第38話 お爺ちゃん、私設刑務所へいく その3


「畜生! ここまでこれたのに死ねるかよっ!!」


 自暴自棄になった脱獄囚の一部が銃を乱射しながら所長に突撃する。


「次はお前だっ!」

「ひっ!?」


 脱獄囚の攻撃はパワーローダーのバリアに阻まれ、所長はローラーダッシュで囚人達に距離を摘めると踏み潰して殺していく。


「あれ倒せるの?」

「あのパワーセル付近にパワーローダーが近づいたら、セルを破壊してください! 過電圧で機能停止させればバリアと行動が停止します!」


 彼方が所長を指差してモルガンに聞くと、モルガンは暴れる所長の背後にあるオブジェクトを指差して叫ぶ。


「囮はわしに任せろ」


 源三郎は刀を抜いて所長に向かって走り出す。


「ええいっ! 貴様らも俺に逆らうのかっ!」


 所長は右腕のガトリングを源三郎に向けて銃身回転させる。


「うおおおおっ!!」


 源三郎は途中で軌道を変えて、第2独房棟を一周するように全力で走る。


「ちょこまかと!」

「しょっ、所長っ! こっちにはみか───」



 所長はイライラしながらガトリングを射ち続けながら源三郎を追いかけ、隠れていた自分の兵すら巻き込んでいく。


「ええいっ! 逃げるなっ、クソジジイ!!」

「だが断る!」


 所長は味方を巻き込んでも動揺した様子もなく、ガトリングを撃ち続けながら源三郎を追いかける。



「今だよっ! 一斉射撃っ!!」

「うん!」

「お任せください!」


 源三郎を追いかけるのに夢中になっていた所長がパワーセルに近づいたのを確認すると、彼方の号令と共にノエルと鈴鹿が道中ドロップ品から手に入れた銃器でパワーセルを攻撃する。


