第37話 お爺ちゃん、私設刑務所へいく その2


「こちらです」


 案内人がエアロックを解除して開けたドアの先には源三郎達が入ると少し狭く感じる程度の広さをもつ部屋だった。


 部屋の中央には一人用の椅子とテーブル、テーブルの上にはモルガンの祖父の遺品と思われる荷物がおかれていた。


「この服は確かに祖父の物です。二度と見たくないと思っていたのに………」


 モルガンは遺品を確認して心底嫌そうなため息を漏らす。


「これは………箱? DNAロックされている?」


 モルガンは隠し財宝のヒントになる遺品がないかと整理していると、手持ちサイズの金属の箱を見つける。


「DNAロック?」

「ユーザー、DNAロックは遺伝子登録した本人か、許可された親族以外は開けられない鍵です」


 源三郎が疑問を呟くと、サポートロボットのロボがDNAロックについて説明する。


「親族のアクセスを確認、ロック解除します」


 モルガンが箱に手を置くと、電子音声と同時にカチッとロックが外れる音がする。


「これは………データストレージとカードキー?」


 モルガンが蓋を開けると、PADとカードキーが入っていた。


「パスワードロックがかかって中身がみれない」


 モルガンはPDAを操作するがパスワードがわからずPDAの中身を確認できない。


「ちょっと見せて」


 チームの中でセキュリティスキルが一番高いノエルがPDAにアクセスしようとする。


「あ、これ多分クエストか何かでロック解除されるやつだ。スキルじゃダメって言われた」


 ノエルはジェスチャーでお手上げと言いながらPDAをモルガンに返す。


「パスワードのヒントになりそうなものは何処にもないな。これは専門家にロックを解除してもらうしかないか」


 モルガンは遺品を掻き分けてデータストレージのロックを解除する方法がないか調べてみるが、手がかりを見つけられず自分でロック解除を諦めた。


「もうここには用はないです、帰りましょう」


 モルガンは祖父の遺品を纏めると帰ろうとするが………


「どういうつもりですか?」


 部屋を出ると、警備兵達が銃口をこちらに向けて道を塞いでいた。


「そのデータストレージとカードキーを渡して貰おうか。君達も命が惜しいだろう?」


 スピーカーから威圧的に話しかけてくる人物がいた。


「わかった………渡すから我々の命を保証してくれ」

「もちろんだとも、健康な囚人は金になるからな」

「なっ!? こんなことして連邦政府が黙っていないぞっ!」


 源三郎達の目の前でモルガンとスピーカーの主が問答を始める。


「なんかムービーシーンみたいなイベントが始まったね」

「クエストも成り行きを見守るって内容に変わりましたし」

「ここから何が起こるんだろうね?」


 モルガンとスピーカーの主との会話を他所に、彼方達が雑談を始める。


「お前達、取りあえず何時でも戦える準備はしておくようにな」

「はーい」


 引率の先生のように源三郎が軽く注意すると、彼方達も気楽に返事をする。


「もういい! セキュリティ、あいつらを拘束しろっ!」


 モルガンとスピーカーの主との交渉は決裂したのか、スピーカーの主は激昂したように源三郎達を捕まえろと怒鳴り付ける。


 待合室の前にいた兵士達が源三郎達を拘束しようと行動を起こした瞬間、爆発が起きて天井が崩れ、兵士達は瓦礫の下敷きになる。


「何事だっ!?」


 突然の爆発は刑務所側も寝耳に水だったのか慌てた様子で状況を把握しようとする。


「報告します! 奴隷回収船に偽装したアイオヴヘブンの襲撃です!!」

「それだけでこんな爆発が起こるかっ!!」

「内通者がいて爆弾を仕掛けられていたようです! 現在内通者達とセキュリティが交戦中!!」


 施設内のスピーカーを切り忘れてるのか、この私設刑務所内で起きてる出来事が全部聞こえる。


「報告します! ネットランナーによるハッキングを受け、収監している囚人全員の急速解凍が行われています!!」

「なんだとっ!?」

「おい誰だっ! 武器庫のドアロックを解除したのは!!」


 次々と聞こえてくる報告内容から私設刑務所内の状況はかなり混乱しているようで、クエスト内容も【混乱に乗じて私設刑務所から脱出する】に更新される。


「よしっ! 脱出するぞ!」

「うんっ!」


