第35話 お爺ちゃん、カンパニーに加入する
「お爺ちゃん、本当にカンパニー設立資金用意できたのっ!?」
「うむ」
ログインした彼方が驚いたように大声を上げる。
源三郎は祖父の威厳を保てたのか上機嫌で頷くと、髭を弄る。
「えっと、無理してませんか?」
「そうだよ、結構な大金だよ」
話を聞いていた彼方の友人の鈴鹿とノエルも心配そうに話しかけてくる。
「大丈夫じゃよ、わしのフレンドさんから教えてもらった金策の輸送ミッションマラソンで貯めただけじゃ」
「金策輸送ミッションマラソン? 密輸じゃなくて?」
彼方が首を傾げて聞き返してくるので、源三郎は今北産業のメタボーマンから教えてもらった金策を話す。
「なにそれ? 密輸よりミッションしたほうが儲かるじゃん!」
「そうですねえ………ちょっとバランスとれてないような」
「まだ密輸スキルが低いからとか?」
源三郎が往復するだけで20万クレジットも儲かる輸送ミッションマラソンの方法を教えると、彼方達は密輸システムのデメリットにたいして不満をのべる。
(確かにたった100万クレジットで注目度60%は割にはあわんのう)
正式サービスが始まって間もないし、バランス調整が甘いか、自分達の密輸系スキルが低いせいかわからないが、おいおい確認しようと源三郎は考える。
「まあ、とにかく資金は貯まったんじゃから、配信でお知らせしたらどうじゃ?」
「うん、そうするね!」
彼方はブレスレットを操作して配信撮影用のカメラを呼び出す。
「皆さんこんばんは! 彼方です!!」
「初めましての方は初めまして、鈴鹿です」
「やっほー、みんな元気? ノエルだよ!」
配信が開始されると彼方達3人はカメラに向かって愛想よく挨拶する。
「今日の配信は、念願のカンパニー資金が貯まったので、カンパニーを設立しまーす! はい、拍手!」
彼方が元気よく今日の配信の趣旨を説明して鈴鹿とノエルが拍手する。
「あ、足りなかった分はお爺ちゃんが頑張ってくれました! お爺ちゃん、ありがとう!!」
「ありがとうございます」
「彼方のお爺ちゃんサンキュー!」
配信視聴者から土曜日は資金不足してなかった?と指摘され、彼方が源三郎が足りない分を補填してくれたことを伝えてカメラを源三郎に向ける。
コメント欄では孫に甘いお爺ちゃんとか、パパ活ならぬ祖父活、孫活とか色々なコメントが書き込まれていく。
「それじゃあ早速カンパニー設立していくね!」
彼方は自分のハウジングルームをオフィス設定にしてカンパニーを設立させる。
「カンパニー名は………」
彼方は勿体つけるように間を空ける。
鈴鹿とノエルもニコニコしていることから事前に3人でカンパニーの名前を決めていたようだ。
「私達のカンパニー名はフリージアです! 花言葉は友情、親愛、純潔なんだよ」
発表と同時に彼方、鈴鹿、ノエル、そして源三郎のネーム表示にフリージアのカンパニー名が追加される。
コメント欄ではおめでとうと言うお祝いのコメントとスパチャの嵐。
「それじゃあまずは、カンパニーを設立したら何が出来るか紹介していくね」
彼方はそう言って、カンパニーウィンドをカメラに映す。
「まずはカンパニーのロゴが作れるね。カンパニー名の前にデザインしたロゴが表示されるみたい」
彼方は上から順番に紹介していくつもりらしく、最初の項目であるロゴ作成の説明から始める。
「カンパニーロゴのデザインはノエルに任せた!」
「オッケー!」
配信視聴者の1人からロゴデザインはどうするのかという質問コメントが書き込まれると、彼方はノエルにデザインを丸投げする。
ノエルも嫌がらずに安請け合いしており、鈴鹿もニコニコ笑みを浮かべてることから、ノエルはそういうのが得意なのかと源三郎は思った。
「次に税金というのがあって…………サポートロボットの説明によると、カンパニーに所属したメンバーがミッション報酬とかお金を手に入れると税金分引かれるみたい」
「それだけだとなんだか損に聞こえるね」
