第89話 お爺ちゃん、叫ぶ


「さて、ソロモン自由同盟領域で受けられるTR4のアノマリー探索ミッションでイレイザー関連のアノマリーが発生すると聞いて受けてみました」

「これから一発目のアノマリー反応があった場所に向かいたいと思います」


 彼方とノエルが今回の目的を配信視聴者に向かって告知して、源三郎達はソロモン自由同盟領域のアノマリー反応がある場所にワープする。


「ここは………アステロイドベルト帯か」

「イレイザーじゃなくてアダマンティン鉱床かな?」


 目的の座標にワープアウトすると、そこは無数の小惑星が乱立するアステロイドベルト帯だった。


「まあ、アダマンティン鉱床だったらわしらには特じゃな」

「そうだね、研究プロジェクトアンロックしたから専用の採掘船持ってこなくても掘れるし」

「取りあえずスキャンしていこうよ」

「敵が出たら彼方のお爺ちゃんお願いね。私達探索特化船だからほとんど戦えない」

「うむ、任せておけ」


 彼方達は周辺をスキャンしながらアステロイドベルト帯を進んでいく。


「むう………ここは結構良い資源エリアじゃな」

「掘りたい気持ちはわかるけど、まずアノマリーが先だからね」

「わかっておるて」


 あちらこちらをスキャンしていくと、目的のアノマリーはまだ発見できないが、結構な割合で埋蔵量の高い鉱床を含んだ資源小惑星を数多く発見し、源三郎は目移りする。

 そんな源三郎に彼方は本来の目的であるアノマリーの発見を優先するように注意を促す。


「うーん、TR4のアノマリーだからかなかなか見

つからないね」

「何時もなら5分以内には見つかるんですけどね」


 彼方と鈴鹿が会話するようにTR4のアノマリー探索は難航していた。

 探索中は無言にならないように仲間内で雑談したり、視聴者のコメントを読んで中弛みしないように勤めているが、10分近く経っても目的であるアノマリーが見つからない。


「探索船もテック4が必要かなあ?」

「それかカンパニーの研究プロジェクトでスキャニング系をアンロックしていく?」

「あっ! アノマリー見つけました! あの大きな小惑星からです」


 なかなか見つからず、視聴者達もたるみ始めた頃に鈴鹿がついにアノマリー反応を特定する。


「あー………アダマンティン系かな?」

「取りあえずあの小惑星に向かってスキャン───敵反応!!」

「結晶生命体の巣かっ!!」


 ノエルがアノマリー反応がある小惑星にスキャンをかけると同時に、小惑星から無数の結晶生命体が飛び出してくる。


「私達レーザーしか搭載してないから、お爺ちゃん戦闘お願い!」

「わかった! 彼方達は下がれ!!」


 結晶生命体はレーザーを跳ね返す能力を持っている為、最低限のレーザー兵器しか積んでいない彼方達は戦力外になる。


「あ、お爺ちゃん! あのモードで戦ってね!」

「ぬぐっ!? ど、どうしても?」

「うん、どうしても!」

「だって、お披露目のチャンスじゃん!」

「はい、楽しみです!」


 彼方達が後方へ下がる途中、あのモードでと言うワードを言われて戸惑う源三郎。

 ノエルや鈴鹿だけでなく、視聴者達も期待するようなコメントが次々と書き込まれて、源三郎に期待と言う名のプレッシャーを与える。


「ぬう………仕方ない」


 源三郎は諦めたように一度ため息を吐くと、大きく息を吸う。


「聞けっ! そして刮目せよ! 大いなる善の牙よっ、今こそその力を示し現す時なりっ! チェエエエエンジ! 大善牙ァァァァーッ!!」


 唐突に源三郎が叫んだかと思うと、源三郎が操縦するテック4グラップラーシップ【大善牙】が変形していき、背中に二刀の大太刀を背負った大鎧を着た武者のような人型ロボットに変形する。


