第91話 お爺ちゃん、レースの練習をする。
翌日の木曜日、朝食を終えた源三郎はギャラクシースターオンラインにログインすると、早速レース用の宇宙船を作り始める。
「テック1だからかあっという間にできたな」
源三郎が作ったのはテック1宇宙船の中では安い、早い、脆いで有名なスプライトと呼ばれる四枚の羽をもつ宇宙船。
スピード重視のアーマメントもつけて、速さだけならかなりのものとなった。
「うーむ、テック1設計図の相場がおかしくなっておるのう」
プレイヤー同士のアイテム売買を行うギャラクシーマーケットを覗くと、レースイベント需要に便乗した転売で10倍近い値段がついている。
「おおう、これはある意味詐欺じゃないかのう?」
ギャラクシーマーケットには出品者が出品物にコメントつけられるのだが、市販の設計図を異常な高値をつけてレア物と誤認させるような書き込みをしているのもちらほらと見かける。
「こっちもこっちで盛り上がってるの」
公式の掲示板ではレベルの高い生産系スキルをもった人への代理製造依頼スレッドが出来上がっており、設計図を持っていて、生産家具や惑星開拓で造船所を持っているプレイヤーへの製造注文が殺到している。
「一種のバブルみたいじゃな………レースが終われば一気に暴落しそうなんじゃがなあ………」
源三郎は自分が生まれる前にあったと言われる現実世界のバブル好景気を連想しながらスレッドを閉じる。
「試運転も兼ねて、レース星系にいくとしますかの」
源三郎は自分が作ったスプライトに搭乗して、レース星系にワープする。
「ふむ、そこそこプレイヤーがいるの」
レース星系にワープアウトすると、練習中と思われるテック1宇宙船がちらほらと見かける。
「コース練習希望者ですか?」
「うん? ああ、そうじゃよ」
ワープアウトして、練習中の宇宙船を見ていると星系ステーションから管制NPCの通信が入る。
「それではまずステーション内にてレーサー登録とコース説明を受けてください」
「ふむ」
NPCの管制の指示に従いステーションによる源三郎。
ステーション内部も特設会場仕様で、至るところにレースを観戦できる巨大な空中モニターがあり、練習中の選手と機体が撮されており、ガラス張りの通路には観戦ベンチが大量に設置されていてガラス越しに宇宙船が通りすぎるのを目撃できる。
さらには有料のVIPルームまであり、セレブ気分を味わえるようだった。
「レースのルールをご説明の前にこちらの同意書にサインしてください」
ステーションのレース受付会場で源三郎は選手登録と同意書のサインをして、改めてレースコースやルールの説明をきく。
「コースはこの星系を一周してもらいます。各所にビーコンが設置され、通過されるとタイムが刻まれ、タイムの早い順に決勝戰でのスタート位置が決まります」
ホログラフィックで星系のコースが表示され、どこにビーコンが設置されているか光って教えてくれる。
「大会本選ではこちらから提供する搭載火器で相手を妨害することができます。ただし、最初はロックされております」
「ふむ、ロック解除の条件はなんじゃ?」
「レース各所にリングを設置し、最初に通った選手の火器がアンロックされます。二人目にはリングは反応しません」
先程のホログラフィックのレースマップにリングが所々表示され、シミュレーション用に二機の宇宙船が表示され、最初の宇宙船が通りすぎるとリングの明かりが消えて、後続が通りすぎても反応しない。
それをみた源三郎は昔妻と遊んだ国民的スター達がレースをするゲームを連想していた。
「質問なんじゃが、レースで相手の進路を妨害するのは反則か?」
「レース中に自分の機体で進路を塞ぐなどは許されますが、チャットなどでプレイヤーを脅迫、談合、外部からの進路妨害などは禁止とさせてもらいます。調査の結果、悪質な場合は刑務所エリアで刑期時間過ごしてもらうか、一定期間の凍結、最悪の場合はアカウントのBANもあり得ます」
妨害にたいして源三郎が質問すると、大会スタッフは悪質な場合どうなるか伝える。
「実際にコースで練習してみますか? 練習では武器は使えませんので、御了承ください」
