第65話 お爺ちゃん、ハウジングルームを紹介する
「それじゃあ、次は私の部屋を紹介するね」
彼方のハウジングルームの紹介をあらかた終えると、次はノエルがハウジングルームの紹介を名乗り出る。
「じゃーん! ここが私のハウジングルームでーす!」
ノエルの案内でやってきたハウジングルームは一言でいえば童話の国のお城だった。
カートゥーン調の森に囲まれた城のような内装で、キノコのテーブルや椅子、トランプの兵隊や縫いぐるみのメイドなどが城を巡回している。
「あれ? こんな家具あった?」
「これは課金アイテム。AI搭載である程度部屋のテーマに沿った動きをするよ。一体150円で纏めて買うと1000円」
彼方は動き回るトランプの兵隊などを指差してノエルに質問する。
ノエルが言うにはステーションマーケットなどで販売されてるものではなく、課金アイテムだと言う。
「因みにベンダー家具置いたら店員として使えるよ」
ノエルが指差す方向にはカウンターの前で待機する縫いぐるみの店員がいて、近づくといらっしゃいませと応対し、ベンダーにアクセスすると商品一覧が表示される。
「ベンダー家具? そんなのあった?」
「ありましたけど、売れるようなアイテム商品など持ってなかったので私はスルーしました」
彼方は縫いぐるみの店員を指差しながらベンダー家具について聞くと、鈴鹿がステーションマーケットで販売されていたと答える。
「でもプレイヤー同士売買できるギャラクシーマーケットがあるのにベンダー?」
「そこは雰囲気重視で。隠れ店みたいな感じでさ」
「スモールルームを借りてお店風に内装飾るのもありですね」
彼方達はそんな話をしながらノエルのハウジングルームをみて回る。
「ここは美術館?」
「ステーションマーケットで買えた美術品とか絵画を飾ってるよ」
ノエルが案内したのは美術館と書かれたネームプレートがドアに貼られた部屋。
美術館の室内は広く、宇宙船やステーションの模型、壺やブロンズ像などが飾られている。
「あと課金アイテムで取り込んだ画像を転写して飾れるキャンバスもあるよ」
「これ全部ノエルが書いたイラストじゃん」
ノエルが次に紹介したのは課金アイテムのキャンバス。
飾っているキャンバスには風景画や人物画、アニメ調のイラストなどが描かれていた。
「ほー、上手いもんじゃな」
「えへへ」
「ノエルはイラストレーター目指してるから上手いんだよ」
源三郎は一点一点作品を見て回り感想を述べると、友達を自慢するように彼方が胸を張る。
配信視聴者からも上手いと好意的なコメントが寄せられていた。
「庭には檻があるがなにもいないのう?」
「それね、クローンデザイナーっていう異星生物のDNAからクローン作るスキルがあってね、それでいろんな星の生物の動物園を作るつもりなの」
庭に出ると源三郎が指摘するように中にはなにもいない大小様々なサイズの檻だけが設置されており、ノエルはブレスレットを弄ってクローンデザイナースキルを表示しながら自分が練ってる構想を伝える。
「まさにメルヘンじゃのう」
「また完成したら皆に紹介したいな」
「その時はまた配信でお知らせしよう」
「それでは次は私のハウジングルームへ皆様をご招待致します」
ノエルのハウジングルームの紹介が終わると、次は鈴鹿が自分のハウジングルームへ案内する。
「ようこそ皆様、歓迎致します」
「おお、ここもなかなか」
「すごーい、お爺ちゃんと一緒に見ていた時代劇の家みたーい!」
「ああ、それ私も思った」
鈴鹿の案内でやってきたのは武家屋敷風な日本家屋。
全体的に和のテイストの調度品で飾られていて、部屋は襖で仕切られている。
「鈴鹿さんの着物姿と相まっていい雰囲気じゃのう」
「ありがとうございます」
鈴鹿は着物のアバター衣装で佇んでおり、日本家屋とマッチして絵になっていた。
配信視聴者も海外の人と思われる人が撫子とスパチャしながら連呼している。
「茶室もあるのか」
「はい、それっぽい家具アイテムがありましたので」
鈴鹿の案内でハウジングルームを見て回ると部屋の一室が茶室風になっており、部屋の中央には囲炉裏や茶釜など茶道に使う調度品と掛け軸や座布団が設置されていた。
「あ、檜のお風呂!」