彼方がサポートロボットの解説を聞きながらカンパニーシステムの税金について配信視聴者達に説明する。
「ええっと………税金として徴収されたお金はカンパニーウォレット、つまり会社資金の貯蓄にプールされて、カンパニーとして活動する際の資金に出来るんだって。あと税金も0~99%まで決めれるって」
ノエルが損に聞こえると言うと、彼方は税金で徴収されたお金がどうなるか説明する。
「あ、カンパニー専用のチャットチャンネルと掲示板にメーリングリストがついかされて、それからホームページのリンクにカンパニーの説明文、メンバーにアクセス許可範囲を決めれるみたい。取りあえずカンパニー税金は5%ぐらいでいいかな?」
彼方はカンパニーウィンドに表示されている各項目を指差しながら説明を続ける。
「あとお金払うことでカンパニーのメンバー上限が拡張されるって。今は20人までで、次は40人までだってさ」
「だいたい他のVRMMOのギルドシステムにある機能はついてるみたいですね」
「彼方、ギャラクシースターオンラインのギルド特有の機能とかはある?」
「えーと、ちょっと待って! かなり項目が多いの!」
カンパニー機能の説明を聞いていた鈴鹿とノエルがギャラクシースターオンライン特有の機能がないか彼方に質問すると、彼方はわたわたしながらカンパニー項目を確認していく。
「あっ、あった! なんかオフィスがあるステーションに投資出来るみたい!」
ギャラクシースターオンライン特有の機能を見つけた彼方は興奮した様子でカンパニーウィンドを指差して騒ぐ。
「投資するとどうなるんです?」
「えっと………サポートロボットの説明によると、幾つか投資する部門があって、マーケット関連だと新しい商品が増えたり、商品の在庫量が増えたりするって。投資最低額は100万クレジットで1口からだってさ」
(YTさんが言ってたの、この事か)
興味が湧いたのか鈴鹿が彼方の肩越しにカンパニーウィンドを覗き込んで質問し、彼方がサポートロボットとカンパニーウィンドを交互に確認しながら投資について説明する。
源三郎は輸送ミッションでお世話になった今北産業カンパニーのYTが何度か口にしてたお金がかかるの意味を理解した。
「他の部門はどんなボーナスがあるんじゃ?」
「ちょっと待ってね………研究やサービスとか色々あって、投資したらカンパニーメンバーに色々ボーナスがあるみたい。内容量が多すぎて口頭じゃ説明無理!」
源三郎が他の投資について聞くとキャパオーバーなのか、彼方は説明を諦める。
「あと、惑星開拓権も買えるって、これは所属するカンパニーオフィスがあるステーションの星系限定で開拓権利を購入したカンパニーが惑星をテラフォーミングしたりして街を作れるみたい」
「へー、すごい夢が広がるね!」
彼方は投資以外のギャラクシースターオンライン特有のシステムを説明し、話を聞いていたノエルが目を輝かせる。
「タスケン星系の惑星だと、最安値の数千万クレジットでアステロイドベルトにある小惑星を改装できるとか。最初から空気など地球に近い環境の惑星だと………ごめん、100億単位で販売されてる」
「高っ!?」
試しに開拓権のウィンドを開いた彼方はその金額を見て表情を曇らせる。
金額を聞いた源三郎達もその値段に驚愕し、配信コメント欄では無理ゲーとか、同盟みたいな複数のギルドで共同開拓がコンセプトじゃないかとか、惑星開拓はギャラクシースターオンラインのエンドコンテンツでは?なんてコメントが次々と書き込まれていく。
「取りあえずカンパニーは設立したから、投資とかしてカンパニーとステーションを発展させていこう! 最終目標は惑星開拓だーっ!!」
「「「おー!」」」
カンパニー設立と項目の説明を終えた彼方が拳を上げてカンパニーの次の目標を掲げる。
源三郎、鈴鹿、ノエルは彼方に賛同するように続けて拳を上げた。
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