「しっ、しまった!?」


 パワーセルが破壊され、爆発音と共に放電が発生したかと思うと所長が操縦するパワーローダーが過電圧を受けて機能停止する。


「キィィイエエエエッ!!」

「くそっ! 動け動け動けっ!!」


 源三郎が猿叫をあげながら蜻蛉の構えで突撃して攻撃する。

 所長は必死に復旧させようと操作盤を弄ったり、苛立ちながら殴って八つ当たりしている。


「私達も攻撃だよ!」

「オッケー!」

「参ります!」


彼方達も自分が持ってる火力の高い武器で所長に攻撃を加え、所長のHPを削っていく。


「このっ! ゴミムシどもがぁっ!!」

「やばっ! 全員隠れて!!」


 所長は集中砲火を浮けていたが、パワーローダーが再起動すると唾を撒き散らしながら叫び、ガトリングを彼方達に向けて攻撃する。


 彼方達は咄嗟に遮蔽物に隠れるが、弾幕の嵐から身を隠す以外何も出来なくなる。


「わしを忘れておらんかの?」

「ぐっ! なぜダメージをあたえられる!?」


 死角からパワーローダーの足を斬りつける源三郎。

 バリアを展開していたのにダメージを浮けたことに動揺が隠せない所長は狼狽する。


「焼き殺してやるっ!」

「おっと!」


 所長は右手のガトリングは彼方達に向け、左手の火炎放射器を源三郎に向けて攻撃するが、源三郎は炎が噴射される前に跳躍してパワーローダーの左腕に飛び乗って回避する。


「突牙!」


 源三郎は霞の構えを取ると、技名を叫びながらパワーローダーの左腕を駆け登り、所長本体に刀を突き刺す。


「ぐおおおおっ!? こっ、この私がっ! この私がこんなところで終わるわけには………っ!」


 所長本体が弱点だったのか、刀を突き刺した瞬間クリティカルのエフェクトが発生して大ダメージを与え、パワーローダーがよろけて攻撃が止まる。


「隙ありです!」


 パワーローダーがよろけた先には下手のパワーセルがある場所で、ドロップ品の狙撃銃に持ち替えた彼方がパワーセルを撃ち抜く。


「ちくしょおおおお!」


 パワーセルが破壊されて発生した放電によってまたパワーローダーが過剰電圧で機能停止に陥る。


「しまいじゃ! 十文字!!」


 源三郎は上段の構えから所長本体を縦一文字に斬り、持ち手を変えて構え直すと横一文字に斬る。


「俺は………俺はこんな所で終わる人間じゃ───」


 源三郎の最後の攻撃でヒットポイントがなくなった所長は最後の言葉を言いきる前にパワーローダーの爆発に飲まれる。


「おおっ! 大量のスキルチップに設計図じゃ!」

「こっちはレベル3ハザードに耐えれる宇宙服だよ!」

「私もレアリティの高い武器が入った!」

「これはレアなんでしょうか? 地上車両の設計図と装甲などの設計図が手に入りました」


 私設刑務所所長を倒して、その残骸からドロップ品を回収する源三郎達。

 所長はボス扱いだったのか、レアリティの高いアイテムのドロップを手にいれるが、その中で鈴鹿は自分が手に入れた地上車両の設計図の希少性がわからず首をかしげる。


「宇宙船じゃなくて?」

「はい、設計図に地上車両って書いてあります」

「あ、これ惑星探査探索に使うんだってさ。徒歩だとしんどいもんね」


 彼方と鈴鹿が地上車両設計図の用途に悩んでいると、ノエルが配信視聴者のコメントを見つけて用途を説明する。


「オープンベータ時代は徒歩のみでしたからねえ」

「惑星探査も徒歩でやるのがめんどくさいからみんな放置してたもん」

「惑星調査10%で断念した」



 彼方達はオープンベータ時代の話で盛り上がり、配信コメント欄もオープンベータで惑星探索に手を出した人の苦労話で盛り上がる。


「思い出話はそれぐらいにして、脱出するぞ」

「はーい!」


 源三郎が手を叩いて注意すると、彼方達は遠足の子供のように声を揃えて返事をして手を上げる。


「まだクエストは終了じゃないようじゃな!」


 源三郎達が船に乗ってレオンハートの私設刑務所から脱出しようとすると、アイオブヘブンの宇宙船がワープアウトしてくる。


 クエスト内容も【アイオブヘブンの戦闘船を破壊するか、宙域から脱出しろ】に更新される。


「ふーむ、みたことない船じゃな」

「スキャニングしたらノエスタと言う爆撃機タイプの宇宙船です。スピードは遅いですが、火力と防御力は高いです」


 敵の宇宙船は球状の胴体に戦闘機のような翼の生えた宇宙船で、両翼には合計4門の砲塔が搭載されていた。


「ロックアラート!? ミサイルくるよ!!」

「どっ、どうしよう!?」

「ジャミングドローン展開します。ジャマーで命中率下げますから逃げてください」


 ノエルが警告すると同時に、ノエスタからミサイルロックされた警報がコクピットに鳴り響くと同時に三機のノエスタからミサイルが発射される


「ドローン展開!」