 クエストを確認した源三郎達はドッキングベイに向かって走り出す。


「脱走者だ!」

「最初から捕まっとらんわい!」


 ステーション内の通路を走っていると、進行方向からレオンハートのマークがついたコンバットスーツの集団がやってくる。


「キィィイエエエエッ!!」

「つっこんでくるぞ! 撃て!!」


 源三郎は刀を抜刀して猿叫びをしながらレオンハートの集団に突っ込んでいく。

 レオンハートの兵士達は銃で応戦するが、源三郎は左右に跳び跳ねたり、スライディングして銃撃を回避して次々と斬っていく。


「お爺ちゃん、残りは任せて」


 攻撃が浅くて生き残った兵士は八面六臂に暴れまわる源三郎に銃口を向けるが、彼方達が遮蔽物から身を乗り出して攻撃する。


「こちら第7独房棟! 囚人達が武器庫を占拠! 押さえきれません、応援をっ!!」

「こちら第18独房棟! 爆発で隔壁に穴が空いて囚人や仲間が外に吸い出されていってる! たすけっ、ウワーッ!!」

「こちら第48独房棟! 火災が発生! 何で消火装置が作動しないんだっ! 俺達を焼き殺す気かっ!!」


 源三郎達がレオンハートの兵士達と戦ってる間も刑務所内のスピーカーから各エリアの状況が報告されていく。


「チェストォォォォッ!!」

「グハッっ!?」


 最後の兵士を倒し源三郎達はドロップ品や道中のコンテナからアイテムを回収しながらドッキングベイを目指して走る。


「お爺ちゃん、あれ!」


 彼方が窓の外を指差すと、レオンハート側の人形ロボット兵器が出動して、両手のバルカン砲で脱走した囚人達を屠っていく。


 囚人達も武器庫から奪った武器で応戦するが火力が低いのか殲滅されていく。


「多分あれと何処かで戦うんだろうなあ」

「ノエル、フラグやめて」


 囚人達がやられていくのをみていたノエルがボソリと呟き、彼方がツッコミをいれる。

 コメント欄でもフラグ乙や、ロボットと戦うのに俺の魂を賭けるなどいろんなコメントが書き込まれていく。


「取りあえず、前哨戦のようじゃぞ」


 第2独房棟に到着するとレオンハート、脱走した囚人、アイオブヘブンの三つ巴の戦いに源三郎達が飛び込む。


「なんだあいつらはっ! 囚人の仲間かっ!?」

「レオンハートでもアイオブヘブンの奴らでもねぇ奴らが来たぞ! きっと俺達を実験台に使おうとした企業だ! 殺せっ!!」

「ターゲットのモルガンだ! 他の奴らはともかく絶対にころすなっ!」


 源三郎達が飛び込んだのをみて、レオンハート、脱獄した囚人、アイオブヘブンが叫び、襲いかかってくる。


「混沌としとるのう」

「お爺ちゃん、私たちに任せて!」


 源三郎は迎え撃とうと刀を構えるが、彼方達がハイヴグレネードを敵陣営に次々と投げ込む。


「グワーッ!」

「ギャアアア! 誰か消してくれ!!」

「うわ、馬鹿っ!? こっち来るな!!」


 ハイヴグレネードがら飛び出した蜂型ドローンが次々と纏わりついて自爆して敵を火ダルマにしていく。


「畜生! こんなところにいられるかよっ! さっさと船を奪って───」


 脱獄した囚人の一部が戦闘を放棄してドッキングベイに走り出す。

 エアロック式のドアを開けた瞬間、轟音と共に血煙に変わる。


「どいつもこいつも私をコケにしやがって!!」

「所長!!」


 エアロック式のドアの向こうから姿を表したのは着込むというより乗り込む形の大型パスワードスーツに搭乗した刑務所の所長の姿だった。

「まずはお前らから処分だ! 死刑死刑死刑!!」

「ギャー!!」

「アアアーッ!!」



 ズシンズシンと地響きを立てて第2独房棟に入り込んでくると右手のガトリングと左手の火炎放射器で脱獄した囚人とアイオブヘブンの構成員達を葬っていく。


「所長! 味方が巻き込まれていますっ!」

「ふんっ! この程度回避できない弱兵などいらんっ!」


 中にはレオンハートの兵士も巻き込まれていたが、所長は味方すら平然と巻き込んで殺していく。


「あっ、あれは軍用の拠点防御パワーローダーです! スピードはないですが、パワーと防御力は洒落になりません!!」


 後方に隠れていたモルガンが所長の姿をみて大型パワードスーツの正体を叫んだ。


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