次に案内されたのは浴室。部屋いっぱいの大浴場になっており、かけ流しでお湯が注がれている。
「へー、こんな家具もあったんだ?」
「これはギャラクシーマーケットで購入したんです」
「まだ私達が知らない家具とかありそうだね」
「言っておくが、入浴シーンはないからな! 仮にあったとしてもわしの入浴シーンのみじゃ!」
浴場を紹介すると一部の視聴者が温泉番組みたいに入浴シーンを求めるコメントを書き込んでくるが、源三郎がカメラにドアップして注意する。
源三郎の入浴シーンのみと言うと希みが絶たれたと絶望する視聴者達の阿鼻叫喚のコメントが書き込まれていく。
ただ、そんなコメントに挟むように「それはそれであり」とか「ウホッ!」と謎のコメントを差し込む視聴者もいた。
「気を取り直してお庭を見て貰えますか?」
そんなコメントを見た鈴鹿が苦笑しながら庭に案内する。
「おー! お寺とかで見るやつ!」
「なんていうんだっけ? 俺参上?」
「枯山水な」
鈴鹿が案内してくれた庭は日本庭園のような枯山水が描かれ、竹林の向こうから富士山を見上げることができる。
縁側に座って庭を見つめながらノエルのボケに源三郎がツッコミを入れる。
「さて、最後はわしのハウジングルームじゃが………本当に需要あるのか?」
源三郎が不安そうに呟くと、見てみたいと言う視聴者コメントが多数書き込まれる。
「まあ、見てがっかりしないでくれるとうれしいのう………」
そう言って源三郎は彼方達を自分のハウジングルームへ招待する。
「うわー、海外ドラマで見た貴族の家だ」
「ひゃっ!? いきなりメッセージウィンドが!?」
「ああ、絨毯の下にウェルカムマットをおいたんじゃ。踏むとそうやってメッセージボードが表示される」
ウェルカムマットを踏んだノエルが目の前に現れたメッセージボードに驚く。
源三郎は種明かししながら床に敷かれたペルシャ絨毯を一度撤去し、その下に隠れていたウェルカムマットを見せる。
「おー、そういうやり方もあるんだぁ~」
「このウェルカムマット、ルームに合わないと思ってスルーしたけど、こんなやり方あったんだ」
絨毯の下にウェルカムマットを敷いて隠すと言うやり方に感心する彼方達と視聴者達。
「さて、改めて案内しよう」
源三郎はそう言って自分のハウジングルームを案内し、各部屋のテーマを説明する。
「ルームテーマと源三郎さんの服装マッチしていて雰囲気ありますね」
「執事服も似合いそう」
「モノクルははずせないね」
彼方達は解説する源三郎をみてぼそぼそと話し合う。
執事服に関しては視聴者達もアリだとコメントしており、中には運営に実装のメールしに行った人もいた。
「ここは音楽ルームで、自分で楽器演奏したり、ダウンロードした音楽を演奏できるぞ」
「彼方のお爺さんは楽器演奏できるのですか?」
「昔バンドに憧れてブルースハーモニカとスチールギターを学んだぐらいかのう」
「お爺ちゃん、何か演奏できるならやってよ」
「むう………下手でも文句は言わないでくれよ」
鈴鹿から楽器演奏の有無を聞かれた源三郎が自分の経験をはなすと、孫娘の彼方からねだられてブルースハーモニカとスチールギターを取り出す。
軽くチューニングしたり、演奏方法を思い出すように鳴らしてみたりしたあと、源三郎は思春期の少年達が死体を探して線路を進みながら冒険に出る古い映画の主題歌を演奏する。
「うわぁ………彼方のお爺さん芸達者だね」
「流石にこれは私も知らなかった………」
源三郎の演奏を聞いていたノエルが呟くと、彼方は驚いた声で答える。
「こんなもんじゃな」
「すごい上手ですよ!」
「ほらみて、お爺ちゃんの演奏にスパチャしてる人いっぱいいるよ」
「ここまで演奏が上手いとは思わなかった」
源三郎が演奏をおえると、彼方達は拍手し、配信視聴者達も拍手を表す8の数字を連投したり、スパチャして称賛する。
「いやはや、照れるのう………」
そこまでウケるとは思っていなかった源三郎は気恥ずかしそうに背中を向けて頭を掻く。
「あー、ごほん。とりあえず、残りの部屋も紹介するぞい」
照れ隠し気味に源三郎は咳払いして残りの部屋を紹介していった。
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