 そして変形が完了すると配信用の撮影ドローンの前でロボットアニメの主人公機のようなポーズをとった。


 コメント欄では「ロボットキターーッ!」と言うコメントの滝が流れていき、スパチャが投げ込まれていく。


 そんな中、「いちいち叫ばなくてもよくね?」とか「その歳で中二病はちょっとひく」と言うコメントもあった。


「わしかてこんな恥ずかしいセリフ叫びたくないわい! システムで初回は音声入力しないとシステムロックが解除されんのじゃよ!!」


 顔を真っ赤にして逆ギレ気味に叫ぶ源三郎は、グラップラーシップのステータス画面を視聴者達にも見えるようにカメラに表示する。


 ステータス画面にははっきりと以下のセリフを叫ばないと変形、攻撃機能はアンロックされませんと明記されており、配信コメント欄では「wwww」や「草生え過ぎて森なる」とか、「運営悪ふざけ過ぎワロタw」、画面の向こうで笑いすぎてキーボードの手元が狂ったのか、意味不明の文字化けしたような書き込みなどが流れる。


「大いなる善の牙の力、特と味わえ! 火具矢!!」


 源三郎が叫ぶと、大善牙の背中に背負った二振りの大太刀が変形して巨大な和弓になり、矢をつがえて打ち放たれる。

 大善牙から放たれた矢は炎を纏い、次々と結晶生命体を打ち砕いていく。


 結晶生命体も反撃とばかりに結晶のミサイルを打ち出していく。


「斬っ!!」


 和弓が元の二振りの大太刀に戻ると、大善牙は二刀流のように両の手に持ち、迫り来る結晶のミサイルを大太刀で切り払い、逆にブースターを吹かして距離を詰めて結晶生命体を切り裂いていく。


「さすがテック4、強いね」

「個人的に一人だけゲームが違う気がするけど」


 源三郎の戦闘をみていた彼方とノエルが感想を呟くと、配信の視聴者達も「それな!」とか「同じテック4船持ってますけどあそこまで強くないです」とか、「強くてもいちいち叫ばないといけないのはちょっと」と言うコメントが書き込まれていく。


「あっ! ボスみたいなのがきた!」

「結晶で出来た龍?」


 源三郎が操縦する大善牙が次々と結晶生命体を次々と倒していくと、アノマリー反応があった小惑星から東洋の龍の形をした結晶生命体が飛び出して来る。


「ギャオオオオ!!」


 結晶の龍は雄叫びをあげると、口からレーザーをブレスのように吐き出す。


「なんのっ!」


 源三郎は大善牙の肩シールドでもある大袖で、結晶の龍が放ったレーザーブレスを受け止める。


「ふんっ!!」


 源三郎はまた大太刀を和弓に変形させて、結晶の龍に向かって矢を放ち、矢が命中した箇所が破裂して結晶が削られていく。


「あ、二回目からは叫ばないんだ」

「うーん、叫んでほしいですねえ」

「叫ぶの恥ずかしがってたもんね」


 完全に観戦実況モードポジションになった彼方達は源三郎がもう技名を叫ばないことを寂しがる。


 コメント欄では「もっと叫んでよ」と言う意見ももあれば、「許してあげようよ」と同情する意見も書き込まれていく。


「ゆくぞ! 乾坤一刀!!」


 源三郎が叫ぶと、二振りの大太刀が合体して、刀身がUの字の形をした剣になる。


「チェェエエストオオオ!!」


 大善牙は剣を霞の構えに持つと、背面にあるブースターやアフターバーナーを吹かして全速力で結晶の龍に突撃し、龍の胴体に剣を突き刺す。


「壊っ!!」


 源三郎の掛け声と同時に結晶の龍の胴体に突き刺さっていた剣がバカンと駆動音を立ててTの字に変形して結晶の龍の腹を切り裂いていく。


「ギャオオオオンン!!」


 その一撃が致命傷となったのか、結晶の龍は断末魔を上げて目の光が消えて動かなくなる。


「ふう………敵はこれで全部のようじゃな」

「お爺ちゃんおつかれー!」

「彼方のお爺さん、お疲れ様です」

「攻撃するときはチェストとか叫んでるのに、技名叫ぶのは何で恥ずかしいんだろう?」


 戦闘が終了したのを確認して、彼方と鈴鹿が労いの言葉を源三郎にかける。

 そんな中、ノエルがボソリと呟き、ノエルの呟きが聞こえた視聴者達は「しー!」と空気を読んだコメントを書き込んでいた。


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