第86話 お爺ちゃん、住民失踪事件の真実を知る。


「あんたがSOS信号出したのか」

「知らない。怪物がくる。ここには誰もいない。俺は隠れなきゃ!」


 源三郎が声をかけるが、青年は錯乱しているのか一心不乱にキーボードをいじっている。


「うーむ錯乱しておるのう………どうしたものか」

「えい!」


 源三郎が錯乱している青年の処置に困っていると、彼方がコンセントを引っこ抜いて機械を強制的にシャットダウンさせる。


 配信のコメント欄ではIT関係の仕事をしていると思われる視聴者達の絶叫や阿鼻叫喚なコメントが書き込まれて混沌としていた。


「え? あ? せっ、生存者か!? 俺以外にも助かったやつがいたのか!」

「いや、SOS信号を受けてきたフリーパイロットじゃ」


 強制的に電源を抜かれて青年は初めて源三郎達に気付き振り向く。


「頼む! 俺を船にのせてこの星から出してくれ! あの怪物が戻ってこないうちに!!」


 青年はまた錯乱したように源三郎達に抱きつき、星からの脱出を求める。


「落ち着け、怪物とはなんじゃ? ここでいったい何があったんじゃ?」

「口で言うより………あ、あんた、またコンセントを刺してくれ」

「あ、うん」


 彼方がコンセントをさして電源を復旧させると、生存者の青年はコンソールを操作してモニター画面に映像を映す。


「これは監視カメラの映像かの?」

「え、何あれ………」


 生存者の青年が再生した映像はこの居住基地で起きた事件を赤裸々に捉えていた。


 夕食時の居住エリアで空を見上げ指を指してたり、家の中にいた住人を呼び出したりしている。そして次のシーンでは画面を埋め尽く液体金属のスライムから逃げ惑う住民を襲っている。


「まって! 今の画面戻して、スローで再生して!」


 彼方が何かに気づいたのか、指をさして叫ぶ。


「イレイザー………か?」


 巻き戻した画面には液体金属のスライムを連れ歩く惑星ユトーで戦った機械生命体のイレイザー達の姿か映っていた。


「イレイザー!? あれ、全滅したんじゃ?」

「正確にはある日姿を消しただけですよ、彼方さん」

 

 彼方と鈴鹿ぎそんな話をしている間も映像は流れ続けており、液体金属のスライムの群れが住人を飲み込み、吐き出す。液体金属のスライムから吐き出された住人は、まるで凍結したか時間が停止したように固まって動かなくなる。


「皆あの液体金属のスライムにやられて、変な箱に入れられて連れていかれた」


 生存者の青年はガタガタ震えながら呟く。

 生存者の青年が言うように、イレイザー達は硬直した住人達を浮遊する機械の容器に乱雑に詰め込んでいくと、自分達が乗ってきたと思われる船に連れて搬送していく。


「あれがイレイザーの船?」

「大きすぎない?」


 イレイザーの母船は一言で言えば連邦の宇宙ステーションサイズの昆虫を模した宇宙船。


「この液体金属のスライムは厄介じゃな………」

「応戦している人もいるけど、ダメージないっぽいよね?」


 監視カメラの映像では拠点の警備兵と思われる団体が液体金属のスライムやイレイザーと交戦しているが、蟻と象ぐらいの戦力差があるのか人類側の攻撃がイレイザーやスライムには効いておらず、逆にスライムに飲み込まれて動きを封じられて連れていかれる。


