとうございます」


 源三郎も笑顔で挨拶を返し、ハプシエルと雑談をする。


「そう言えばハプシエルさん、あの磁気嵐コース問題なく飛んでましたけど、なにかコツとかあるんです?」

「うーん………コツはあるんだけどねぇ………ちょっと教えていいか、カンパニーに聞くわ、待っててくれるかしら?」


源三郎は練習中に見かけたことをハプシエルに聞くと、ハプシエルは困った表情で自分の頬に手を当ててくねくねしながら悩み始める。


「あ、無理にとは言わないんで。レースで有利になりそうなテクニックっぽいですし」

「あ、大会当日まで配信なしで黙っててくれるなら教えてもいいって」


 カンパニーの許可がいるような情報なら無理にとはと源三郎は言うが、その前にカンパニーから許可が貰えたようだった。


「それなら約束します」

「まあ、特別なことじゃないわよん。とある星系のステーションでしか販売されてない避雷針や磁気嵐対策のアーマメントつけただけなの」


 源三郎が黙っておくことに同意すると、ハプシエルは自分の機体ステータスを表示しながらこれよと種を明かす。


「ほう、こんなのがあるのですか」

「そそ、今北産業カンパニーのメンバーで輸送ミッションしてるときにね、こういった雷雲や磁気嵐エリアにも配達しに行ったら、そこで売ってたのよ」


 源三郎はハプシエルの機体ステータスを見つめていると、ハプシエルがいやん、そんなに見つめられたら恥ずかしいわんと頬を赤く染めてくねくねしていた。


「ふーむ………スピードが犠牲になるが、あの難所を安全に進めるのはアドバンテージが大きいのう」

「んもう、つれない人ね」


 源三郎はハプシエルの仕草をスルーしながら顎髭を弄りぶつぶつと呟く。

 ハプシエルはネタをスルーされて寂しそうにハンカチを噛み締めるが、そんなところも素敵と呟いていた。


「ソロモン自由同盟領域のこの座標の星系にあるステーションで売ってるからねん」

「ありがとうございます」

「私と源ちゃんとの仲だから、と・く・べ・つ! ンーマッ!」


 最後にハプシエルはなれた仕草でウィンクと投げキッスをする。

 たまたま近くにいた他のユーザー達はドン引きしているが、源三郎は気にした様子もない。


「それじゃ試合まで時間もないですし、早速買いにいってきます」

「あら、もういくのん? 気をつてねん!」


 源三郎はハプシエルから教えて貰ったアーマメントを買いに早速目的の星系にあるステーションにワープする。


「テック1はやはり安いな」


 ハプシエルに教えて貰ったステーションで避雷針など買いにいくと、限定環境でしか使わないアーマメントだからかとても安い値段で販売されていた。


「ピットインみたいに要所要所で装備をかえれたらいいのにのう。今回のイベントにはちと間に合わんと思うが要望出してみるか」


 源三郎はアーマメントを組み替えながら運営へのメールフォームを開いてピットインの要望を送る。


「さて、まだ彼方達がログインするまですこし時間があるな。ちとこの星系の惑星でもスキャンしていくかの」


 源三郎は暇潰しに星系にある惑星に次々とスキャンをかけていく。


「お、この星は知らないカンパニーが開拓しているな」


 幾つかの惑星をスキャンしていると、交流のないカンパニーが開拓している惑星があった。


「スキャンすると、開拓具合とか見れるのか………発電所と探索基地があるだけか」


 スキャンを完了するとカンパニー側がクローズしていないと開拓状況までわかるシステムになっており、源三郎は開拓状況などをみて、別の惑星へと向かう。


「助けてくれ! わけのわからんロボットにコロニーが襲撃されている!!」

「ぬおっ!?」


 別の惑星をスキャンしたら突然通信が入り、源三郎はコクピットで飛び上がるほど驚く。


「すっ、ストーリークエストか………申し訳ないが、彼方達が来るまで待っててくれんかの」


 通信を聞くとストーリークエストが始まるが、源三郎は彼方達の配信ネタになると思い、要請を保留する。


「取りあえず座標だけ覚えて戻るとするかの」


 ストーリークエストが発生した惑星の座標と名前を記録すると、源三郎は彼方達がログインするまでイベント星系に戻りレースの練習に勤しんだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る