第78話 お爺ちゃん、二回目の大規模戦闘に参加する。その5


 怪獣のような巨大カブトムシがその姿を表すと、システムメッセージと時間が採掘プラントの空に表示される。


「フェーズ3は時間内耐えればいいのか」

「オプションクエストとしてあのラグネっていう巨大カブトムシ討伐があるけど………」

「うーん、無理かな?」

「倒せたらラッキーレベルですよね………」


 システムメッセージには3分間耐えるかラグネを倒せと表示されて、オプションクエストがラグネを倒せとあるが、源三郎達はちらりと巨大カブトムシのラグネを見て無理だと首を横にふる。


「皆さん、最終フェーズです! 無理に討伐せずに時間まで耐えましょう!!」


 ウォーモンガーカンパニーのアドンも討伐は目指さずタイムリミットクリアを目標にする。


「フェーズ3はあのラグネだけのようです。全員集まって戦いましょう!!」


 フェーズ3は巨大カブトムシのラグネだけしかおらず、アドンは集中攻撃で防衛することを提案し、源三郎達は集合する。


「まずは迫撃砲用意! 発射!!」


 まだ距離があるのでウォーモンガーカンパニーが設置した迫撃砲で攻撃を行う。


「的がでかいから当たりやすいのう」

「問題はダメージが入ってるのかわからないことかな」


 迫撃砲の榴弾は次々とラグネに命中するが、進行速度は衰えることはなく、ラグネのヒットポイントバーも減っているのか目視ではわからなかった。


「重火器を用意したので皆さん使ってください」

「戦闘車両用意しました!」


 迫撃砲で迎撃している間にウォーモンガーカンパニーが今回のために用意した重火器や戦闘車両をかき集めて提供してくれる。


「ラグネ、地雷ライン到達!」

「まさしく焼け石に水じゃなあ」


 その背中に迫撃砲の榴弾を受けながら侵攻する巨大カブトムシのラグネ。

 地雷源に到達して作動した地雷が爆発するが、やっとヒットポイントバーがほんの少し減少したのが確認できた程度だった。


「ミサイルやロケットランチャーで攻撃します! 全員全弾うち尽くすつもりでお願いします」


 射程距離の長いミサイルランチャーなどで迎撃を始める各カンパニーの面々。


「やっと足を止めてくれたぞ!」


 その巨体のおかげでろくに狙いをつけなくても撃てば当たるのを幸いに連射を優先して攻撃を続ける大規模戦闘参加者達。

 かなりダメージを与えたのか、ラグネは足を止める。


「なんだ?」

「何かやろうとしているね」

「とにかく攻撃を続けろ!!」


 ラグネは体を震わせて、ゆっくりと上翅を展開し下翅を震わせる。


「おいおい、あの巨体で空を飛ぶのか?」

「いや違う! 中脚が変な動きをしているぞ!!」


 翅を震わせたことでカンパニーの面々は空を飛ぶのかと警戒するが、今北産業カンパニーのオミナが指摘するように、ラグネの中脚が180度回転してショルダーキャノン砲のような形になり、中脚の先端に光の粒子が凝縮されていく。