「本選はこの武器が要かもしれんのう」
選手登録を終えた源三郎はまずは低スピードで流してコースを確認する。
最初は真っ直ぐ直線コースで、所々にリングが宇宙空間に浮かんでいる。
「どのリングを狙うかじゃな」
源三郎はイメージトレーニングしながら直線コースを進んでいく。
リングを無視してトップを狙うか、後続を妨害するように先回りしてリングを通るか源三郎は考えながらコースを流していく。
次のコースはアステロイドベルト帯で、ショートカット狙って小惑星を避けながら進んでいくか、タイムロスになるがアステロイドベルト帯の外側を進むか二つのルート選択ができる。
このエリアにもリングがどちらにも設置されている。
「あ!」
源三郎がどっちのコースから攻めるか考えていると、練習していたパイロットの一人が操縦に失敗して小惑星に激突して機体が爆発大破した。
「おーい、大丈夫か? リペアキットあるから復活させようか?」
「あ、死に戻りするんで大丈夫です。お気遣いありがとうございます。テック1宇宙船なんでリペアもったいないです」
ボイスチャットモードで話しかけると、小惑星に激突したパイロットはそういって死に戻りする。
「まずは外回りコースを試してみるか」
源三郎はアステロイドベルト帯を避けて外回りコースを走っていく。
「練習だからか無理するプレイヤーがおおいのう」
アステロイドベルト帯エリアを通り抜ける間、何回か強引にアステロイドベルト帯を抜けようとして失敗して小惑星に激突しているプレイヤー達がちらほらといた。
「これは難所になりそうじゃな」
3つ目のコースエリアは雷雲と磁気嵐が常時発生しており、この中を突っ切らないといけない。
「ぬぐっ!? こっ、これはきつい!!」
磁気嵐で計器や操縦がめちゃくちゃにされて姿勢を保つのにも一苦労する源三郎。
さらに雷雲から放たれた雷が機体に命中するとダメージと衝撃が機体に走り、さらに操縦バランスが崩れる。
同じく練習中の機体が落雷が命中してバランスを崩し、近くを飛行していた別の機体にぶつかるように巻き込んで何処かに飛んでいく。
「なっ………何とか抜け出せたか………」
何とか雷雲と磁気嵐エリアから抜け出せた源三郎はほっと一息ついて額の汗をぬぐう。
最終コースは現在進行形で噴火している活火山の惑星地表を飛行するコース。北極地点から降下し、南極地点のゴールを目指す。
「運営は誰も優勝させない気か?」
大気圏を突き抜けて惑星上空にたどり着くと、地表のほとんどがマグマに覆われ、活発に噴火して、吹き上げられた石が飛んでくる。
この惑星では高度が指定されており、指定高度を越えた時間分、クリアタイムに加算されてしまう。
逆をいえば高度さえ守ればルートは自由なので、ここではコース選びが重要視されるかもしれないと源三郎は感じた。
「ふむ………このコースが比較的安全か?」
高度を守りながら火山惑星を飛行する源三郎。
マグマの噴き上げを避けたり、噴火による地震で山が崩れてルートが変動したりしながらも、自分のベストルートを探しだし、なんとかゴールに到着する。
「あ………」
「ぬわーっ!?」
先程アステロイドベルト帯で小惑星に激突して爆発した機体が修理を終えてレースに戻ってきたが、機体高度を上げすぎてペナルティの警告を受けて慌てて高度を下げてすぎたのか、垂直にマグマに突っ込んでいった。
「………そう言えば、レース中に機体が大破したらどうなるんじゃ? 失格か?」
マグマに突っ込んでいった機体を見て源三郎は疑問に思い、ステーションに戻ると大会運営のNPCに大破したらどうなるか質問する。
「タイムが大幅に加算されてしまいますが、その場で機体を復活させることが可能です。またそこでリタイアを選択することも可能です」
「ふむ………一応救済処置があるのか」
大会運営のNPCから機体大破後の処理について回答を貰うと源三郎は納得し、彼方達がログインする時間帯まで練習を続けた。
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