第58話 お爺ちゃん、密輸とハウジングに手をつける
「お、ヘカトンケイルが直っておるの」
翌日日曜日、朝食を済ました源三郎はギャラクシースターオンラインにログインすると、早速昨日の大規模戦闘で撃沈したヘカトンケイルの修理が終わっているか確認する。
「今日は密輸をやってみるかの」
定期メンテナンスで密輸関連のバグが修正されたので、試してみることにした。
源三郎が最初に訪れたのはバベルステーション下層の表向きは閉鎖された採掘搬入エリア。
入り口の見張りにブレスレットを見せて中に入る。
「ふーむ、マーロンにこれとこれと……ん? これ密輸以外にも使えそうじゃのう」
源三郎が購入したのはスキャニングジャマーと密輸用隠しコンテナ、密輸品が見つかった際形振り構わず強引にランダムワープして逃げる装置。
特に強制ランダムワープは密輸だけでなく、普通に輸送中に海賊やPKの襲撃を受けた際に逃げるのにも使えそうだと源三郎は思った。
「ほう、それなりに使えそうな船を持っているな。仕事が欲しいならあのバーテンダーと話な」
密輸用のアーマメントを装備した源三郎はアフターライフの密輸NPCに会いに行く。
前回と同じく船のデータを見せればバーカウンターにいるバーテンダーのNPCを紹介するので、源三郎はバーテンダーの元へ向かう。
「特別なカクテルが欲しいのか? このメニューから選びな」
源三郎がバーテンダーに話しかけると、ホログラムのメニュー表を渡してくる。
「雰囲気あるのう………」
メニューにはカクテルのような名前が書かれているが、カクテル名をタッチするとミッション内容が表記される。
「全体的に報酬が高いな」
TR1の密輸ミッションでも報酬は最低100万クレジットももらえる。
「ソロモン自由同盟領域まで運ぶのが一番報酬がいいな。マーロンで運べる量だしの」
源三郎はひとつの密輸ミッションを受ける。
ミッション内容はソロモン自由同盟領域にある惑星まで無認可の医薬品を輸送する。
目的地まで無事に運べば報酬が最低500万クレジットになる。
「こいつを貰おうか」
「商品はお前の船に運んでおく。見つからないようにな」
演出なのかミッション名と同じカクテルが提供されるので、源三郎は景気づけに一気に飲み干すと、船に乗って目的地へと向かう。
「此方はソロモン自由同盟軍。違法な物品を所持してないかこれより臨検を行う。速やかにエンジンを停止してスキャニングを受け入れるように。呼び掛けに応じない場合は実力行使及び、指名手配犯として賞金をかける」
源三郎がソロモン自由同盟領域にワープアウトすると、タイミング悪く軍の巡回と出会ってしまう。
「さて、隠しコンテナとかの性能はどうかのう………」
エンジンを停止して軍からのスキャニングを受ける。
取りあえず前回の注目度は時間経過で
消えており、問題はない。
「センサーに反応無し。違法な物品を持ち込んでいないようだ。ようこそソロモン自由同盟領域へ、よい旅を」
「ふう………緊張したわい」
違法な積み荷は検知されず、ソロモン自由同盟軍は別れの挨拶をすると巡回ルートに戻る。
源三郎は深いため息を吐いて額の汗を拭う仕草をするとエンジンを再起動して目的地へと向かう。
目的地はゼノア星系にあるリーンと言う惑星。
源三郎が惑星をスキャンすると鉱物資源が豊富だが大気はかなり薄く、宇宙服を着た鉱山労働者ぐらいしか住んでいない星とテキストで説明される。
源三郎は惑星に着陸して、居住拠点へと向かう。
「エアロック式のドアか」
居住拠点の入り口はエアロック式になっており、真空状態で待機室に入り、空気を注入して気圧を調整すると鉱山労働者が住んでいる居住エリアに繋がるエアロックドアが解除される。
惑星リーンの居住拠点はかつては採掘場で、枯渇した坑道を補強して酸素を流し込んで居住拠点に改装した。
そのためか所々剥き出しの土壁があったり、かつては採掘した鉱石を運ぶ線路やリフトの跡があった。
「納品先はビーナススマイルと言う酒場だったな」
源三郎は案内板を見ながら補強された坑道を歩いていく。
時折ここの住人か薄汚れた宇宙服の住人や掃除用のドローンとすれ違う。
「ここか」
ビーナススマイルは奥まった場所にあり、鉱山労働者が多数酒を飲んでたむろしている。