「やばっ!」

「全員戦闘車両を盾にっ!!」


 中脚の先端が源三郎達大規模戦闘参加者に向けられると、戦闘用車両に搭乗したメンバーが盾になるように前に出る。


 それと同時にラグネの中脚からレーザーが照射され、盾になった戦闘用車両のバリアを破壊し、アーマーヒットポイントをごっそり奪う。


「難易度おかしくねえかっ!」

「戦闘用車両とか前提の難易度だな、こりゃ!」

「修理お願いします!!」


何とかラグネのレーザーを耐えしのいだがかなりのダメージを受けて戦闘用車両を操縦していたパイロット達が叫ぶ。


「ラグネの様子がおかしいぞ?」

「触覚の先端にコアみたいなの見えね?」


 レーザーを撃ちきったラグネは息切れしたように大きく震え、ぐったりとする。

 同時に触覚も萎びたように垂れて先端からはフェーズ1で源三郎達が戦った巨大蟻地獄のようなコアが鼓動し点滅していた。


「総員! あのコアに全力攻撃!!」

「よっしゃあっ!!」


 ウォーモンガーカンパニーのアドンの号令と共に大規模戦闘に参加した面々がラグネのコアを攻撃する。


 各自の戦闘車両からはミサイルやキャノン、機関砲などオーバーヒート限界まで撃ち続け、歩兵ポジションの面々もその手にもった武器で攻撃を行う。


「ギィィィインンン!!」

「効いてるぞ!」


 触覚の先端にあるコアが本当に弱点だったようで、迫撃砲ではミリ単位でしか減らなかったラグネのヒットポイントも削れていく。


「コアがっ!?」

「復活したか!?」

「またレーザー撃つつもりか!?」


 息切れしていたように倒れて動かなかったラグネは息を吹き返したように体勢を整えてまた中翅を震わせる。


「戦闘車両に隠れろっ!」

「これ耐えれるか?」

「耐えれなきゃゲームオーバーだよ!!」

「隠れながらでもリペアキット使えるなら使ってくれ!!」


 ラグネのレーザー攻撃を警戒して戦闘車両の後ろに隠れる大規模戦闘参加者達。


 だが、ラグネはレーザーを撃つ様子はなく、勢いよく中脚をぐるんと半回転させて勢いをつけると跳躍して滑空する。


「んげっ! あいつエネルギージェネレーターに組み付いてエネルギー吸ってるぞ!」

「おいおいおいっ! ヒットポイント回復とかやメロよっ!!」

「撃ち落とせ!!」


 ラグネはエネルギージェネレーターのひとつに組つくと、虫が花の蜜を吸うように、エネルギーをすいとりヒットポイントを回復しようとする。


 大規模戦闘参加者達はヒットポイントを回復させてたまるかと、ラグネの背中に攻撃する。

 次々とラグネの背中で爆発が起こり、ラグネのヒットポイントバーが増減する。


「今北産業カンパニー側のエネルギージェネレーターが破壊されました!」


 大規模戦闘参加者達の攻撃を受けながらもラグネはエネルギージェネレーターからエネルギーを吸いとるのを止める様子はなく、ついにはエネルギーを吸いとったのかジェネレーターがラグネの重さに耐えきれず倒壊する。


 エネルギージェネレーターが倒壊する最中、ラグネは下翅を羽ばたかせて、空中でホバリングしながら狙いを定めるようにゆらゆらと揺れる。


「ヤバっ! あれ絶対突撃してくるから、全員赤いラインから離れろーーっ!!」


 ラグネがホバリングしていると、ラグネの足元からこちらに向かって太く長い赤い線が表示される。


 どういう攻撃か予測したアドンが叫び、大規模戦闘参加者は蜘蛛の子を散らしたように散会するが、一部移動力の低い戦闘車両は回避が間に合わず、ラグネの突撃を受けてしまう。

 さらにラグネの突進の勢いは衰えず、フリージアカンパニー側にあったエネルギージェネレーターに激突し、エネルギージェネレーターのヒットポイントがごっそり減ってしまう。


「ウォーモンガー、たかやん機大破!」

「ごめーん、今北産業、YT機大破しちゃった!」


 突撃を受けて大破したプレイヤーがチャットルームで報告しながら大破した戦闘用車両から抜け出して、歩兵として戦線に戻っていく。


「残り時間は?」

「あと1分半!」

「あと少しです! 何とか耐えてください!!」

「まだそんなに時間たってなかったのか!?」


 残り時間が報告されて、まだそんなに時間がたっていないことに驚く源三郎。


 ラグネは頭を源三郎達に向けると、頭角の先端からはレーザーシャワーを放つ。


「ぬおおおっ!?」

「きゃあああっ!!」

「グワーッ!!」


 四方八方から降り注ぐレーザーに悲鳴をあげる源三郎達。


「フリージアカンパニー側のエネルギージェネレーター大破!」

「今のレーザーシャワーでやられたか!」

「残り30秒!!」

「死守しろ!!」


 2つ目のエネルギージェネレーターもラグネによって破壊され、残り1つとなった。

 同時にチャットルームから残り時間が叫ばれ、源三郎達が最後のエネルギージェネレーターを守るように陣形を整える。


「ミサイル全部もってけーっ!!」


 かなりダメージを受けて機体のあちこちからスパークが発生している多脚戦車【ヴァルム】からミサイルが放たれ、ラグネのあちこちに命中して爆発を起こす。


「残り20秒!」

「こうなりゃ自棄だ! 神風特攻じゃーい!!」


 地が出たのか、野太い声で叫ぶハプシエルは身体中に爆薬を巻き付けてラグネに組つくと自爆する。


「残り10秒!!」

「うおおおおっ!!」


 何度も死に戻りしながらラグネに攻撃を仕掛けたり、ラグネの攻撃を受けながらもリペアキットで必死に最後のエネルギージェネレーターを修理して死守する面々。


「上空から多数の熱源反応!」

「ここで増援!?」

「いや………あれは、ソロモン自由同盟だっ!!」


 カウントダウンが0になったかと思うと、上空から雲を裂いて現れたのは無数のソロモン自由同盟の軍艦。


「救援要請を受けてきました! 全員その場から離れてください!!」


 軍艦から響く警告音声と、軍艦の砲塔に充填されていくエネルギー。


 大規模戦闘エリアにいた源三郎達は強制的に戦闘が終了し、イベントムービーモードに移行する。


「惑星民の避難を確認!」

「よし、撃ち方始めっ!!」


 軍艦の艦橋でソロモン自由同盟軍の兵士達が慌ただしく動き回り、艦長と思われる人物が叫ぶと、戦艦から無数のエネルギー砲がラグネに降り注ぐ。


 さすがにラグネも戦艦の攻撃には耐えられず、エネルギー砲の中に消えていき、大規模戦闘終了のシステムメッセージが表示された。


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