 鈴鹿のホーネットはジャミングドローンを展開しながら回避行動をとる。


「ひええええっ!?」


 彼方が操るシューティングスターはそのスピード性能でミサイルから逃げるが、執拗に追いかけてくるミサイルに悲鳴を上げる。


「みっ、ミサイルで迎撃!」


 ノエルのケレンは自身もミサイルを発射して撃ち落とそうとする。


「ぬうっ!」


 源三郎の悟堂は剣と盾で迫りくるミサイルを防ごうとするが、爆発の余波でバリアにダメージが入る。


「お返しだー!」


 ミサイルの推進材が切れるまで逃げ回っていた彼方は大きく弧を描いてノエスタの上部からレーザーを照射していく。


 彼方の攻撃は命中するが、爆撃機の厚い装甲であまりダメージを受けていない。


「攻撃ドローン展開!」


 鈴鹿はホーネットの下腹部からエイの形をした攻撃ドローンを次々と射出していき、攻撃をくわえる。


「ミサイル発射ーっ!」


 ノエルもロック完了した敵機にむかってミサイルを撃ち込んでいく。


 ノエスタはスピードが遅いために回避しきれず、バリアと分厚い装甲で攻撃に耐える。


「隙ありじゃ!!」


 彼方達の攻撃を受けて隊列を崩したノエスタの一機に源三郎が操縦する悟堂が肉薄してグラップラーアームが握る剣で攻撃する。


「ぬうっ! まだ落ち───ぐぬっ!?」


 源三郎の一撃を受けてバリアをダウンさせたがノエスタはまだ健在、それどころか粒子ビームで反撃して悟堂のバリアを削っていく。


「これバラバラに攻撃してたらこっちが押し負けちゃう! 皆、マーカーのつけた敵に集中砲火!」

「わかりました」

「オッケー!」

「心得た!!」


 ノエスタとの戦闘は鈴鹿のジャミングドローンのお陰で何とか一進一退の拮抗を保っている。


 彼方はノエスタの一機にマーカーをつけて集中砲火を決行する。


 マーカーを付けられたノエスタは源三郎達の集中砲火を受けてアーマーを剥がされ、遂に本体にダメージが入り始める、残り二機のノエスタが救援に入ろうとする。


「させんっ!」


 源三郎が操縦する悟堂が装備を捨てて、グラップラーアームでノエスタの翼を掴んで移動を妨害する。


「ぬうううっ!」


 グラップラーアームに過剰な負荷がかかっているのか、異常を知らせるアラームがコクピット内に鳴り響く。

 源三郎は更にアフターバーナーを起動させてノエスタの動きを妨害する。

 その間もオートタレットはチクチクとノエスタを攻撃してバリアを減退させていく。


「皆、お爺ちゃんが足止めしている間に倒すよっ!」

「はいっ!」

「すぐに駆けつけますから、耐えてください!」


 彼方達は一機のノエスタに向けて集中砲火すると、これまでの戦闘でダメージが蓄積されていたノエスタは遂に爆発四散する。


「しまった!?」


 グラップラーアームで二機のノエスタを押さえていたが、遂に負荷が限界を超えたのか、両手のグラップラーアームが根本から折れる。


「うおっ!? おあおおおおっ!!?」


 源三郎の悟堂と二機のノエスタは一気に拘束から解放された為に姿勢制御が間に合わず、ネズミ花火のようにくるくると回転して宇宙空間を暴れまわる。


「ミサイル全弾発射!!」


 そんな最中、ロック完了したノエルがミサイルを全部撃ちつくし、無数のミサイルの雨を浴びた二機のノエスタが爆発四散する。


「お爺ちゃん、大丈夫?」

「なっ………なんとか………さすがに気持ち悪いわい」


 しばらく回転していた悟堂も何度もスラスターを噴いて姿勢制御を取り戻す。


「どうやらこれで戦闘は終了のようじゃの」


 ノエスタ三機を倒したらクエスト内容が【バベルステーションに帰還する】に変更され、源三郎達はドロップ品を回収してバベルステーションにワープする。


「いやはや、こんなことになるとは思わなかった。申し訳ない」


 バベルステーションに帰還すると、モルガンが謝罪する。


「私は祖父の遺品を解析して、このデータストレージとカードキーを調べてみる。今回は本当にありがとう。君達がいなければ私はまた浚われるところだった。これが報酬だ」


 モルガンが礼を言って報酬を渡してくるとクエストが完了する。


「さて、クエストも終わったし、今日の配信はここまで! また明日配信するのでみにきてね!!」

「面白かったらチャンネル登録と高評価よろしくお願いします」

「また明日もよろしくね!」


 クエスト終了と同時に彼方達は配信の締めの挨拶に入り、スパチャコメントに返事していく。


(明日はメタボーマンさんがログインしたらアタマンティウムについて聞いてみるかの)


 源三郎は明日の予定を考えながら彼方達とわかれるとログアウトした。


 

 

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