「旅行者かい?」
「わかるか」
「そりゃね。ここは鉱山労働者しか来ないし、あたしはあんたはみたことない。それに宇宙服も綺麗だしね。観光するような場所じゃないよ、ここは」
源三郎がバーカウンターに近づくと、サルーンガール姿の女性がたばこを吸いながら話しかけてくる。
その声は酒焼けしてるのか凄いがらがら声だった。
「こんな場所になんのようだい?」
「納品じゃよ」
源三郎がそう言ってブレスレットを見せると、サルーンガールが源三郎のブレスレットにアクセスしてくる。
「なんだい、業者さんかい。注文の品は見つからなかったかい?」
「見つかってたらここにいないぞ」
「それもそうだね。助かるよ、そろそろ嗜好品がきれそうだったからね。代金振り込んだよ」
サルーンガールとの会話を終えると密輸ミッションは終了して報酬が支払われる。
「ふむ、注目度は8%か。修正前はかなりおかしかったんじゃな」
ミッション終了と同時に注目度が8%上昇したとシステムメッセージが表示される。
「せっかくだし、何か買っていくかの?」
ミッションのついでとばかりに源三郎はマーケットを覗く。
「採掘惑星とあって鉱石がかなり安いの買っていくか。逆にこっちは食料を高く買い取ってくれるのか」
交易用の鉱石がかなり安く、源三郎はコンテナ限界まで購入すると惑星リーンから飛び立ち、連邦領域にあるステーションで売却、代用食品を購入して自由同盟領域の惑星リーンで食料を売却する。
「かなり儲かったのう」
「ユーザー、購入制限時間を短縮できる課金アイテムがありますが、いかがですか?」
「いらん」
源三郎が購入制限限界まで交易を繰り返し、かなりの儲けを出す。
1日の交易品購入制限限界まで達成するとサポートロボットのロボが課金アイテムを勧めてくる。
「余裕もできたし、ハウジングに凝ってみるかのう」
「それでしたらユーザー、このバベルステーションの不動産で新しいルームが売りに出されています」
「ふむ?」
源三郎がハウジングを口にすると、ロボが部屋が売り出されていると知らせてくれる。
「不動産というとブレイドの所か?」
「そうなります」
源三郎がクエストの報酬で今のルームをくれたNPCの名前をだすと、ロボが肯定する。
「ふーむ、覗いてみるか」
源三郎はバベルステーションのマップを開いて、ブレイドの不動産に向かう。
「いらっしゃいませ! おや、あなた様でしたか。本日はどのようなご用件で?」
ブレイドの不動産はバベルステーションでも比較的綺麗な区域のビジネスエリアにあった。
店に入ればブレイドが営業スマイルで応対してくれる。
「新しい部屋を売り出したと聞いての」
「ええ、ええ、ありますとも! 友人を助けてくれた貴方ならサービスさせて貰いますよ」
源三郎が部屋を見にきたとのべると、ブレイドのクエストをクリアしたお陰が、部屋の購入代金を割り引いてくれると言う。
「どうぞ、こちらのカタログを」
ブレイドはホログラムのパンフレットを渡してくる。
「現在当不動産が取り扱ってる部屋はスモール、ミドル、ロング、この3つのタイプのルームになります………がっ! お客様には特別にゴージャスルームもご紹介します!!」
ブレイドが部屋を紹介してくれる。
スモールはクエストでもらったルームと同じ広さ、ミドルはスモール2つ分、ロングはスモール3つ分の広さを持つ部屋。ゴージャスルームはロングルームに同じサイズの庭がつく。
「どれも殺風景じゃのう………」
「そこは別途料金でテーマに合わせた内装を施します」
「ほう?」
「まずはモダンルーム。かつて地球で流行った内装です」
ブレイドに紹介された部屋はどれも窓もないコンテナルームのような殺風景で、源三郎は難色を示すと、ブレイドは手元のタブレットを操作して、ルーム内の内装を2000年代の一般的なコンクリート家屋の内装に変化させる。
「壁紙のカラーなど幾つかパターンがございます」
「ほう、他には?」
「はい、此方の一覧表をご覧ください」
ブレイドは手元のタブレットを操作してテーマルームの一覧を源三郎に見せ、源三郎は昼食の時間まであれこれと内見を続けた。
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