「あれ? ちょっとまって! イレイザーって有機生命体の抹殺が目的だよね? 今回誰も殺してなくない?」

「確かに、映像では麻痺かなにかで無力にしているだけで、死体も怪我人もいないぞ」

「イレイザーじゃないとか?」


 ノエルが誰も殺されてないことを指摘し、源三郎達は困惑する。


「人類を無力化して浚う必要があったとか?」

「何のためにでしょうか?」

「うーん………流石にわからないなあ」

「サイブリック側の情報がもっとあればわかったかも?」


 彼方達は人が浚われた理由を考えるが、答えはでない。


「とにかく怪物達は飛び去ったが、またここに戻ってこないとも言えない! 早く俺を保護してくれ!!」

「ここでわしらが考えても仕方ないし、クエスト目標が生存者をソロモン自由同盟のステーションに連れていくことじゃ。保護すればまた動きもあるじゃろうて」

「俺は情報を持ってる! あの機械や金属液体の怪物を調べた! これをやるから保護してくれ!!」


 青年は恐怖でまた錯乱し始めたのか口の端しに泡を溜め込みながら叫び出す。


「ここで得られるのはこれぐらいじゃろうて、報告のために最寄りのソロモン自由同盟ステーションに向かうぞ」


 源三郎達は生存者を乗せて最寄りのソロモン自由同盟領域の星系にワープする。


「保護してくれてありがとう! 各地で似た事件が起きて困っていたんだ」

「似た事件ですか?」

「詳しい件数は言えないが、居住基地の住民が神隠しにあったように消える事件の報告がちらほらとね」


 ソロモン自由同盟のステーションに生存者を引き渡して、2~3質問に答えるとクエストが終了し、クエスト報告を受けたソロモン自由同盟側の兵士がそんなことを言う。


「イレイザーの件はどうなるんだろうね?」

「それは上の議員さん達次第かな。これまでは海賊に奴隷として連れ去られたんじゃないかぐらいだったからね。いきなりエイリアンが犯人ですと言っても………」


 彼方が呟くと、それが聞こえたのかNPCのソロモン兵が自分の見解を述べる。


「今後そのイレイザーの情報が手に入ったら報告してくれ。情報の制度と量によっては上も何か対策を考えるだろう」


 NPCのソロモン兵士のその一言で今回のストーリークエストは終了し、報酬が支払われる。


「なんだろう、メインクエストっぽいよね?」

「これがサブクエストだったら、メインはどれだけ壮大になるやら」

「今後はイレイザーに関するアノマリー情報はソロモンに渡した方がよろしいのでしょうか?」


 ストーリークエストが終了して、彼方達は今回のクエストの考察を視聴者達と雑談を交えながら始める。


「取りあえず、イレイザー関連のストーリークエストとかあったら情報ください」

「私達自身も色々調べてわかったら皆様に報告致します」


 彼方と鈴鹿が配信視聴者達にイレイザー関連のストーリークエストの情報提供を求めると、どこそこでこういうイベントがあったとか、アノマリー探索ミッションでまだ源三郎達が発見していないイレイザー関連のクエストや情報が書き込まれていく。


「まだ私達が知らない情報がいっぱいあるね」

「イベント内容は同じなのに、発生場所はランダムっぽいね」


 視聴者達が報告してくるイレイザー関連の情報、彼方達が指摘するように同じ内容でも、連邦領域やソロモン自由同盟領域の別々星系で起きていると報告し合いお互いに驚いたりしている。


「さて、そろそろ言い時間なので、本日の配信はここまで! 本日も長い間の配信御視聴、お付き合いありがとうございます!」

「なんかメインストーリーっぽいクエストやイレイザーとか色々SFチックな情報がいっぱいだったね! この配信が面白いと思った人はチャンネル登録と高評価宜しくお願いしまーす!」

「それでは皆様ごきげんよう、よい夜をお過ごしください」


 ちょうどよい時間にストーリークエストが終わったので、彼方達は配信の締めの挨拶に入り、スパチャをしてくれた視聴者達にお礼の挨拶やコメントを読み上げたり返したりする。


「明日は定期メンテナンスだから、皆ログイン時間には気をつけてね」

「今度は新しいガチャとかくるかな?」

「それではおやすみなさいませ」


 最後に明日水曜日はギャラクシースターオンラインの定期メンテナンスがあることを視聴者達に伝え彼方達はログアウトしていく。


「さて、ワシも落ちるか」


 彼方達がログアウトしたのを確認すると源三郎もログアウトした。

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